イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

宇多田ヒカルサイドによる、ミュージックビデオ過去作品のアップコンバートと連日公開について

宇多田ヒカルさんによるベストアルバム、『SCIENCE FICTION』が来月リリースされます。

今回のアルバムリリースにちなんで様々なキャンペーン等が組まれる中、注目したいのが”ミュージックビデオ過去作品のアップコンバート(アップグレード)”です。

カウントダウンキャンペーンでは、デビュー初期の楽曲「Automatic」「First Love」から、2016年に発表された「桜流し」まで、映像クリエイター・竹石渉が4K画質にアップコンバートした全22作品のMVを連日21時にYouTubeプレミア公開。

 

 

アップコンバートとは『低解像度の映像コンテンツを、高解像度のものに変換すること』(アップコンバート(あっぷこんばーと)とは? 意味や使い方 - コトバンクより)。実際YouTubeで”Official Video 4K”と検索すると、日本でも有名な洋楽作品が多数上位に登場します(検索結果はこちら)。中にはサムネイルに”4K”と記載したミュージックビデオもあり、”Official Video HD”と検索した場合も同様の傾向がみられます。

一方、Yahoo! JAPANのニュース検索で”ミュージックビデオ アップコンバート”もしくは”ミュージックビデオ アップグレード”と検索しても今回の宇多田ヒカルさんの件以外ほぼ登場しませんが、海外ではこの流れが定番化しているといえるかもしれません。

 

ミュージックビデオのアップグレードは、チャート施策の側面もあるでしょう。

ストリーミングの興隆は過去のヒット曲が上がりやすい環境を作りましたが、その象徴といえるのがクリスマス関連曲。2019年以降はマライア・キャリーが毎シーズン、昨年はブレンダ・リーのクリスマスソングが米ビルボードソングチャートを制していますが、たとえばワム!Last Christmas」は2019年12月28日付にて初のトップ20ヒットに。これにはミュージックビデオのアップコンバートが影響しているといえるのです。

先程はマイケル・ジャクソン「Thriller」を紹介しましたが、同曲はハロウィン(ハロウィーン)の時期に毎年チャートに返り咲く傾向があります。クリスマスやハロウィンに関連作品を観たい(聴きたい)としてYouTubeを検索した方がミュージックビデオの高画質化を知れば、再生率は高まると考えます。

海外の歌手では同一のURLでアップコンバート動画に差し替える傾向が高いだろう一方、宇多田ヒカルさんの場合は元々の動画を残したまま4K動画をアップしています(なお双方に同一のISRC(国際標準レコーディングコード)が付番されていれば、共にビルボードジャパンソングチャートの動画再生指標に加算されます)。どちらのやり方が好いかは断定しかねますが、後者はアップコンバート効果がより伝わりやすいといえます。

 

今回、ミュージックビデオのアップコンバート対象作品が必ずしもベストアルバムに収録されているわけではありません。しかしフィジカル店着日(フラゲ日)の前日には一昨年末以降リバイバルヒットした「First Love」の4K版公開が組まれていることもあり、今回のアップコンバートはアルバムやコンサートツアーの注目度、またアルバムのチャートアクションを高めることにつながるはずです。

 

 

宇多田ヒカルさん側はK-POPが率先して採り入れるコンテンツカレンダーを用意、またチャートの好アクションに積極的に反応する等、今の時代ならではの施策に意識的です。過去曲がいつヒットするかがいい意味で分からないデジタル時代、ミュージックビデオのアップコンバートは再ヒット時の注目度をより高めることにつながるでしょう。またフットワークの軽いスタッフが、ヒット規模をより増幅させるものと考えます。

 

宇多田ヒカルさんサイドによるミュージックビデオのアップコンバートが、邦楽全般に拡がることを願います。この実施は、邦楽全体のデジタルアーカイブ強化にもつながるのではないでしょうか。