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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

関ジャム【プロが選ぶ年間マイベスト10曲】を踏まえ、この企画こそ特番化すべきと考える3つの理由

1月22日および29日に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)にて、【プロが選ぶ年間マイベスト10曲】という企画が行われていました。選者はレギュラーと言えるいしわたり淳治さん、蔦谷好位置さんに加え、今回は佐藤千亜妃さんが参加。順位および選出理由は今回もモデルプレスがきちんと記事化されていますのでそちらを紹介します。

いしわたり淳治さんは歌詞を、佐藤千亜妃さんはアレンジを、蔦谷好位置さんは注目の若手を主体に選出し、またTikTok発のヒットを多く取り上げた印象があるのですが、自分が今回のランキング結果を知り何よりまず感じたことはこちらでした。

K-POPアクトが韓国語曲で海外でヒットするならば日本も同様の現象が起こりかねないという蔦谷好位置さんのコメントで番組は終了しましたが、しかしそのためにアメリカをはじめとする海外の動向が今回の企画から見えてこなかったのは強く残念に思います。

 

たとえば2022年においては、TikTok発のヒットが海外でも多く出ています。下記は2022年度米ビルボードおよびグローバルにおける年間ソングチャートの総括エントリーとなりますが、前者においてはトピックのひとつとしてTikTok発のヒットを取り上げています。

また佐藤千亜妃さんが選出したちゃんみな「美人」から想起される曲として、ビヨンセ「Break My Soul」が挙げられます。ボディポジティブを推奨してきたリゾによる「About Damn Time」共々、米ビルボード週間ソングチャートを制しています。

 

例示した音楽チャートと今回の番組企画は直接の関係がないとして、しかし番組冒頭にネクストブレイク歌手をいち早く見出したと銘打ったり、また以前には選出曲が被った際に”売れた”というガヤが発せられたことを踏まえれば、この企画が個人の選出ながらも業界全体に大きな影響を与えるであろうことを番組側は理解しているものと考えます。だからこそ、K-POP以外の洋楽の選出ゼロには違和感を覚えるのです。

(ちなみに昨年放送の2021年マイベスト10企画では、いしわたり淳治さんがオリヴィア・ロドリゴ「Drivers License」およびセイレム・イリース「Coke & Mentos」を選出しています。2021年のランキングは関ジャム、プロが選ぶ「2021年の年間マイベスト10曲」発表「大豆田とわ子と三人の元夫」主題歌が2人から同時選出<一覧> - モデルプレス(2022年1月17日付)をご参照ください。)

 

この違和感解消のためにも、個人的にはこの企画こそゴールデン帯で特番化することが必要だと考えた次第です。その理由は3つ。

 

1つ目は個人の偏りが反映されにくくなる点。選者の中にはめったなことでOfficial髭男dismや米津玄師さんは選ばないと公言する方がいらっしゃいますが、それはあくまで個別に設けたルール。しかし記事化されたりランキング画像が出回った際、その個別ルールが併記されることはほぼありません。また各選者が何を基準に選んでいるかについても、詳細な説明がなければ見えてきません。

関ジャム 完全燃SHOW』はこれまでもゴールデン帯での特番を実施し、2021年3月には【J-POP20年史 プロが選んだ最強の名曲】企画が放送されています。個人的にはこれに近い形で【プロが選ぶ年間マイベスト10曲】も行ってほしいと思うのですが、一方では課題もぬぐえません。

尤も、選者が"最強の名曲"を何を基準にして決めたかは人それぞれであり、その選出基準を番組側が絞らなかったことによる曖昧さも影響していると考えます。音楽業界にとってエポックメイキングであったこと、純粋に名曲であると考えること、社会的なヒットと考えること、個人的な思い入れ等その基準は様々でしょうが、各選者のランキングを総計すれば各々の選出基準が均され、狭間のヒット曲が抜け落ちた現象が生まれたのではないでしょうか。

選者を増やしたことでランキングから抜け落ちる曲はどうしても存在します。【プロが選ぶ年間マイベスト10曲】企画は重複曲が多くないだろうと思うゆえ、そのような曲はさらに増えるでしょう。ならばゴールデン帯で特番を組む際には上位10曲に紹介を絞り、注目曲については通常枠も用いて別途紹介することでこの課題はある程度解決が可能と考えます。洋楽も入る可能性は高く、また企画を一回で放送することも可能です。

 

2つ目は大々的な音楽評論の場を用意することができる点。これは以前ツイートした内容の通りです。

 

そして3つ目は、現在の社会的ヒット曲の鑑であるビルボードジャパンソングチャートの紹介につなげられる点。ビルボードジャパンの年間ソングチャートでもTikTok発のヒット曲は少なくなく、音楽関係者が選ぶ10曲を紹介した後に”では音楽チャートではどうだったか”としてビルボードジャパンを紹介し、チャートの仕組みを深掘りすることにもつなげられるでしょう。

TikTok発のヒット曲がビルボードジャパンの総合ソングチャートでも登場するのは、人気や音楽的評判がサブスク再生回数等につながるためで、話題が可視化されやすいチャートと言えます(ただしアルバムチャートは現在所有指標のみで構成され、ソングチャートほど可視化されていないというのが私見)。こちらのツイートから考えさせられるものもあり、音楽チャートの内容や重要性を広く浸透させることは尚の事大事と考えます。

 

 

【プロが選ぶ年間マイベスト10曲】企画をより多くの音楽関係者に選んでいただき、個別のランキングを別途(通常枠も用いて)解説することで大きな音楽業界の流れも個別の見方も押さえることができます。音楽評論が根付き、また評判からのヒット化が可視化されやすいビルボードジャパンのソングチャートを共に紹介する形が生まれれば、『関ジャム 完全燃SHOW』の音楽業界における重要度は格段に上がるものと考えます。