2022年度上半期に社会的にヒットした、もしくはチャートを語る上で欠かせない曲を選んでみました。J-Popについては6月10日に発表されたビルボードジャパンによる各種年間チャートを参照しています。
2021年度下半期についてはこちら。
今回は昨年12月から今年5月の間にヒットした作品を取り上げています。リリースタイミングはこの限りではありません。
2022年度上半期の社会的なヒット曲、もしくはチャートを語る上で欠かせない曲
① Aimer「残響散歌」
ビルボードジャパンソングスチャートで通算9週もの首位を獲得し、上半期チャートでは2位に大差を付け首位に。第1四半期に強力なフィジカルシングルが少なかったことも有利に働きましたが、仮にそれら作品群に週間での首位の座を阻まれたとして、上半期1位は揺らぐことはなかったでしょう。"鬼滅の刃"ブランドの強さを如実に示す大ヒット曲の誕生です。
② King Gnu「一途」「逆夢」
鬼滅の刃同様に旋風を巻き起こしたアニメが"呪術廻戦"。映画に起用されたKing Gnu「一途」および「逆夢」が共に大ヒットし、とりわけ後者がフィジカル関連指標未加算ながら上半期チャートでトップ10入りしたことは、アニメの訴求力の強さを印象付けるに十分でした。またKing Gnuは後にドラマ主題歌「カメレオン」もヒットしたことで、今後リリースされるであろうアルバムの行方に注目しないわけにはいきません。
③ 優里「ベテルギウス」
格闘技観戦を理由に(?)、昨年大晦日の『NHK紅白歌合戦』は欠場。しかし年明けリリースのアルバム『壱』や収録曲の「ベテルギウス」のヒットにより2022年も優里さんの活躍が続いています。「ベテルギウス」においてはTHE FIRST TAKEが初お目見えの場となっており、人気YouTubeチャンネルの新たな活用術も誕生しています。
④ Tani Yuuki「W / X / Y」
TikTok等ショート動画を契機とした新たなヒットが今年も誕生。バンド人気も相俟ってSaucy Dog「シンデレラボーイ」等もロングヒットしていますが、Tani YuukiさんはTikTokインフルエンサーが考案した振り付けを覚え披露したことで、TikTokのバズを自らの手で大きくすることに成功。TikTokのムーブメントに自ら楽しんで乗っかることがヒット規模を拡大させることを証明しています。
⑤ Snow Man「ブラザービート」
TikTok Weekly Top 20ではなにわ男子「初心LOVE」に続き、Snow Man「ブラザービート」もロングヒット。動画再生指標ではSixTONESやKing & Princeもヒットし、ジャニーズ事務所の動画への意識の高さが解る一方、デジタル未解禁ゆえ総合チャートでロングヒットに至れないのは勿体ないと考えます。「ブラザービート」は別動画もフルでアップしており、フルバージョンのニーズを運営側が確信していると考えれば尚の事です。
①~⑤については、今年度のビルボードジャパン上半期ソングスチャートを分析したブログエントリーで詳しく紹介しています。
⑥ カロリーナ・ガイタン、マウロ・カスティージョ、アダッサ、レンジー・フェリズ、ダイアン・ゲレロ、 ステファニー・ベアトリス & エンカント・キャスト「We Don't Talk About Bruno」
邦題は「秘密のブルーノ」。ディズニー映画『Encanto (邦題:ミラベルと魔法だらけの家)』で使われたこの曲が米ビルボードソングスチャートを5週制し、ディズニー映画においてはピーボ・ブライソン & レジーナ・ベル「A Whole New World」(1993 『アラジン』より)以来となるソングスチャート首位獲得。Disney+(ディズニープラス)の早期配信が功を奏してか、ストリーミングの強さが際立つという今どきのヒットの形に。
⑦ ゲイル「Abcdefu」
TikTok発のヒットは海外でも多く発生。"おまえの犬以外の全員、消え失せて"という歌詞は強烈ながらも、世界中で大ヒットを収めました。米ビルボードソングスチャートでは首位獲得に至れなかったもののふたつのグローバルチャートを制することができたのは、複数のリミックス投入も影響しつつ、共感性の高い歌詞が人気の秘密と言えそうです。
⑧ グラス・アニマルズ「Heat Waves」
リリースは2年前。昨年はじめに米ビルボードソングスチャートに登場すると、TikTokで歌詞を用いたバズが発生、またラジオも人気となったことでロングヒット化。遂には3月、米ソングスチャートを制しています。ともすれば今年度の米ビルボード年間ソングスチャートも制しそうな勢いのこの曲は、ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」やデュア・リパ「Levitating」等特大ヒット曲の動向を彷彿とさせます。
⑨ ジャック・ハーロウ「First Class」
TikTokでプレビューしたことで音源リリース前からバズを起こした「First Class」は、初登場で首位を獲得し現在もロングヒット中。ファーギーの全米首位獲得曲「Glamorous」(2006)を用いたこともあってラジオも急浮上し、直近の2週間この指標を制しています。アルバムリリースのタイミングでミュージックビデオを解禁し、アルバム初登場週にソングスチャートで首位返り咲きを果たす等、施策も見事です。
⑩ ハリー・スタイルズ「As It Was」
1980年代ムーブメントが続く中、その勢いをさらに大きくさせたと言えるのがハリー・スタイルズ「As It Was」。現在までに米で通算7週、グローバルチャートではふたつのチャート共に通算10週の首位を獲得し、年間チャート制覇を目指せる位置にあると言えるかもしれません。
以上10項目11曲、如何だったでしょうか。今回紹介した曲のおよそ半数においてTikTokがそのヒットに貢献したことを踏まえれば、TikTokが如何に人気のツールであるかが解ると共に、米で一時TikTokが禁止されるかもしれなかった事態を考えると、無謀な政治が文化を容易に壊しかねないということを強く感じた次第です。
現在日本ではOfficial髭男dism「ミックスナッツ」やSEKAI NO OWARI「Habit」がヒットを続け、海外ではケイト・ブッシュ「Running Up That Hill (A Deal With God) (邦題:神秘の丘)」がリバイバルヒット中。これらの曲は勿論のこと、今後爆発的な人気と成る曲も登場する可能性があり、チャートの動向に目が離せません。そして社会の人気を、(デジタル解禁していれば尚の事ですが)如実に反映したのが音楽チャートと言えるのです。
2022年度後半も社会的なヒット曲が生まれること、楽しみにしています。