イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

歌手の訃報に触れた聴き手の行動はチャートで可視化…一方で伸びにくい指標からみえてくる課題とは

10月は歌手の訃報が相次ぎましたが、追悼の思いはチャートアクションに反映されています。特に大きく可視化された指標が、ダウンロードおよびラジオです。

 

10月25日公開分(集計期間:10月16~22日)のビルボードジャパンアルバムチャートでは谷村新司さんの各作品がダウンロード指標で上位に進出しています。

3位は、谷村新司『Best Collection~いい日旅立ち~』がチャートイン。2014年12月にリリースされたアルバムだが、75歳で逝去したことが10月16日に公式サイトを通じて報じられた影響で、ダウンロード数が伸びたと考えられる。なお、26位に『STANDARD~呼吸~』、100位に『シングルA面コレクション』がチャートインしたほか、11位にアリス『ゴールデン☆ベスト アリス』、14位にアリス『アリス・ザ・ベスト 遠くで汽笛を聞きながら』、96位にアリス『栄光への脱出 アリス武道館ライヴ』がチャートインするなど、計6作がチャートインを果たした。

(なお『Best Collection~いい日旅立ち~』は、正しくは2008年3月のリリースとなります。同作品のレコード会社による紹介ページはこちら。)

そして最新11月1日公開分(集計期間:10月23~29日)においては、BUCK-TICKの作品がダウンロード指標100位以内に大挙エントリーを果たしました。

10月19日にヴォーカリスト櫻井敦司が急逝したBUCK-TICKのアルバムが多数チャートイン。セルフカバー・アルバム『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』が8位を獲得した他、最新アルバム『異空 -IZORA-』が11位となるなど、計13作がチャートインした。

アルバムチャートのフィジカルセールス指標では、たとえば11月1日公開分ではBUCK-TICKの作品が1作品(同日付総合アルバムチャートでは100位以内に2作品)のランクインにとどまっています。ネットを含む店舗の在庫状況も踏まえれば、訃報を聴いてまずデジタルをチェックする方が多いことが解ります。

なお、もんたよしのりさんの訃報に伴い、もんた&ブラザーズの下記ベストアルバムも11月1日公開分の総合アルバムチャートで85位に初登場。フィジカルセールス指標は100位以内に入っていませんが、ダウンロード指標は76位に登場しています。

 

ソングチャートにおいては、牽引しているのはラジオです。10月25日公開分では谷村新司「昴」がラジオ指標15位に、最新11月1日公開分ではもんた&ブラザーズダンシング・オールナイト」がこちらも同指標15位に登場しています。

このラジオ指標は全国31のラジオ局によるOAランキング(プランテック調べ)をベースとして各局の聴取可能人口等を加味して算出されますが、2週分のOA状況を紹介した記事を読むと「昴」や「ダンシング・オールナイト」のOAランキングはラジオ指標より順位が低いことが解ります。これは各局の聴取可能人口に関係なく、全国的にOAされたことを示しているといえるでしょう。

(なお後者のリンク先では、BUCK-TICKのランキングも掲載されています。)

そして「昴」は最新11月1日公開分においてラジオは300位圏外となったものの、カラオケ指標は24→17位に伸びています。2曲の当週におけるCHART insightはこちら。

(「ダンシング・オールナイト」は最新週を含む11週分を表示しています。)

上記CHART insightにおいてはラジオ(黄緑で表示)のみならずカラオケ(緑)、そしてアルバムチャートでも強さを発揮したダウンロード(紫)といった指標がポイント獲得源となっています。

フィジカルシングルはアルバム以上に廃盤が多い模様ゆえフィジカルセールス指標(黄色)がカウントされないのは自然なことですが、しかしながらストリーミング(青)や動画再生(赤)といった接触指標群、特にロングヒットに欠かせない前者が300位以内に達しておらず、加点対象となっていません。

 

日本においては季節に関する曲について、ラジオの反応がとりわけ大きくなる一方でストリーミングはそれが薄い傾向にあります。

昨日のエントリーではビルボードジャパンソングチャートで首位に返り咲いたAdo「唱」の指標動向から、日本でのストリーミングの鈍さ、海外との差を考えています。この季節に関する曲の動向と同じ動きが、訃報が流れたときにおいても表れています。

歌手やレコード会社におけるアーカイブの強化、そして音楽ファンへのサブスクの浸透がまだまだ必要だと受け止めています。

今回のチャート動向からみえてくるものについては、4月に記した坂本龍一さんの訃報を受けての動向と共通していますが、坂本龍一「Merry Christmas Mr.Lawrence」が動画再生指標で300位以内に入り加点対象になったのとは異なり、「昴」や「ダンシング・オールナイト」はこの指標が加点されていません。調べてみると曲の公式動画のみならず、歌手の公式チャンネルもない模様です。

 

ここからみえてくるのは、このブログで何度も申し上げている【デジタルアーカイブ拡充の重要性】です。この点については後日クリスマス関連曲についてのエントリーでも述べる予定ですが、YouTubeは重要な聴取手段であり、動画のオーディオストリーミングがストリーミング指標に加点されるという意味でも動画の用意は必要です。ミュージックビデオがなければ公式オーディオだけでも公開すべきでしょう。

また谷村新司さん、もんたよしのりさん(もんた&ブラザーズ)そしてBUCK-TICKはサブスク解禁していますが、ともすれば前2組についてはYouTubeアーカイブ状況をみてサブスクにもないだろうとユーザーが判断したのではと感じています。だとすればやはり動画の不徹底は勿体ないと言わざるを得ません。サブスクユーザーが日本でまだ多くはないともいえるでしょうが、デジタル環境の充実は日本の音楽業界全体の課題です。