イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

大ヒットアニメ映画の主題歌等におけるビルボードジャパンソングチャートでの差を考える

最新2月21日公開分のビルボードジャパンソングチャートでは、SPYAIR「オレンジ」が19位に初登場を果たしています。

「オレンジ」は『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の主題歌。2月16日に公開されたこの作品はロケットスタートを記録しています。

「オレンジ」に話を戻すと、主要サブスクサービスのデイリーチャートではLINE MUSICで早くもトップ10入り、Apple Musicでも上位に進出した一方、Spotifyでは上昇度合いは鈍かったものの最新2月21日公開分ビルボードジャパンソングチャートの集計期間最終日にトップ50入りを果たし、上昇気流に乗っています。サブスクも味方につけ、ストリーミング指標でも安定した成績を収めていく可能性が高まっているのです。

 

 

先述したオリコンの記事では、2020年以降の大ヒットアニメ映画の初週および最終的な興行収入が網羅されていますが、それら記録は先月、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の初週成績が報じられた際にも掲載されていたものでした。その記事を踏まえ、以前このブログにて映画関連曲のチャート成績を紹介しています。

さて今回、SPYAIR「オレンジ」がビルボードジャパンソングチャートで初登場したタイミングにて、以前掲載した表を加筆且つデータを加えた上で再度掲載します。

これをみると、大ヒット映画は関連曲もヒットする傾向はあるものの、そのヒット規模には差が生じています。尤も興行収入の差は小さくないため一概に比較することは難しいかもしれませんが、しかしながら『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の関連曲は主題歌である西川貴教 with t.komuro「FREEDOM」であってもトップ10入りしていない状況です。一方SPYAIR「オレンジ」は次週、THE FIRST TAKE動画も加点対象となります。

 

 

この表を基に考えると、大ヒットアニメ映画の主題歌等関連曲におけるチャート成績は、主に3つの要因に基づき差が生じているのではないでしょうか。

1つ目は、タイアップ先となる映画自体の興行収入。その規模に即したヒットになっていることが多いと感じています。ゆえに100億未満の作品は(無論これ自体凄い数字ですが)、関連曲のチャートアクションが伸びにくいといえるかもしれません。

 

今の時代はストリーミング指標(の基となるサブスク等)でのヒットが総合チャートでのヒットに欠かせませんが、このストリーミング時代にあっては2010年代後半以降のデビュー組と2010年代前半以前とでヒットの規模が異なる状況です。よって2つ目はこの条件、2010年代後半以降にデビューした歌手が起用されているかを挙げてみます。

ただしスピッツ(「美しい鰭」)や10-FEET(「第ゼロ感」)は2000年以前にデビューしているのですが、共に大ヒットに至っています。2組が所属するユニバーサルミュージックでは以前紹介したキャンペーンに代表されるようなサブスク展開に積極的であり(下記エントリー参照)、ともすればこの姿勢も成功を招いた一因と捉えています。

 

そして3つ目は、映画の原作がサブスク時代と形容可能な2010年代後半に連載されていたか。映画オリジナルの作品であれば、その監督のひとつ前の作品がいつ公開されたかで判断していいのかもしれません。たとえば『すずめの戸締まり』の新海誠監督はサブスク時代に『君の名は。』(2016)および『天気の子』(2019)を発表している一方、『君たちはどう生きるか』の宮崎駿監督の前作は『風立ちぬ』(2013)となります。

 

これら3つの要因が合致すればするほど、映画関連曲のヒットの規模も大きくなるのではというのが私見です。

 

 

さて、気になるのは『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌である西川貴教 with t.komuro「FREEDOM」の動向です。

最新2月21日公開分のビルボードジャパンソングチャートの集計期間中にTHE FIRST TAKEでの歌唱動画が公開。この動画の再生回数がオリジナルバージョンに組み入れられたことで動画再生指標は12→4位に上昇しますが、総合ソングチャートでは25→23位に。THE FIRST TAKEの話題がストリーミング指標に寄与しているとは言い難く(同指標は2週続けて100位未満(300位圏内)に)、総合トップ10入りは果たせていません。

(ビルボードジャパンソングチャートでは言語以外においてオリジナル版と異なるバージョンは合算されませんが、THE FIRST TAKE版は音源としてリリースされない限りはオリジナル版に合算されます。)

動画の影響度次第では、このブログにて以前から提案しているソングチャートにおける動画再生指標のウエイト上昇をビルボードジャパンが議論することも必要ではと考えます。尤も「FREEDOM」がストリーミング指標できちんとヒットすることが最善なのですが、大ヒットアニメ映画の関連曲であるこの曲が総合的にヒットに至るならば、歌手側のサブスクへの認識も変化し、日本の音楽業界が良い流れへ向かうと捉えています。

 

 

さて、雑誌『日経エンタテインメント!』最新号に掲載された図が興味深く、最後に紹介します。

アイドルやアニメ、ゲームなどのブランドを、どんな人たちが推しているのか。推しているブランドを年齢と性別に分けて調査してみたのが下図だ。

大きな図は雑誌に掲載されているのでそちらをご覧いただきたいのですが、今回紹介したアニメにおいては、たとえば漫画の掲載年数が長い『ONE PIECE』が男女比およそ7:3、平均年齢30代なのに対し、『機動戦士ガンダム』シリーズは男女比およそ9:1、平均年齢40代となっています。連載が1996年までだった『SLAM DUNK』は平均年齢が40代の一方で男女比は男性が5割強となっているのも興味深いところです。

また上記記事からは、『機動戦士ガンダム』シリーズの最新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』がこれまでのシリーズから男女比そして新規ファン層の割合が異なっているということが解ります。ともすれば『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は最新シリーズと分けて考えていいのかもしれません。

 

先程の図を踏まえれば、(単純化した見方であることを承知で述べるならば)男性且つ中高年層の支持が高いほどサブスクへの親和性が低くなるという仮説が浮かび上がります。西川貴教 with t.komuro「FREEDOM」のストリーミング指標の高くなさは納得できるのかもしれません。また仮説から、米音楽業界におけるカントリージャンルの主要ファンが白人中高年層であり、サブスクが得意ではないということを想起した次第です。

とはいえ米カントリー界においてはモーガン・ウォレンやルーク・コムズ、ザック・ブライアン等若手歌手を主体に近年サブスクで人気が広がっているほか、直近ではビヨンセのカントリー曲がヒットしています。それを踏まえれば、男性や年配者比率の高いファン層を抱える作品であっても、その関連曲が今のヒットの形をなぞることは可能だと感じるのです。