イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Big Hit Entertainmentの日本でのプロデューサー募集から考える、日本オリジナル曲の”ドメスティック”問題

今朝Twitterのタイムラインに飛び込んできたこちらのツイート、非常に考えさせられます。

たいなかさんが引用したニュースで紹介しているオーディションは下記に。

この中のデモガイドを読むと、明らかにグローバルなサウンドを求める一方で『メロディが鮮明でダイナミックな流れの、起承転結がはっきりとした定型化された曲の構造(A:Verse-B:Pre-Chorus-C:Chorus)の音楽デモはご遠慮ください』とあり、いわゆるJ-Popライクな歌謡曲的メロディの落とし込みを敬遠するという姿勢が見て取れます。これを読み、J-Pop的な作品がダメというものではなく、J-Pop的なものがドメスティックで留まってしまうことを、Big Hit Entertainment側がはっきりと認識しているとのではないか…個人的には強く感じた次第です。

 

 

BTSは「Dynamite」で、アメリカでの本格的な成功の足がかりを築いています。いや、以前も米ビルボードソングスチャートでトップ10ヒットを出してはいたものの、最新9月26日付チャートで「Dynamite」が4週目のトップ10入りを果たしたことで、その認知度は急激に上昇したと捉えています。

アメリカにおいて、「Dynamite」は未だ所有指標であるダウンロードが他の曲より圧倒的に多い一方で接触指標群が弱いという特徴があるのですが、グローバルチャートに目を向けると「Dynamite」は所有より接触指標が強く、すでに世界中では高い人気を誇っていると理解できます。最新チャートにおいてGlobal USで2位、Global Excl U.S.で1位に至れたのはまさに世界規模での人気の表れです。

「Dynamite」はリミックスを合計8種類投入する等、ダウンロード指標上昇策を押し出しておりこのチャートハック的手法に否定的見方が出るかもしれませんが、しかしこの「Dynamite」がロングヒットとなれば今後はダウンロード指標に頼らずもBTSがヒットに至ることが自然になっていくのではと考えます。リミックスの大量投入はある意味、アメリカでの礎を築く策なのかもしれません。

そうなると、BTSは最大の音楽市場であるアメリカでの活動に軸足を置くだろうことが考えられます。 実は「Lights」や「Stay Gold」等日本オリジナル曲も世界中のサブスクサービスで聴くことができるのですが、米Spotifyデイリーチャートでは「Stay Gold」の最高位がグローバル25位・米75位「Lights」 は双方とも200位未満であり、市場の面においても日本オリジナル曲はドメスティック、もしくはガラパゴスと言われてもおかしくない状態と考えれば、日本オリジナル曲を今後用意するとしても世界中でヒットするものを…そう考えるのは自然なことではないでしょうか。

 

 

BTSに限らずK-Popアクトが日本で活動する際、世界展開する曲を日本語化する以外に日本オリジナル曲を用意することが多く行われています。BTSにおいては昨年「Lights」をシングルCDとしてリリースし、日本語化曲が多く収録された日本向けアルバムから「Stay Gold」を配信先行で今夏リリースしました。

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ミュージックビデオの下のグラフは、ビルボードジャパンが提供するチャート推移(CHART insight)。比較的安定したヒットとなってはいますが、現在ヒット中の「Dynamite」と比べると明らかな差が見えてきます。

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黒の折れ線グラフで示された総合チャートにおいて、長くトップ10内にとどまっているかが違いのひとつ。そして。

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紫の折れ線グラフで表示されたダウンロード、青のサブスク再生回数に基づくストリーミング、そして赤の動画再生のみを抽出すると、「Dynamite」に比べて日本オリジナルの2曲のダウンが、特に動画再生において高いことが判ります。無論「Dynamite」の今後の動向をみないと断言はしかねるのですが、しかし日本オリジナル曲は接触指標が強くないことが読み取れるのです。

 

これについて、日本オリジナル曲はシングル曲をCDとしてリリースすることが多くそちらで利益を得るから問題ないという考えがあるのかもしれませんが、その所有指標が瞬間風速こそ強くとも急落すること、同時に接触指標が伴わないことが特徴であり、一方で世界展開する曲は接触指標群が強いために長い目でみればむしろ日本語化の有無に関係なく世界展開する曲のほうがチャートで勝る傾向にあるのです。これについてはIZ*ONEやTWICE等を例に、幾度となく指摘しています。

TWICEを取り上げた際、合わせてNiziU「Make you happy」の動向を紹介し、同曲が脱J-Popな作品ゆえ接触指標群を中心にヒットを続けていることから、『K-PopアクトはJ-Pop要素の強い日本オリジナル曲を出す必要性が低いのではないかと思うのです』と結論付けました。Big Hit Entertainmentの今回のプロデューサー募集におけるデモガイドは、まさにこの点をなぞっていると思うのです。 

 

 

さすがにBig Hit Entertainment側がJ-Popを馬鹿にしているなどとは思いませんが、チャートの面からは日本オリジナル曲が明らかに、世界と日本とのヒットの規模の違いにおいても、そして日本自体での世界展開曲と比べてみても、ドメスティックな動きとなっていることが客観的に証明されていると感じます。これは複合指標に基づくビルボードジャパンソングスチャートにおけるデジタル指標群のみならず、近年洋楽を取り上げることが減ったように感じるラジオにおいてもその傾向が生まれています。

先週2位まで浮上したBTS「Dynamite」が、今週オンエア数こそ減り5位へとダウンしたものの確実な広がりをみせた。再びAM局でのオンエアも獲得しつつ、さらにリクエスト数は先週の2.6倍に膨れ上がり、音源解禁されて以降最多数を集めた。8月17日~8月23日チャートに初登場してからリクエスト数は増加傾向にあり、確実に一般リスナーへの普及が進んでいると言える。

また、今週7位には韓国のガールズグループ“MAMAMOO”のメンバー、Hwa Sa(ファサ)の「Maria」が初登場した。6月30日リリースの配信限定アルバム収録曲で、これまで数は少ないながらオンエアはあったものの、先週から増加。今週いっきに急伸し、リクエストも寄せられた。公式TikTokで同曲のダンスチャレンジが実施され大量再生されるなど、世界的なブームがジワジワと日本へも浸透し始めたのだろう。

BTS同様、こちらもグローバルないわゆる“洋モノ最新サウンド”であり、昨今、日本の一般リスナーから支持を得るのは難しいタイプの音楽だ。これらが突破口になるか、K-POPを機に洋楽に興味を持つリスナーが増え、シーンが活性されることを期待したい。

Perfume首位、バンプ僅差で2位、ミスチル3位初登場、レキシ善戦、K-POP遂に一般層へ普及か【エアモニ】 | Musicman(9月23日付)より

この動きは、ラジオ曲や番組が今の流行をきちんと捉え始めたと言えるかもしれません。

 

最初に紹介したたいなかさんのツイートに対して違和感や不快感を抱く方は、たとえばK-Popを好んで聴く層に、”K-Popアクトの日本オリジナル曲をどう思う?” や ”日本のヒット曲と海外のヒット曲にはどんな違いがあると思う?”と尋ねてみたら如何でしょう。彼らの声から得られるものがきっとあるはずです。また、昨日SKY-HIさんが会社を設立しボーイズグループを募集するとアナウンスしましたが、その経緯や思いから今の日本の問題点がはっきりと見えてくると思います(そして、だからこそSKY-HIさんが現状を前向きに変えようとしているのだと思うのです)。アイドルグループの一員として特に日本のメディアや芸能界という仕組みの中で辛酸を嘗め、そしてラッパーとして成功を収め、海外の歌手と積極的にコラボしている彼の言葉には強い説得力が宿っています。