イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Stationheadはラジオ的な最善のサービスに成り得る...創設者のインタビューから見えてくることについて

昨日のブログエントリーにて、このような内容を記載しました。

一時的にでも上位進出を果たすことは凄いことですが、再生キャンペーンに頼らない形でライト層(歌手のコアファンというわけではないが曲は気になる方々)にリーチさせていくことがより重要です。LINE MUSIC再生キャンペーンはライト層の人気を可視化するストリーミング指標にコアファンの熱量が強く影響する点において、その動向は所有指標のそれとあまり変わりません。つまりは急落の可能性をはらんでいるのです。

ビルボードジャパンソングチャートを毎週チェックする者として、LINE MUSIC再生キャンペーンの効果、そしてその反動の大きさを強く感じています。一方でSpotifyApple Musicではユーザー側が各曲の再生回数を確認できないこともあり再生キャンペーンは組まれません(組めません)が、キャンペーンとは異なる形でファンダムを中心に【Stationhead】を使ったイベントが開催。音楽チャートの面でも興味深い施策です。

 

無料で使える個人向けラジオ配信アプリ。提携しているSpotifyApple Musicから音楽を流せば著作権を気にすることなく音楽を配信できます。

リスナーが配信で聴いた楽曲は、サブスクの再生回数として加算されます。アーティストの活動を応援したい人や、音楽好きな仲間を増やしたい人におすすめです。

曲についてはSpotifyおよびApple Musicの有料会員でなければ聴くことはできませんが、配信者が流し、聴き手が聴いた曲が人数分カウントされることになるのがStationheadの特徴です。このアプリ(サービス)については遅ればせながら2月下旬、noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんによる生配信(ミライカフェ)への参加の際に知りました。

Stationheadを用いた推し活は音楽チャートにも反映されるため、仮に今後Stationheadを用いた動きが頻発した際には(既に日本の歌手でも用いている方がいらっしゃいますが)、ビルボードジャパンがソングチャートにおけるストリーミングの指標においてSpotifyApple Musicのウエイトを下げる可能性も考えられます。

Stationheadを知った当初にこのような内容をポストしましたが、そこから1ヶ月が経ち、アプリ(サービス)に対する考え方が変わってきています。

 

 

実際、海外ではK-POP歌手を中心にファンの推し活が行われ、歌手自身も登場することがStationheadでは自然となっています。そして最近では世界全体で利用が減少しているダウンロードについて、その販売を推進する機能を実装。その効果が表れていることについて、下記記事(英語)にて紹介されています。

そもそも、StationheadのCEOであるライアン・スターは歌手活動を行い、以前はアトランティック・レコードから作品もリリースしたことがあります(下記Spotifyのリンクは2010年リリースの『11:59』)。

歌手側の思い(推されることの重要性)等は熟知しているはずで、それもこのアプリ(サービス)が推し活に利用されることを推奨し、実際人気に成った要因と考えます。

 

一方で、このアプリの開発の背景には興味深い部分があります。

Star was able to build out an impressive music career, breaking hit songs and writing for radio and television. However, as time passed, Star said he felt the radio format he knew and loved was no longer keeping up with a world where kids dream of becoming YouTube creators, Twitch streamers, and Instagram stars.

(スターは印象的な音楽キャリアを築き上げ、ヒット曲を生み出し、ラジオやテレビのために曲を書くことができた。しかし時が経つにつれ、子供たちがYouTubeクリエイターやTwitchストリーマー、インスタグラムのスターになることを夢見る世の中に、自分が知っていて好きだったラジオというフォーマットがもはや追いついていないと感じたという。)

“Nobody took radio and made a digital experience for it for a democratized, decentralized, non-gatekeeper world,” Star said. “I really understood that old model was dying, yet I loved the feeling of talking to someone on air, taking a call from a fan, playing music, putting them onto a record, or playing my own music and putting context around the songs I make.”

(「誰もラジオを、民主化され、非中央集権化され、ゲートキーパーでない世界のためのデジタル体験にしなかった。私は、その古いモデルが死につつあることを本当に理解していた。でも、放送中に誰かと話したり、ファンから電話を受けたり、音楽をかけたり、レコードに入れたり、自分の曲をかけたり、自分が作った曲にコンテクストをつけたりする感覚が好きだった。)

(翻訳はDeepLを用い、一部意訳しています。)

ライアン・スターのインタビューを読み、ラジオが持ち合わせていた良い部分を引き継ぎつつデジタル時代に即した形にしたのがStationheadだと捉えています。

日本ではこのアプリ(サービス)の認知がこれからであり、音楽チャート等も含む推し活が主体ですが、【特定歌手の推し活以上に、(歌手に関係なく)好い曲を推すという目的で用いるならばStationheadはラジオ的な最善のサービスに成り得る】と感じた次第です。推し活のプログラムよりもリスナー数は減るかもしれませんが、十分な可能性や将来性は伴っているのではないでしょうか。

 

 

ライアン・スターのように古き良き時代を回顧することは誰しも行っていることですが、この回顧は"今の時代は好くない"とセットになりがちであるため、そのような思考に陥らないようにしなければなりません。一方、日本でラジオにおける(K-POPを除く)洋楽のOAが減っていることは事実であり、以前このブログにてラジオへの提案を記しました。その一部を引用します。

またこれは主観強めと前置きしますが、今のラジオはDJによる曲紹介時の技術や愛情が以前より重視されていないと感じます。イントロ乗せ技術、曲や歌手への知識の豊富さ、曲を大切に扱うことへの重要度が下がったと思うのです。それらがきちんとできていれば、たとえば昨日記したアリアナ・グランデ「Yes, And?」からマドンナ「Vogue」への紹介の流れが生まれ、主に中高年の音楽ファンが関心を抱いたことでしょう。

(この問題についてはブログの初期段階にて、主に県内のラジオ局に対し指摘していました。当時は以前より表現が強かったこともあってかこちらへの風当たりは強く(ブログでの表現自体については省みる必要はあります)、またその風圧に伴い自分のラジオ(業界)に対する前向きな関心が薄れたことにより指摘や提案をやめたのですが、定期的に問題提起したならば状況は違っていたのではないかと、今となっては強く感じています。)

そして現在のラジオ業界では、古き良き時代の回顧と"今の時代は好くない"という考えをセットとし、且つその発信をためらわない方が少なくないことを肌で感じています。

そのような方が支持を集め、動くことがないならば(実際に変わることは難しいでしょう)、Stationheadをラジオ的に利用することは一興ではないかと感じています。【特定歌手の推し活以上に、(歌手に関係なく)好い曲を推すという目的で用いるならばStationheadはラジオ的な最善のサービスに成り得る】との考えの下、活用を検討するようにします。