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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

テイラー・スウィフト『Midnights』収録曲が米ビルボードトップ10独占へ…背景にあるテイラーの高いチャート意識

テイラー・スウィフトのニューアルバム『Midnights』が世界を席巻しています。

Spotifyのグローバルチャートには連日J-Popが200位以内に登場しているのですが、そのチャートにおいて10月21日付ではテイラー・スウィフトが20曲をトップ40内に送り込み、そのうち13曲が13位までを独占する快挙を達成しています(ゆえに米津玄師「KICK BACK」、藤井風「死ぬのがいいわ」は共に大きく順位を落としています)。

世界中のSpotifyの動向を日々追いかけるTwitterアカウントの発信から、今回の記録が如何に凄まじいかがよく解ります。今後『Midnights』の人気はミュージックビデオが解禁された「Anti-Hero」に集約されていくものと思われますが、如何にテイラー・スウィフトの新譜が期待されているか(後述する内容により、”期待値を高めさせたか”と表現してもいいかもしれません)、また注目を集めていたかがよく解る初日動向となりました。

そしてアメリカの人気も凄まじいものがあります。『Midnights』収録の4曲が米Spotifyデイリー再生回数で過去最高を樹立。この動きは他のサブスクサービスでも同様とみられ、米ビルボードソングスチャートを予想する方は今回の初日動向を踏まえて「Anti-Hero」が初登場で首位を獲得するのは勿論のこと、トップ10を占拠するのではないかとも発信されています。

これまでの最多記録はドレイクによる9曲。アルバム『Certified Lover Boy』が米ビルボードアルバムチャートに初登場を果たした2021年9月18日付において、収録曲が大量エントリーを果たしていました。

テイラー・スウィフトによる米ビルボードソングスチャートトップ10占拠を予想された方は、ドレイク『Certified Lover Boy』のSpotify初日動向が判明した直後に同作から少なくとも9曲がトップ10内に入ると予想していました。それが見事に的中している以上、今回のテイラー・スウィフト『Midnights』収録曲のトップ10独占も十分有り得るのです。

 

 

自分はチャートを追いかける身として、テイラー・スウィフトに対し常々このようなことを感じています。実際、今作におけるチャート施策も長けています。

テイラー・スウィフトは今作『Midnights』のリリースをMTVビデオ・ミュージック・アワードの受賞スピーチにて明かすと、TikTokを活用して1曲ずつ収録曲のタイトルを発表。そしてアルバムリリースの3時間後(すなわりリリース日)には”3AM Edition”と題した7曲追加バージョンを解禁しています。リリース前後のスケジュールを紹介したTikTokににおける”Special very chaotic surprise”とは、このデラックスエディションを指します。

@taylorswift Mark your calendars! Meet the Midnights Manifest 📜 #tsmidnights #swifttok #midnightsmanifest ♬ original sound - Taylor Swift

(なおテイラー・スウィフト『Midnights』はエクスプリシットバージョンでリリースされており、一部の曲にはSpotifyにおいてEマークが表示されています(Eマークについては露骨な表現を含むコンテンツ - Spotifyをご参照ください)。それゆえ、同作ではクリーンバージョンも用意されています(→こちら)。)

スケジュールの開示は、コアファンのみならずライト層の注目を高めることにもつながります。K-Popで多用されているこの手法を、テイラー・スウィフトはきちんと採り入れているのです。

 

そのテイラー・スウィフト、実は以前サブスクサービスから音源を引き上げたことがあります。

ユーザーが加入してから一定期間無料となるサブスクサービスにおいてその期間内再生分の収益が歌手へ入ってこないこと、またそもそもサブスクサービスが無料で受けられることについて抗議し、自身の作品を引き上げています。前者についてApple Musicの姿勢を一転させたのは彼女の影響力の大きさゆえという指摘もあるでしょうが、エンターテイナーがきちんと問題提起する姿勢は日本も見習う必要があると考えます。

自ら問題を示し解決させることでサブスクサービスとの信頼関係を築き上げたテイラーだからこそ、今回の『Midnights』にてテイラー側、サブスクサービス側共に積極的な施策や訴求ができたのかもしれません。また今作におけるTikTokの積極的な活用は、今のヒット曲がTikTokから生まれる(ことが多い)ことを踏まえてのものでしょう。

 

今作『Midnights』が早々にデラックスエディションというべき7曲追加版を用意したことは、チャート施策の意味合いも持ち合わせているといえます。収録曲数が多いほうが米ビルボードアルバムチャートで有利となるのです。

ビルボードアルバムチャートのチャートポリシー(集計方法)はデジタル/フィジカルのセールスのほか、単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)、そしてストリーミング(公式動画再生を含む)のアルバム換算分(SEA)を含みます。TEAやSEAは曲数の大小にかかわらず分母が同じであり、曲数が多いほうがTEAやSEAで有利に。またデラックスエディションリリースは、追加分の単曲ダウンロードを狙ったものとも考えられます。

実際、昨年度を制したモーガン・ウォレン『Dangerous : The Double Album』は元来30曲入りだった作品ですが、早い段階で3曲が加わったデラックスエディションが用意されています。

テイラー・スウィフト『Midnights』においては、追加分を含む20曲の公式リリックビデオがすべてテイラー・スウィフトの公式YouTubeチャンネルにて解禁(下記キャプチャ、およびテイラー・スウィフトの公式YouTubeチャンネル参照)。この再生分は米ビルボードのアルバムおよびソングスチャート、また米ビルボードが一昨年秋に新設したグローバルチャートにおけるストリーミング指標(動画再生含む)の上昇につながります。

 

また過去に有効だった施策についても、テイラー・スウィフトが最初に実施したと言われています。

またこのブログで毎週紹介する米ビルボードソングスチャートで幾度となく採り上げたフィジカル施策についてもテイラー・スウィフトが初と言われており(2019年リリースのテイラー・スウィフト feat. ブレンドン・ユーリー「Me!」と言われていますが、記憶違いの可能性もありますのでご了承ください)、注目を集めることに如何に長けているか、そしてチャートへの意識の高さがよく解るのです。

(ちなみに、フィジカル施策とは歌手のホームページ上でCDやレコード等フィジカルを販売し、またフィジカル到着までの間に曲を楽しんでもらうべくデジタルダウンロードも配布する方法。米ビルボードでは長らく、発送ではなく予約段階で売上を立て、またデジタルについても売上にカウントされたため、シングルリリース週に米ビルボードソングスチャートのダウンロード指標でロケットスタートを切ることが可能でした。

この施策を用いて総合ソングスチャートでも初登場で首位に至った、もしくは急浮上し首位に上り詰めた作品は複数ある一方、所有指標は急落傾向が高いため翌週は総合チャートでもダウンする傾向にあり、首位獲得週のみトップ10入りという作品も少なくありませんでした。

フィジカル施策を採った曲のチャートにおける不自然な動向を踏まえ、米ビルボードは2020年10月にフィジカル施策を実質的に無効とするチャートポリシー変更に至っています。フィジカルセールスのカウントは発送段階に改められ、またフィジカル購入時のデジタルダウンロードは売上にカウントされなくなっています。)

テイラー・スウィフト feat. ブレンドン・ユーリー「Me!」はリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」に阻まれ2位止まりだったものの、このフィジカル施策は徐々に浸透。様々な初登場首位獲得曲が生まれた一方でトップ10在籍1週のみという不健全なチャートアクションも登場し、それが後のチャートポリシー変更につながっています。

チャートポリシーの不健全さにつながることが解っていながら施策を実施することを個人的には好ましいと思いませんんが、チャート管理者側が早々にチャートポリシーの不備を見つけ改定するよう動くことが重要となるわけで、歌手側はその段階でのチャートポリシーを最大限活かしたチャート施策を行っているともいえます。その意味でも、テイラー・スウィフトは以前から施策に長けていたのです。

 

テイラー・スウィフトは今作『Midnights』のフィジカルにおいて、4種のジャケットを用意しています。

日本盤CDは、「Moonstone Blue」、「Jade Green」、「Blood Moon」、「Mahogany」という4形態でリリースされる。その4つのバージョンのバック・カバー・アートもそれぞれデザインが異なり、その4枚を合わせると時計のデザインになる。「Midnights」(意味:真夜中)というタイトルにかけた、

『Midnights』の世界観を示すための4種といえますが、収録内容は同一。海外ではロードが環境に配慮してCDを出さないという行動を採っていますが(ロード、yama、平井大、スピッツ…アルバムや曲がCDとして手に入らない/入りにくいという状況を考える(2021年8月21日付)参照)、テイラー・スウィフトの手法はコアファンの4種購入を促し、米ビルボードアルバムチャートの初週セールス最大化を狙っていると言えるでしょう。

 

 

テイラー・スウィフトは間違いなくチャートへの高い意識を持ち、影響力の高いデジタルプラットフォームやSNS等も積極的に用いてチャート最大化に努めており、実際その成果が出ています。

日本の音楽業界側はテイラー・スウィフトのチャート施策を意識する必要があるといえます。そして同時に、いやそれ以上に、サブスクへの直談判におけるエンターテイナーとしての態度を見習うべきではと強く思うのです。