イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【Diggin'】13. Domestic Best Songs 2012

今週リリースされたCDの中から一作品を取り上げ、その音世界をちょっと広く、ちょっと深く掘り下げていく金曜日の特集、"Diggin' "。今週、いや今月は趣向を変えてお送りしています。

 

特集タイトルは、【2012年邦楽ベストソングコレクション】です。

毎年上・下半期それぞれ良曲をまとめたコンピレーションを編集しているのですが(無論、あくまで自己満足の域)、そこで選んだ曲を中心にさらに厳選したのが"年間ベスト"です。

ちなみに、選曲のルールは【基本的に2012年リリースのシングル、およびアルバムのリード曲】【基本的に上・下半期ベストから選ぶ】でしたが、今回はかなり変則的に。また、1枚のCDに収まるサイズということで、トータル79分30秒以内で選んでいます。

 

・2012 JP Songs Best

01. 一十三十一「DIVE」

02. ASY「SEE THE LIGHTS」

03. サカナクション「夜の踊り子」

04. Perfume「Spring of Life」

05. きゃりーぱみゅぱみゅ「つけまつける」

06. NEWS「チャンカパーナ

07. 星屑スキャット「星屑スキャットのテーマ」(弊ブログ記事)

08. 八代亜紀「ただそれだけのこと」

09. 安室奈美恵「Love Story」

10. JUJU「sign

11. 大橋トリオ feat. 平井堅「東京ピエロ」

12.清水翔太「化粧」

13. 宇多田ヒカル桜流し

14. 星野源「知らない」

15. さかいゆう「君と僕の挽歌」

16. キリンジ「祈れ呪うな」

17. RHYMESTER「The Choice Is Yours」(弊ブログ記事)

Total Time 78:36

曲順は、"心地よく聴けるか"を第一義としているのですが、今回に関しては①~⑦、⑧~⑮、そして⑯~⑰の三部構成。特に最後の2曲は流れを良くも悪くも分断しているといえるかも。

 

①からの7曲はミディアム~アップ主体。ビルボードレーベルからリリースの①は私的ベストアルバムのひとつでもある『CITY DIVE』からのリード曲。クニモンド瀧口氏との相性の良さはここでも光っており、21世紀シティ・ポップの金字塔。

 

②はフリーダウンロードにてリリース。米では一昨年以降顕著になった手法(今年絶賛されたフランク・オーシャンやザ・ウィーケンドも元々はアルバムをフリーダウンロードにてリリース)、日本での先駆者の一組が(曲単位でのリリースではあれど)彼らといえるでしょう。今後の音楽業界に一石を投じた彼ら、曲の疾走感も相俟って要注目。メンバーのひとり、STY氏はプロデューサーとしてEXILE三浦大知さんなどを担当、今後注目すべきプロデューサーのひとりです。

 

③は詞の遊び心に溢れ、大サビのリフレイン(PVでは一コマ毎にズームアップ)の中毒性が極めて高い曲。「僕と花」も素晴らしかったのですが、彼らはハズさないですね。

 

Perfumeの移籍第一弾となる④は海外進出を見据えたクラブ仕様。先行公開されたティーザー箇所が、鈴木亜美に提供した「can't stop the DISCO」を彷彿とさせますが(プロデューサーは共に中田ヤスタカ)、Perfume独特の愛らしさも加味されたこの曲のカラフルな眩しさは唯一無二。「Spending all my time」も素晴らしいですが、LMFAOのようなクラブ感が強くなっており、かわいい度数の高いこちらを選出。

 

同じく中田ヤスタカプロデュースのきゃりーぱみゅぱみゅの⑤。一見(いい意味で)おバカなように見えながら、実は詞世界に共感できるフレーズ多し。"このせまいこころの檻もこわして自由になりたいの"(「ファッションモンスター」より) そしてこの曲での"同じ空がどう見えるかは 心の角度次第だから"にはグッとくるものが。硬軟の織り交ぜ方が見事。

 

自分の中でアイドル、特にジャニーズ所属のアイドルの音楽面を強く意識し出したのはNONA REEVES西寺郷太さんのラジオ出演がきっかけ(そして氏が手がけたV6の近年曲は名曲ばかり)。その中でも突出してたのがNEWS、4人での再出発曲の⑥。特に意味がないという造語のタイトル、実はエロティックな歌詞、各々のキャラクターに合った配置(手越祐也のビブラートの凄まじさたるや!)…いい意味でツッコミ満載。それこそがアイドルソングの醍醐味なのかもしれません。

 

ミッツ・マングローブさん等による星屑スキャット。ともすればイロモノにみられがちですが、7年も前となる2005年に結成し音楽活動を続け、デビュー曲は70年代のアイドルグループで今ではカルトな人気を誇るGALの「マグネット・ジョーに気をつけろ」のカヴァー。なんだかよくわからないけれど物凄い"本気"を感じる次第。その「マグネット~」カップリング曲である⑦は資生堂などのCMも手がける中塚武氏の作品で、ストリングスとコーラスの可憐な融合は歌謡曲の風味を残しつつ新しさも感じさせる傑作。

iTunes Store - マグネット・ジョーに気をつけろ(シングル・バージョン) - EP

 

 

さて、ここからの8曲はミディアム~スロー群。気づくと、すべてが別れもしくは喪失をテーマの曲ばかりになりました。いまの気持ちというわけでは決してないのですが、自然にそういう曲に惹かれていったということなのかもしれません。

 

 

演歌界の八代亜紀さんと小西康陽さんの融合により誕生した初のジャズアルバム『夜のアルバム』。これほどまでにハマるとは! 彼女のスモーキーでたゆたう様な歌声はジャズに本当に似合います。好きな曲は多いのですが、笠井紀美子さんのカヴァー⑧は詞曲の大人っぽさとスモーキーな声が高い次元で相俟った名カヴァー。

iTunes Store - 夜のアルバム

 

安室奈美恵の⑨は厳密には昨年12月のリリースであり且つ上半期ベスト未選出だったものの、ドームツアーの映像を観て名曲と実感。自分が以前【BEST FICTION TOUR】で観た「Wishing On The Same Star」を彷彿とさせる演出で、今の彼女が一番大事にしているバラードなんだと感じた次第。美しいメロディ、直球のタイトルでありつつまさかの別れの決意曲、というミスマッチの妙もまた良いです。

 

彼女に⑩のようなバラードを歌わせたら、最早右に出る者はいないくらいのハマりよう。軽めながらスモーキーな声が切なさを増幅させる効果を持ち合わせていて、この手の曲は少なくないとは思いつつ、でも抗えません。まさに彼女の真骨頂。

 

大橋トリオの独特の心地良さには毎回ハマっています。「贈る言葉」のカヴァーの解釈も素敵でしたが、朴訥なようでいて様々な感情が垣間見られる歌声やアレンジが不思議な魅力を放っています。⑪は平井堅さんとの相性がこれまたすこぶる好く、平井堅さんが大橋トリオを迎えて一枚アルバムを作ってほしいなと思うくらい。

 

清水翔太さんの⑫は以前も書きましたが、とにかく泣きの表現力に尽きます。凄まじいのです。

 

おかえりなさい、の⑬。徐々に増幅されていく悲しみや喪失の表現がただもう見事。「Be My Last」など一時期特有だった深淵の世界を持ち合わせつつ、絶望過ぎることなく聴こえるという不思議。

 

今年星野源さんが放った3枚のシングルがいずれも名曲でどれを選ぶか迷うも、この流れで⑭に。とはいえこの曲は希望を歌っているとのこと。タイトルの「知らない」だったりサビの”しぶとい景色”だったり、いい意味で引っかかるフレーズ多数で、これも彼の曲が無視できない証拠。ゆっくり焦らず、着実に回復することを願います。

 

親友を亡くした経験を基に歌われたさかいゆうの⑮は、喪失感を抱きながらもすごく真っ直ぐに、前向いているポジティヴな姿勢に惹かれるばかり。以前も「train」という名曲がありましたが、ゴスペルを薄く敷いた前向きな曲こそ、彼の真骨頂かもしれません。ちなみに、彼が提供した小泉今日子「100%」も素晴らしいのでこちらも紹介。信近エリさんに提供した「きみなんだ」を彷彿とさせながらも、小泉今日子さんのかわいらしさが最大限に映えた曲。失礼ながら歌が巧いとはいえないものの、その歌い方がこの曲に実に合っていて不思議に曲の魅力を増幅させるよう。

 

 

さて、⑯および⑰は、”大震災以降”、”原発事故以降”を歌った曲です。

正直言って、しばらくこのテーマの曲を好ましく思っていませんでした。無論、音楽の表現の自由の観点からそのテーマの曲が出ることには何の問題もないのですが、しかしながら放たれてきた曲には何かが足りない、と思っていたのです。

RHYMESTERの⑰を聴いてはじめて、その足りないものが分かりました。彼らが歌う曲にはきちんと、”自分たちにも責任がある”ということが明確化 されているのです。これまでの曲に散見された、自分たちは絶対的被害者 / 政府や電力会社は絶対的加害者…という単純な構図ではないんだ、想像できたはずの事態をここまで無視してきた自分たちだって責任はあるのだからその責任を自覚してまずは自身を律して動き出すべき…そう歌う彼らの姿に、これまでの多くの曲とは違う説得力を実感したのです。アレンジもひたすら格好良く、「I Believe In Miracles」、それもジャクソン・シスターズ(The Jackson Sisters)のヴァージョンではなくマーク・キャパニ(Mark Capanni)のオリジナル版をサンプリングという引用の仕方が巧いんですよね。

そしてそのRHYMESTER宇多丸さんがラジオで二度紹介していたのがキリンジの⑯。こちらは前向きというより後ろ向きに近いかもしれず、ええじゃないか的リズムがシニカルさをより際立たせていて、この曲こそが”現状”を示す最も適した曲となって(しまって)いるのですが、”知ってたくせに騙されたとわめくか”という歌詞からは、責任の所在は自分たちにもあるということが見て取れます。

(実は自分はキリンジの⑯については長い間直視できませんでしたが、RHYMESTERのラジオでの発言を通じて徐々に大きな存在になっていき、今回ベストに入れた次第です)

 

 この2曲の存在により、逆にいえば、昨年垣間見られた曲…直接言及していないとしいても”自分への責任”に言及しない、自戒が見られない曲とその歌い手の方(特にアコースティックギターの使い手に散見されたように思います。ただし、特にフォーク(的)歌手は攻撃的なメッセージソングを得意とする傾向もあり、主観的な見方が強めかもしれませんが)に激しい違和感を覚えたのだと実感です(曲の評判により、以降活躍の場が増えた点も含めて)。RHYMESTERは⑰の中で”アコギもバンダナも捨て去って”と歌っていますが、自戒の見られない曲(とその歌い手)に対して、ちゃんと責任を自覚せよと訴求しているのではないかと考えます。

 

真面目なことを書くならば…原発事故以降の反原発のムーヴメントがありながらも先の総選挙では反原発側が大敗し投票率そのものも大きく下落した事実を踏まえれば、結局ムーヴメントは一時の熱になってしまったのではと思うのです。

個人的には原発が遠くない将来なくなることに賛成しますが、即時停止というのは(そしてそのためのプロセスも)非常に非現実的です。そもそも反原発を願うならば、当然ながらその方向性において政治が大きなカギを握るわけですから、敵視ばかりするのではなく対話や提言はもっと必要でしたし、政治の重要性を踏まえれば反原発を訴える一人ひとりが選挙に行くよう促すことが大前提だったのではと思うのです。⑰が自発的に行動することを促す曲であるのに対し、ずっと嘘をつき続けた!そうだ!とばかり言ったところで変わらないですし、結局投票率が低下した事実を踏まえれは、反原発から政治の重要性に目覚め、今まで投票しなかったけど今回こそ投じようという気概を持った方が多くなかった、投票という政治の最低限の行動に結びつかなかったことが想像できます。そもそも原発が選挙の大きな争点になっていなかったことも問題で、きちんと提言の形を行なっていたならば変わっていたのではないかと。敵視という”過熱”ではなく政治への関心や提言という形で”温め続け”、政治への提言を当たり前の状態に持っていく方が良かったのではないでしょうか。⑰が温め続けるための曲だとしたら、政府や電力会社は敵だ悪魔だ…という怒り一辺倒の曲は”過熱”にしか成り得なかったんじゃないのかなと。非常に残念に思います。

 

現実を見据え、一人ひとりが責任ある行動をすべきじゃないかと思い、この2曲を選びました(そして責任ある行動を意識すれば、安易に非難するよりも批判や提言の形に自然に成っていくように思います)。ゆえに、ベストソング集の最後、よりインパクトある(映える)場所に据えた次第です。

 

 

 

というわけで、17曲を選びました。後半は真面目な話(それも長文)になりましたが、書いてみて、未だに大震災がエンタテインメントに大きく影響しているんだなということを強く実感しています。