ビルボードジャパンはソングスチャートにて、週間50位までの獲得ポイントを可視化。それにより前週および当週共に50位以内にランクインした曲については、ポイントの前週比が判明します。
特段大きなイベントがない限りソングスチャートのポイントは微減する傾向にあるため、微減を止めむしろ増加させる必要があります。平日以外が多いこと(主に接触指標の上昇)、歌番組への出演(主にダウンロードの上昇)も影響を及ぼしますが、新曲のリリースやイベントの開催が過去曲を押し上げることも可能。今回は最新チャートにおいて特筆すべき動向を示した歌手の作品について、紹介します。
(上記はティザー(ティーザー)。)
最新10月19日公開分(10月24日付)ビルボードジャパンソングスチャートで3位発進となったOfficial髭男dism「Subtitle」は、フジテレビ系ドラマ『silent』の主題歌。リアルタイム視聴率は緩やかに上昇し、そして見逃し再生回数が記録的な数値を叩き出しています。「Subtitle」は公式オーディオだけで動画再生指標12位に入る異例の人気となっていますが、このリリースが過去曲を押し上げています。
「Pretender」(2019)は47→43位となりポイント前週比107.4%、「ミックスナッツ」(2022)は9→11位でポイント前週比は105.9%と、いずれも高水準を記録。後者はトップ10連続在籍記録が26週で止まってしまいましたが、これは当週初めてトップ10入りを果たした曲が多かったためであり、次週はトップ10内復帰も十分考えられます。
『当速報では順位が入れ替わり、「Subtitle」が705.3万回で1位、「KICK BACK」が673.8万回で2位を走っている。』#Official髭男dism「#Subtitle」、圧倒的ですね。速報値は水曜までであり、昨日放送の『#silent』効果でさらなる加速も考えられます。総合首位も有り得るのではないでしょうか。 https://t.co/CIlbNGm3h3
— Kei (@Kei_radio) October 21, 2022
「Subtitle」においては、次回10月26日公開分(10月31日付)ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング速報値で前週総合首位の米津玄師「KICK BACK」を逆転。Spotifyでは「KICK BACK」に少しずつ迫り、Apple MusicやLINE MUSICでは上回っています。速報値は前半3日分を示したものであるため、『silent』が放送された木曜以降の動向次第では「Subtitle」の総合首位も有り得るかもしれません。
【先ヨミ・デジタル】米津玄師「KICK BACK」引き続きDLソング首位独走中 ドラマ話題のヒゲダン「Subtitle」2位へ浮上 https://t.co/3S3lJT9kfL pic.twitter.com/30ZtKIXSt3
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) October 21, 2022
ダウンロード速報値ではOfficial髭男dism「Subtitle」が米津玄師「KICK BACK」に水を開けられていますが、この点がどうなるかも注目。さらには過去作の動向のみならず、『silent』で用いられているスピッツの曲が総合ソングスチャートに入ってくるかも気になるところです。
10月15、16日に大阪でスタジアムライブを開催した藤井風さんは、新曲「grace」が最新10月19日公開分(10月24日付)ビルボードジャパンソングスチャートで4位に初登場。昨年5月12日公開分(5月17日付)で2位に初登場した「きらり」とほぼ変わらない高ポイントに至っています(「きらり」は9415ポイント、「grace」は9446ポイント)。そして新曲リリースやライブ開催は、他の曲にも波及しています。
(「死ぬのがいいわ」はライブ動画。)
先述した「きらり」は46→37位となりポイント前週比は124.6%と大きく上昇。「死ぬのがいいわ」(2020)は36→40位、ポイント前週比は98.8%とダウンしますがポイントは微減にとどまっています。なお「damn」(2022)は42→69位へ後退、ポイントは前週割れとなったものと思われますが、シングル化後3週連続でエントリーに至っています。
「きらり」がロングヒットする中で「死ぬのがいいわ」が世界的なバズを起こし、その熱が持続している最中にセカンドアルバムから「damn」をシングルカット&ミュージックビデオ公開、そして「grace」へ…この流れはスタジアムライブの熱量のみならず新曲への熱量を高める意味でも効果的だったと言えるでしょう。
そして先週末のライブにて撮影許可が下りた「grace」については、SNSやYouTubeで様々な動画が公開されています(代表的な動画を上記に掲載)。ともすればこれが次週のチャートにも影響を及ぼすかもしれません。
Official髭男dism、藤井風さんは共に、直近の2枚のオリジナルアルバムがビルボードジャパンアルバムチャートにて順位を上げています。特に藤井風さんの作品は顕著な動きを示し、「死ぬのがいいわ」を収録した『HELP EVER HURT NEVER』(2020)は63→37位、「きらり」「damn」を収録した『LOVE ALL SERVE ALL』(2022)は27→13位へ達しています。ライブ前の予習、また復習に用いるという方の行動の表れと言えるでしょう。
(上記は藤井風さんのアルバム2作品におけるリスニングパーティ動画、およびCHART insight。CHART insightでは総合順位が黒で表示されます。)
イベント開催に伴う上昇は、15日土曜に釜山で無料ライブを開催したBTSにおいても同様で、「Dynamite」(2020)は41位をキープ、ポイント前週比は106.2%を記録しています(「Butter」(2021)は54→49位。前週50位未満につきポイント前週比は不明)。
このように、新曲やイベント開催がポイント前週比の上昇をもたらす傾向にあるビルボードジャパンソングスチャートにおいて、新曲リリースやイベント(と形容可能な出来事)がありながらも過去曲への波及が十分とはいえなかったのが、Adoさんです。
最新10月19日公開分(10月24日付)ビルボードジャパンソングスチャートの集計期間中に公開された映画『カラダ探し』。週末の全国映画動員ランキングでは2位スタートとなったこの作品の主題歌、そして挿入歌をAdoさんが担当しています。
Chinozoさん提供の挿入歌「リベリオン」そして椎名林檎さん提供による主題歌「行方知れず」…ボカロP等ネット音楽関係者がこぞって参加したアルバム『狂言』(2022)の流れ、およびシンガーソングライターによる提供作品群で構成された『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』の流れを汲んだ2曲ゆえ、ヒットの可能性は高いと捉えていました。
しかし「リベリオン」は3週前に20位に登場しながらその後は右肩下がりが続き、「行方知れず」に至っては最新ソングスチャートの集計期間初日にリリースされながら初登場25位というのは、決して高いといえないのではないでしょうか。
加えて、最新の国内映画ランキングを制した『ONE PIECE FILM RED』に用いられた曲はすべてポイント前週割れに。「新時代」(3→5位)が94.6%、「私は最強」(5→8位)が93.1%、「ウタカタララバイ」(8→15位)が89.5%、「逆光」(10→16位)が92.6%、「Tot Musica」(19→31位)が87.8%、「風のゆくえ」(25→35位)が89.8%、「世界のつづき」(32→44位)が89.8%。他方、ストリーミング主体にロングヒットする曲のポイント前週比は90%台後半で推移しています。
映画公開はある種イベントと言えるものであり、また新曲もリリースされた状況で、Adoさんの過去曲が上がっていないのは気掛かりといえます。
考えられるのは、『ONE PIECE FILM RED』関連曲はAdoさんの曲である以上にアニメ曲という意味合いが強く、分けて考える必要があるかもしれないということ。アニメ関連曲のヒットは徐々に大きくなり世界でも轟きやすい状況ですが、それが歌手の人気上昇や維持につながっているとは言い難いとも感じています。ゆえにAdoさんが新曲を出したとして、『ONE PIECE FILM RED』関連曲には反響しにくいと言えるかもしれません。
Adoさんの2曲が用いられた映画『カラダ探し』の評判も気になりますが、ともすれば主題歌を提供した椎名林檎さんの問題が、「行方知れず」の認知拡大にブレーキをかけた可能性もあるでしょう。
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— TBS NEWS DIG Powered by JNN (@tbsnewsdig) October 18, 2022
椎名林檎さん 物議の“ヘルプマーク・赤十字マーク似” 特典グッズ デザイン改訂 及び 発売延期を公表「法令の確認を含めた各種チェックが不十分であった」
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UNIVERSAL MUSIC JAPANの公式サイトが特典グッズのデザイン改訂、及び、発売延期を公表。#newsdig #tbsnewsdig pic.twitter.com/nPdQnGckbL
リミックスアルバム『百薬の長』の関連グッズがヘルプマークに酷似していたことが問題視されながら、協議を始めるまで、そしてグッズを取り下げるまでの時間がかかりすぎたことで今も不信感を抱く方は少なくない模様です。私見を申し上げるならば、椎名林檎さん本人から(レコード会社発信分の掲載以外に)何かしらのコメントがないことに対し、違和感を抱き続けています。
映画『ONE PIECE FILM RED』が公開から日数が経過していることで関連曲が落ち着いてきた、関連曲がこれまで強すぎたことで適正値に戻ったと捉える等も可能かもしれませんが、新曲効果が乏しかったこと、そしてその新曲を紹介したくとも大きく訴求できない事態が発生したことも、今回の結果につながったかもしれません。踏みとどまり上昇に転じるか、次週以降のチャートアクションを見極める必要があります。