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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ゲイル「Abcdefu」がブレイク寸前…Fワード等を用いる曲にみられる"共感"がヒットの源

今回は不快なワードを軸とした話題となりますことをご了承ください。

 

 

 

ゲイル「Abcdefu」…歌詞があまりにも強烈なこの曲が、世界中を席巻しています。

昨日お伝えしたように、ゲイル「Abcdefu」は米ビルボードによる12月18日付グローバルチャートでGlobal 200、Global Excl. U.S.共にトップ3入り(昨日のブログエントリーはこちら)。同日付米ビルボードソングスチャートでは登場3週目にして15位に躍進しています(チャートはこちら)。上位14曲中7曲がクリスマスソングであることを踏まえれば、クリスマス後のチャートで主役に躍り出る可能性は十分なのです。

さらには日本でも。12月13日付の日本におけるSpotifyバイラルチャートではこのゲイル「Abcdefu」がトップに立っています(チャートはこちら)。ワーナーミュージック・ジャパンは早い段階で、「Abcdefu」の日本語訳を付けた各種動画を公開しています。

@warnermusicjapan.intl 💔攻撃的失恋ソング💔 #GAYLE の「#abcdefu#日本語字幕 付き動画公開✨#tiktok和訳 #洋楽和訳 #失恋 #共感ソング ♬ abcdefu - GAYLE

 

"fu"とはすなわちF**kというカースワードの一種。日本では米で用いられるペアレンタル・アドバイザリーが設けられていないこともあり(自主)規制されていない印象ですが、米では避けるべき言葉です。

使うべきではない英語表現はきちんと頭に入れるべきと考えますが、一方ではFワードが良くも悪くも使い勝手がいいゆえか、多用される印象があります。そしてゲイル「Abcdefu」においてはTikTokで人気になっているのです。前週のチャート振り返りの中でも紹介しています。

この「Abcdefu」にはロイヤル・アンド・ザ・サーペントを迎えたリミックス等、様々なバージョンが存在。さらにTikTokでのバイラルヒットが上昇の要因となり、現段階で「Abcdefu」を用いた動画は86万以上アップされています。

@dixiedamelio

 

♬ abcdefu - GAYLE

上記動画は人気TikTokerのディクシー・ダミリオによるものですが、彼女はこの動画をアップする直前、Nワードを用いた動画が物議を醸したばかりでした(詳細は人気TikTokerのディクシー・ダミリオ、「人種差別用語」を使った楽曲でダンスして物議に - フロントロウ(11月24日付)をご参照ください)。上記動画は残っていることから、Fワードはまだ使われていい言葉なのかもしれません。無論気をつけないといけませんが。

 

 

日本においてはここ最近、共感型のヒット曲が増えています。これは自分も参加させていただいた音楽ナタリーの座談会にて、音楽ジャーナリストの柴那典さんが述べていたことです。

そうだ、“共感”だと思います。実は2010年代は“共感”よりもむしろ“参加”がヒットの原理になっていたと思っていて。その代表がAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」のような、自分の恋愛をそこに重ねるというよりも、一緒に踊ってみんなで楽しむ曲。星野源の「恋」も「恋ダンス」が流行った。ああいう参加型のヒット曲が2010年代は強かった気がしていて。もちろんUGC*1は依然としてすごい勢いがあるので参加型の曲がなくなったわけではないんですが、ひさしぶりに恋愛の共感ソングがヒットのど真ん中に戻ってきたのが「ドライフラワー」という感じがします。瑛人の「香水」も恋愛の曲ではありますが、あれはどちらかと言うとTikTokの現象面が強かったので。

ともすれば昔の恋人を懲らしめたい(けどできるわけがない)という思いを抱いた方には「Abcdefu」を聴いて共感したいという思いがあるのかもしれません。Fワードは日本でも浸透度の高い言葉ゆえ、日本でも人気に火がつく可能性はあるでしょう。

 

 

実はこのFワードならびにキツい言い回しを用いた曲のヒットは以前から生まれています。かつてはYouTubeTikTok等動画サービスはありませんでしたが、おそらくは共感を呼んだことでヒットに至ったという例が散見されるのです。

・ケリス「Caught Out There」(1999 米54位)

・イーモン「F**k It (I Don't Want You Back)」(2003 米16位)

・シーロー・グリーン「F**k You」(2010 米2位)

シーロー・グリーンの「F**k You」はクリーンバージョンの「Forget You」としても知られ、ブルーノ・マーズが手掛けたことでも有名な作品です。この曲についてはリリックビデオが用意されていますが、それだけではありませんでした。

単純でストレートなメッセージ&歌いやすいメロディが人々を触発し、数多くの替え歌やパロディ・ビデオが公開されているのだ。あげく50セントが、オリジナルにラップ・パートを加えたバージョンをいち早く発表することも、ムーブメントに拍車をかけた。

F**k You(字幕ヴァージョン)

F**k You(日本語字幕ヴァージョン)

そして、数多くの「F**k You」関連動画の中でも、人気爆発の発端になったのが公式字幕ビデオだった。文字通り歌詞を表示しているビデオで、アップされるやすぐに700万回以上の再生を記録。その後、スペイン語やドイツ語版も公式に制作される盛り上がりを見せてきたのだ。そして11月8日、遂に立ち上がったのが公式字幕ビデオ日本語版の公開だ。

シーロー・グリーン、世界中で話題の「F**k You」が遂に日本語で登場 | BARKS(2010年11月8日付)

ワーナーミュージック・ジャパンはシーロー・グリーン「F**k You」において、元のリリックビデオに沿った形で日本語詞のリリックビデオを用意しています。ともすればゲイル「Abcdefu」において早々に日本語訳をつけたバージョンが公開されたのは、シーロー・グリーンにおける成功があったゆえかもしれません。参加型動画も多く生まれていますが、リリックビデオはむしろ共感を呼び込むものと言えそうです。

 

Fワード等を用いた曲は、今年に入ってからも登場しています。

・ヴィクトリア・モネイ「F.U.C.K.」(2021)

シルク・ソニックからH.E.R.、嵐「Whenever You Call」までを手掛けるDマイルがプロデュースした、R&B界の新鋭による作品。Friend U(You) Can Keepの略という一捻りはありながらも、ミュージックビデオをみれば懲らしめるという点において共通しています。

 

・シザ「I Hate U」

最新12月18日付米ビルボードソングスチャートで7位に初登場したこの曲は、今夏SoundCloudで初お目見え→TikTokでバイラルヒットという流れが生まれた後にリリースされています。

@lyricalbible_ I hate you -SZA (on SoundCloud rn) #Sza ♬ I Hate U - SZA

11月にTikTokにアップされた、おそらくはファンの撮影によるシザ「I Hate U」のパフォーマンス映像をみると、ファンも歌っていることが判ります。つまり、12月3日のリリース以前から知られているわけです。

@reegnorak since this song is trending 🥺 here’s her doing it in #dallas #sza #ihateyou #foryou @sza ♬ I Hate U - SZA

シザ「I Hate U」は、以前ブログに記載したチラ見せ公開の一種ではないでしょうか。尤もこの曲においては歌手側が12月のリリース前にTikTokで公開していないためファン主体の動きではありますが、口コミで拡がるという最良のヒットの形が生まれたと言えます。そして嫌いという感情の最も尖った形での発露が共感を呼んだものと考えられます。

(米ビルボードソングスチャートでは7位に初登場しながら、シザ「I Hate U」はラジオ指標が極端に低い状況です。おそらくはラジオ局側が"Hate"という直接的な言葉を敬遠した可能性があり、ストリーミングやTikTokとラジオとの差を強く感じることもできるのです。)

 

 

現代の共感性を武器に「Abcdefu」でブレイク必至のゲイル。彼女は同曲における高い攻撃性の一方で、ラジオから初めて自分の曲が流れてきたときのリアクションもTikTokに投稿しています。

@gaylecantspell

this moment would not have happened without everyone streaming/making videos to abcdefu so from the bottom of my heart i just want to say thank you

♬ abcdefu - GAYLE

ラジオでもどこまで人気になるか、そして世界のみならず日本でもブレイクなるか…ゲイル「Abcdefu」に注目していきましょう。

*1:UGCとはUser Generated Contentsの略。"踊ってみた"や"歌ってみた"等に代表されるユーザー生成コンテンツを指します。