イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

LINE MUSIC月間ランキング上位を再生回数キャンペーン対象曲が占めたことへの見解、および改善案の提示

LINE MUSICでは毎月上旬、前月の月間ランキングを発表しています。昨日発表された8月度においては私立恵比寿中学「イヤフォン・ライオット」がトップに立ち、Kis-My-Ft2「A10TION」が2位に入りました。

しかしこの2曲には共通の特徴があります。それがLINE MUSIC再生回数キャンペーンの実施と、その終了に伴う急失速です。

 

(なお月間ランキング3位のBE:FIRST「Shining One」についてもキャンペーンが行われましたが、2曲よりは急失速していない、および総合チャートで2週連続トップ10入りしていることを踏まえ、ここでは取り上げません。ただし明日発表のビルボードジャパンソングスチャートでは急失速の可能性も否定できないことを予めお伝えしておきます。前週までの動向は【ビルボード最新動向】ジャニーズ・JO1・BE:FIRST…男性アイドル/ダンスボーカルグループの動向をチェックする(9月2日付)をご確認ください。)

 

 

Kis-My-Ft2はベストアルバム収録曲限定且つ期間限定で、LINE MUSICにのみ解禁。100位以内に7曲を送り込んでいるのはその限定という希少性の表れといえますが、「A10TION」はLINE MUSIC再生回数キャンペーン対象曲であることが功を奏しました。

サブスク再生回数に基づくストリーミングを構成指標のひとつとするビルボードジャパンソングスチャートでも存在感を示した「A10TION」。ですが、8月17日火曜までのキャンペーンが終了するとストリーミング指標が急失速し、総合100位以内在籍はわずか2週に終わっています。

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私立恵比寿中学「イヤフォン・ライオット」についても同様です。一定の再生回数を記録したユーザー全員にプレゼントが当たる企画を用意し、12日間の応募期間に9,999回聴くというハードルも設けられています。それゆえ、コアなファンの熱意を刺激しLINE MUSICで再生回数が増えたことは自明です。

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「イヤフォン・ライオット」もビルボードジャパンソングスチャートで急失速。CHART insightでは青にて示されるストリーミングは3→9位と好調に推移しながら、最新9月1日公開(9月6日付)では300位以内からも姿を消してしまいました。またダウンロード、ラジオおよび動画再生は300位以内に1週登場するにとどまっています。接触指標の急失速と他指標が追いついていないという作品が、ヒット曲と呼べるかは疑問です

 

LINE MUSICの月間ランキングはミュージックマンネットで発表されます*1。これまでも再生回数キャンペーン対象曲がトップ10入りすることは多く、また7月はキャンペーン対象の超特急「CARNAVAL」がトップに立ちましたが、最上位2曲がキャンペーン対象曲で占められ、且つ2曲とも急失速する状況は今年度ではこれまでなかったと言えます。さらに月間首位獲得曲の急失速は2ヶ月連続です。「CARNAVAL」の動向は下記に。

 

実は7月の月間ランキングで2位に入ったBTS「Permission To Dance」も、LINE MUSIC再生回数キャンペーンの対象曲となっていました。

しかし「Permission To Dance」は他のサブスクサービスでも上位に進出し、また7月17日のキャンペーン終了以降も上位にとどまっています。8月のLINE MUSIC月間ランキングでは5位にランクインし、ビルボードジャパンでは引き続き強さを発揮しているのです。キャンペーン終了後も勢いが持続し、他のサブスクサービスや他指標でもヒットして総合で結果を残し続ける曲こそ真の社会的ヒット曲ではないでしょうか。

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8月はオリンピックの影響でサブスク再生回数は減少傾向にあり、それがLINE MUSIC再生回数キャンペーン対象曲の勢いを際立たせたとも言えます。しかし真の社会的ヒット曲は接触指標において長期安定することが、ビルボードジャパンソングスチャートや同チャートのストリーミング指標に含まれるSpotifyの状況から見て取れ、キャンペーン対象曲の動きは不自然と表現していいでしょう。

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ビルボードジャパンはストリーミング指標のチャート紹介時にLINE MUSICの名は出さないまでも、ストリーミングソングスチャートの記事の中で再生回数キャンペーンが影響していることを示すようになりました*2ビルボードジャパンはキャンペーンの存在をはっきり意識し、その影響が大きくなってきたことを感じているのではないでしょうか。

 

ビルボードジャパンは、LINE MUSIC再生回数キャンペーン対象曲のみウェイトを下げる等のチャートポリシー変更を一度検討すべきと考えます。検討した上で現行のままにする可能性もありますが、まずは議論のテーブルを用意してほしいところです。システム的に難しいかもしれませんが、このままでは社会的なヒット曲との乖離はますます大きくなるかもしれません。現状でキャンペーンの影響力は小さくないと感じています。

LINE MUSICに対しても、あらためて私見を記します。

限定解禁にはどのような意図があるかは解りません。サブスクサービスを試すという意味合いもあるでしょうし、フィジカル優先の姿勢もあるかもしれません。しかし限定解禁は届きにくいという側面を持ち合わせていると断言していいでしょう。またLINE MUSICにおける再生回数キャンペーンの実施はコアなファンをも疲弊させかねず乖離、より強い表現を敢えて用いるならば分断を招く可能性もあるのです。

また、独占配信を有益なコンテンツとしてLINE MUSIC側が捉えているならば、その姿勢はいちサブスクサービスには有益でも音楽業界全体にとってはそうとは言えないだろうと、厳しくもそう考えます。レコード会社や芸能事務所もさることながらデジタルプラットフォームもまた、歌手そして音楽業界全体の盛り上がりのためにどうするかをきちんと考えてほしいと思うのです。

難しいことを承知でひとつ提案するならば、曲毎のユニークユーザー数を示してほしいと願います。広くライト層に浸透しているかそれともコアなファンの人気の域を超えないのかが判りますし、1ユーザー当たりの平均再生回数も把握できます。Spotifyでは歌手単位で月間リスナー数が掲載されていますが、より細かなデータを提示することは他のサービスとの差別化の一環となり、ユーザーの信頼を勝ち得る要素となるはずです。

*1:2020年の各月はこちら、2021年はこちらから確認可能。

*2:【ビルボード】BTS「Permission to Dance」がストリーミング5連覇 エビ中「イヤフォン・ライオット」自身初のトップ3入り | Daily News | Billboard JAPAN(8月18日付)では私立恵比寿中学「イヤフォン・ライオット」において『リリースに伴うプロモーション施策』、【ビルボード】BTS「Permission to Dance」がストリーミング6連覇 BE:FIRSTプレデビュー曲が2位に | Daily News | Billboard JAPAN(8月25日付)ではBE:FIRST「Shining One」において『販促キャンペーンも後押し』と記されています。