カヴァーアルバムはここ数年のブームが落ち着いた感もありますが、由紀さおり&ピンク・マルティーニ『1969』はセールスチャートでも週間トップ5入りし、昨年末からブームとなりました。
現代においてカヴァー作品が売れる要素のひとつとは、”歌が上手い方がジャンルを超えて挑戦することで、あらためてその歌い手の巧さと曲の素晴らしさを知ることができ、聴きたいという思いに駆られる”ということではないかと。坂本冬美さんの「また君に恋してる」も、演歌歌手がJ-Popという別ジャンルに、という点では同様だったと思います。
明後日、10月10日にリリースされる八代亜紀さんのアルバム、その名も『夜のアルバム』は、『団塊の世代の方が青春時代に聴いていたジャズ・スタンダードをもう一度再現する』(ナタリーの記事より)というように、ジャンルを超えてジャズに挑戦しています。ジャズ専門誌が八代亜紀さんを表紙に据えていることなどを踏まえれば、かなりの注目度と言えるかもしれません。
そこから先行シングルとして「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」が配信されています。音は…漆黒な闇の中に浮かぶ仄かな月の灯り…と言えるような、かなり本格的なジャズであり、さすがは昨年”PIZZICATO ONE”名義で見事な大人の音楽を提唱した小西康陽さんプロデュースによる作品だなあと実感。アルバムが非常に楽しみになってきました。
で、実はこの「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」。八代亜紀さんは以前もカヴァーしたことがあるのです。2001年発売のアルバム『MOOD』収録のヴァージョンがそれで、途中男性によるラップパートまで挟み込まれた、洗練されたR&Bライクな仕上がりとなっています。アルバム発売前後、東京のラジオ局でよくかかっており、あの”外国語(を主体とする)FM局”InterFMでは(当時存在していた)週間チャートで、邦楽としてはめずらしくトップ30入りを果たしていたという現象まで。それほどまでに強烈な印象を持っていたといえるでしょう。
ちなみにプロデュースを務めたのが、UKソウルのプロデューサーでありリミキサー、そして94年にはアーティストデビューを果たしたレイ・ヘイデンというから驚きです。彼は、
彼のプロダクツには、都会的な洗練を強く感じさせるメロウネスとヴァイブの共存があった
と紹介されており(ブルース・インターアクションズ発行 『R&B HIP HOP DISC GUIDE』(2001)より)、洗練された音なのも納得(ちなみにもう1曲プロデュースしている「SWEET LOVE」も完全R&Bであり、オートチューンまで用いられています)。もしかしたら、彼の方から、深い味わい深い魅力的な声の持ち主である八代亜紀さんと一緒に仕事がしたい、というアプローチがあったのかもしれません。
アルバム『MOOD』は全曲試聴が可能です(コチラより)。『夜のアルバム』版「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」と聴き比べてみるのも好いかもしれませんね。