昨日つぶやいた内容を掘り下げる形で、本日のブログエントリーをアップします。
レコードメーカーA&Rやライター、コンパイラーそしてDJ等で活躍し、RHYMESTERのメンバーが所属した大学音楽サークルの先輩でもある細田日出夫さんのツイートに、色々と考えを巡らせました。
DRAKEがビルボードHOT100のTOP10中9曲エントリーって確かに凄いけど、こんなことが頻繁に起こるチャートになっていくとそれはそれで指標の意味合いが変わって面白みは減退していくことになりそう。集計方法は追い追いまた変わるのかな。#drake #CertifiedLoverBoy #billboard https://t.co/lSLgUVMq55
— Hideo JAM Hosoda (@hyperjam) 2021年9月18日
細田さんが取り上げたのは、9月18日付米ビルボードソングスチャートにおけるドレイクのトップ10ほぼ独占という状況。この点については速報が登場した際、ブログにて取り上げています。
The #Hot100 top 10 (chart dated Sept. 18, 2021)
— billboard charts (@billboardcharts) 2021年9月13日
細田さんのツイートに対して音楽関係者の方による賛同コメントもみられるのですが、個人的には必ずしも同種の見解を抱いておらず、引用RTの形で私見を記載しました。
毎週チャートを追いかける身として言えることは、今後も同種の現象は起きます。ドレイクの影響力は続くでしょうし、ストリーミングが最重要指標ゆえです。
— Kei (@Kei_radio) 2021年9月18日
重要なのは、次週急落曲が多いだろうこと。チャートの仕組み、からくりを特に音楽関係者が知る必要があると考えます。 https://t.co/PufsMwGrV8
『チャートの仕組み、からくりを特に音楽関係者が知る必要がある』というのは厳しい文言かもしれません(申し訳ありません)。しかしドレイクの寡占やBTSの10週1位も、各指標の数値をみれば今後の動向はみえてきます。それを音楽関係者が適切に分析し、真のヒット曲を示すことこそが重要だと考えます。
— Kei (@Kei_radio) 2021年9月18日
ストリーミング(米においてはサブスクに加えて動画再生も該当)が強い影響力を誇る以上、ウェイトが変わっても集計方法が変わる可能性は高くないというのが私見です。
— Kei (@Kei_radio) 2021年9月18日
無論米チャート自身も自問自答する必要がありますが、チャートを冷静に分析し真のヒット曲を提示する音楽関係者が必要だと考えます。
長文となってしまいましたが、細田さんより返信をいただきました。この場を借りて、あらためて感謝申し上げます。
いえいえ、とんでもないです。チャートをヒット曲瓦版として見てきた立場からすれば、アルバムを出したアーティストによる上位独占は実際にそれが事実でもそれだけチャートから他のヒット曲が押し出されることになるので、チャートから瓦版的な意味合いが薄れてつまらないな、と思っているんです。 https://t.co/07SB5gThvg
— Hideo JAM Hosoda (@hyperjam) 2021年9月18日
実際に押し出された曲はあります。特に大きいのは米ビルボードが独自に設ける、新陳代謝を目的としたリカレントルール*1が適用された曲。この2週においてはザ・ウィークエンド「Blinding Lights」や新鋭R&B歌手のギヴィオンによる「Heartbreak Anniversary」等が姿を消してしまいました。
このやり取りを通じて感じたのは、①米ビルボードソングスチャートの中身を知ること、②チャートを読み解いた上で真のヒット曲を音楽に精通した方が伝えること、そして③米ビルボードが常にチャートを自問自答しブラッシュアップしていくことという3点の重要性。言い換えるならば理解、周知そして提言が大切だということです。
米ビルボードソングスチャートがどの指標により構成され、それぞれの指標がどのような性質や動きを持っているかについては下記ブログエントリーにて解説しています。
米ビルボードソングスチャートを構成する3つの指標のうち、最も影響力が大きいと言えるのがストリーミングであり、サブスクや動画の再生回数に基づいています。注目作品がリリースされるとまずはサブスクや動画で聴く(観る)という方が多く、ソングスチャートにおいて高位置に初登場するのはデジタルの瞬発力が大きいためです。
同じくデジタル(フィジカルも含みますが)のダウンロードも瞬発力が大きい反面、ストリーミング以上に翌週の反発が大きいのも特徴。一方でラジオはエンジンがかかりにくく徐々に上昇する特徴のために登場2週目はデジタルの反発をラジオで補完できず、総合チャートで好位置に初登場を果たしても翌週急落する曲が少なくないのです。
直近の例としてカニエ・ウェストを取り上げます。アルバム『Donda』が初登場で首位を獲得した9月11日付の米ビルボードソングスチャートでは、収録曲のうち23曲が初登場を果たしています。
The #Hot100 top 10 (chart dated Sept. 11, 2021)
— billboard charts (@billboardcharts) 2021年9月7日
しかし翌週は半分以上にあたる12曲が100位以内から消えます*2。しかも前週トップ10入りを果たした「Hurricane」は6→29位、「Jail」は10→58位に急落しているのです。これは初登場時がデジタル指標群に支えられていたことの証明でもあり、またリード曲をきちんと用意していないがために登場2週目にラジオ局がオンエアを絞り込めていないこともまた言えそうです。
『リード曲をきちんと用意していないがために登場2週目にラジオ局がオンエアを絞り込めていない』という表現を用いたのは、オリヴィア・ロドリゴの例があるため。今年においてドレイク『Certified Lover Boy』(9月18日付 613000)、カニエ・ウェスト『Donda』(9月11日付 309000)に次ぐ3番目の週間ユニット数を6月5日付で記録。デビューアルバム『Sour』の初週ユニット数は295000となります*3。
The #Hot100 top 10 (chart dated June 5, 2021)
— billboard charts (@billboardcharts) 2021年6月1日
アルバムリリースの1週間前に用意した先行曲「Good 4 U」は2位に後退するも、「Traitor」の9位初登場に加えてセカンドシングル「Deja Vu」が13→3位に躍進。そしてデビューシングルにして8週首位を記録した「Drivers License」は24→11位へ上昇しています。
一方で『Sour』の登場2週目では「Traitor」がトップ10落ちの12位、「Drivers License」は13位、「Deja Vu」は8位の一方で「Good 4 U」は2位をキープ。「Good 4 U」はBTS「Butter」にその後も首位の座を阻まれますが、米での大ヒットは指標構成からよく解ります。先行曲を用意し支持されれば、アルバムのチャート登場2週目以降もヒットは継続するのです。「Good 4 U」は次週のチャートでトップ10復帰が見込まれています。
カニエ・ウェストはアルバムからの先行曲を用意せず、オリヴィア・ロドリゴのようなチャートアクションを示せなかったと言えます。ドレイクはフューチャーとヤング・サグをフィーチャーした「Way 2 Sexy」がラジオ局でリード曲扱いとなったことでラジオ指標が集中、またストリーミングが他の歌手よりかなり高いことから同曲をはじめ翌週もトップ10内に残るとみられますが、全体的に急落は避けられないでしょう。
上記ブログエントリーではオリヴィア・ロドリゴ「Good 4 U」の大ヒットと言える理由を紹介する一方で、BTS「Butter」における米ビルボードソングスチャートの指標構成を踏まえてそのヒットの仕方に対する厳しい見方を記しています。「Butter」のヒットは「Dynamite」となぞると捉えており、それゆえにダウンロード指標に特化したヒットの仕方に懸念を抱くのです。
先程の米ソングスチャートについての私見の補足として、#BTS「#Dynamite」がグラミー賞を逃したタイミングでアップしたブログエントリーを紹介します。https://t.co/pz7Y9872XJ
— Kei (@Kei_radio) 2021年9月18日
賞には一部ファンから非難が寄せられましたが、一部音楽関係者の方が受賞確実的なことを述べたのが引っ掛かったのです。
ドレイクの大量エントリーは米ビルボードソングスチャートの特徴ゆえと言えますが、翌週はトップ10が大きく入れ替わるだろうこともまた特徴に因るもの。ゆえに、ドレイクはアルバムが大ヒットしても曲が長期ランクインしない限りは真の社会的ヒットとは言い難いというのが私見です。同時に、10週首位が素晴らしい記録とは言えども、接触指標群に強くないBTS「Butter」が果たして米社会に浸透しているか、疑問を覚えます。
ドレイクそしてBTSに対する自分の見方は、ともすれば厳しすぎるかもしれません。しかしながらこれらはチャートの特徴を知るゆえに断言できることです。
寡占状況はチャートの形骸化と捉えられかねませんが、チャートは様々な理由で成り立っています。特にストリーミングの影響力が強いアメリカにあっては、ストリーミング以上に影響力をもった指標が登場しない限りストリーミングの優位性は変わらないでしょう。ならば、チャートを分析してその特徴(もしくはからくり)を伝え、1週ではなくより長い目で見て真のヒット曲を提示することが音楽関係者には必要だと感じています。
しかしながら、音楽チャートを読む方のすべてがチャートをより長い目で見るという習慣をつけているとは限らないでしょう。そして1週のみのチャートをチェックしてそこから真のヒット曲が理解できることこそチャートの理想であると考えるならば、チャート提示側は自問自答を忘れず、チャートを真の社会的ヒット曲の鑑と言える状況に常にブラッシュアップすることが必要ですし、それを音楽関係者は提言すべきと考えます。
まずは日本時間の明後日発表される9月25日付米ビルボードソングスチャートの動向をチェックすることが必要です。そこでトップ10に返り咲く曲、そしてドレイクの曲の中で勢いを保った曲を確認し、これからのヒット曲を見極めましょう。
なお明日のブログでは、米ビルボードのチャートに対し改善案を提示する予定です。