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映画公開のタイミングで急上昇…Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」の凄さと、その背景を押さえる

Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」がここに来て急上昇を果たしています。

さらに8月8日月曜は「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」が再生回数を大幅に伸ばしています。

この躍進の兆候は8月5日金曜に。再生回数前日比はランクイン曲全体では微増でしたが、「新時代」は上昇幅が6.0%と大きくなっていました。そして6日土曜には31.1%、7日日曜には23.2%も増加し、2022年度のビルボードジャパン集計期間でみると日本でのSpotify再生回数が初めて30万台を突破したのです。これはビルボードジャパンで上半期ソングスチャートを制したAimer「残響散歌」でも成し得なかった記録でした。

シリーズ最大のオープニング成績を記録した映画『ONE PIECE FILM RED』でオリジナルキャラクターのウタの歌唱キャストを担当するAdoさんは、今作の使用曲を集めたアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』を本日フィジカル/デジタル同時リリース。中田ヤスタカさんが手掛けた「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」を筆頭に、著名な歌手等からの提供曲が収録されています。

無論、映画公開のタイミングでAdo「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」が伸びるのは想像できたことですが、ではなぜ今回ここまで圧倒したのでしょう。

 

 

そもそも興味深いのは、Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」のデジタルリリース日が映画公開の2ヶ月前となる6月8日水曜だったこと。ビルボードジャパンソングスチャートは月曜が集計開始日となるため初週は不利になりかねないのですが、「新時代」は高いダウンロードを武器に6月15日公開分(6月20日付)ソングスチャートで9位に初登場。そしてそれ以降、常時トップ10内をキープしています。

(上記は最新8月3日公開分(8月10日付)ビルボードジャパンソングスチャートのCHART insight。総合順位は黒の折れ線で表示。)

日本におけるSpotifyデイリーチャートでは8月5日金曜に上昇の兆候が見られたと紹介しましたが、複合指標から成るビルボードジャパンソングスチャートでは7月20日公開分(7月25日付)以降3週連続でポイントを伸ばしています。またダウンロードは常時、ストリーミングは登場2週目以降10位以内をキープしており、非常に安定しているのです。

「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」のリリース日はAdoさんが歌唱キャストとして発表された日の夜。アナウンス直後の解禁がダウンロードの初週セールスに反映されていますが、リリースが映画公開の2ヶ月も前であるためその後失速する可能性もあったかもしれません。

Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」の興味を持続させた一因として挙げられるのが、『ONE PIECE FILM RED』劇中曲が続々解禁されたこと、そしてそのスケジュールの開示と考えられます。続々リリースで興味を高止まりさせる目的は、ビルボードジャパンソングスチャートでのポイント下落幅を2割以内に抑えることにつながったと言えます。そして『FNS歌謡祭』(フジテレビ 7月13日放送)以降、プラスに転じます。

映像作品使用曲のデジタル解禁は作品の開始(に伴い音源が初解禁された)後ということが多く、Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」の2ヶ月前という設定は異例かもしれませんが、ウタという映画オリジナルキャラクターへの興味を高めるべく前もって解禁し、時間をかけて浸透させていったものと考えます。そして音楽番組への出演がデジタルを中心に上昇の契機になったことが、先述した表からよく解ります。

面白いのはビルボードジャパンソングスチャートのラジオ指標で100位以内を常時キープしていること。映像作品の解禁時等に再燃する傾向がありますが、勢いのキープは映画の宣伝力の高さ、そして徐々に曲が浸透していることを示していると言えるでしょう。また最も火が点くのが遅いカラオケ指標はこの数週で上昇路線に。映画公開とアルバムリリースに合わせたかのような絶妙のタイミングで上昇しているのです。

 

Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」の2ヶ月前リリースは見事に功を奏した形ですが、今回の一連のリリースはAdoさんの別の側面を紹介する意味でも巧いと感じています。

Adoさんといえば「うっせぇわ」を真っ先に挙げる方は少なくないでしょう。昨年春には「うっせぇわ」を聞いた30代以上が犯している、致命的な「勘違い」(鮎川ぱて @しゅわしゅわP) | 現代ビジネス | 講談社という記事も大きな話題となっていました。その後は「踊」等も大ヒットしていますが、ボカロP特有の難解なメロディをこなす歌い手というイメージが大きいかもしれません。

「うっせぇわ」や「踊」を収録し、今年1月にリリースされたファーストアルバム『狂言』は、Adoさんが曲毎に異なるボカロPとタッグを組んで生まれたネット音楽を代表するとも言える作品でした。それが『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』ではVaundyさんや折坂悠太さんといったシンガーソングライターが主体となって作品を提供しており、制作者のジャンルやコンセプトが『狂言』とは大きく異なると言えます。

とりわけ「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」における、1980年代の音像をアップデートした今の時代の流行を的確に押さえたJ-PopにAdoさんが挑むこと自体が新鮮と言えます。そしてそのネット音楽からJ-Popへの最初の橋渡しを担ったのが、Perfumeをスターダムに押し上げそのボーカル加工がネット音楽的なアプローチとも言える中田ヤスタカさんというのが、実に絶妙な人選ではないでしょうか。

ノーイントロで始まる「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」でAdoさんは、穏やかさ、力強さ、そしてファルセットを使いこなし、歌ヂカラをいかんなく発揮。そして中田ヤスタカさんが手掛けるサウンドが始まる…開始20秒だけでAdoさんの実力の高さを、そして曲全体を聴けばJ-Popとの相性の良さを感じることができるでしょう。

 

 

映画公開の2ヶ月前にウタの曲として第一弾をリリースしたAdoさん。フジテレビの大量宣伝(というのは実際、フジテレビ圏外の筆者には解らないのですが)の戦略も相俟って、チャート上でも最高の状態に突入していくのは確実です。

Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」は8月5日以降ストリーミングで上昇しているため、8月1~7日を集計期間とする8月10日公開分(8月15日付)ビルボードジャパンソングスチャートではポイントを上げたとしても首位には届かないかもしれませんが、8月17日公開分(8月22日付)ではフィジカルセールスに強い作品が見当たらないこともあり(下記表参照)、「新時代」が初制覇を果たす可能性は十分です。

そしてデジタル解禁、さらにフィジカルリリースもデジタルも押し上げる力があるため、『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』収録曲が複合指標から成るビルボードジャパンソングスチャートで複数トップ10入りするかもしれません。映画人気の凄まじさを感じると共に、Adoさん自体が新時代、更に高いフェーズに突入する可能性もまた十分考えられるのです。