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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

2020年度ビルボードジャパンソングスチャートを”定点観測”…特筆すべきこととは

2020年度のビルボードジャパン各種チャート発表をちょうど1週間後に控えた今日は、ソングスチャートを様々な面から定点観測してみます。

 

今年は新型コロナウィルスに伴う緊急事態宣言の影響で、CDショップ等の自粛やCDリリースの延期もしくは中止という事態が発生。カラオケ指標は4月20日付~6月29日付の計11週もの間、集計を取り止めました。これらはソングスチャートの推移に影響を与えています。

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ソングスチャートの1位、10位および50位のポイントを定点観測したのが上記。カラオケ指標集計取り止め期間は多くの週で2万ポイントを下回りました。このグラフから1位を除いたものがこちら。

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カラオケ指標集計取り止め期間のポイント落ち込みが目立つものの、10位そして50位のポイントはこの一年で上昇していることが解ります。

 

では、ソングスチャートのポイント上昇(もしくは底上げ)にとりわけ寄与しているのはどの指標でしょうか。

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シングルCDセールス指標50位、およびダウンロード指標10位の今年度の推移をみると、双方とも緩やかに下降していることが解ります。その一方、ストリーミング再生回数は見事な右肩上がりとなっています。

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(ちなみに再生回数と記したのは、ストリーミング指標については再生回数がそのままポイントに落とし込まれるわけではないため。各サブスクサービスの有料会員による1再生と無料会員とのそれとでウェイト付けが異なります。)

ここ数週はLiSA「炎」のストリーミング再生回数が凄まじいのですが、一方で今年度最終週における10位の再生回数は最初の週の2.48倍、2年前に比べると実に6倍近くに達しています。8月17日付…それこそ米津玄師さんが『STRAY SHEEP』リリースのタイミングでサブスクを解禁し、アルバムの首位初登場に加えて様々な楽曲がソングスチャートで急伸を遂げた週以降は、10位の再生回数が1週を除いて400万台を超え、最新11月30日付に至っては過去最高となる470万台を叩き出しました。よって、ストリーミングの急伸がソングスチャートのポイント底上げに最も影響を与えているものと断言してよく、ここでのヒットが他指標にも波及しロングヒットに至るとも言えそうです。言い換えれば、サブスク未解禁や後回しという施策が如何にヒットの芽を育てられないかということも解ります。

 

今年度のソングスチャート、1位から3位までの曲を順位毎に一覧化してみると。

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トップ3入りした翌週のポイント前週比をみれば、先述したストリーミングに加えて動画再生やダウンロードといった指標群でトップ10入りした曲が高く推移していることが解ります。

その一方で、首位獲得曲における翌週のポイント前週比が2位および3位に比べて低く、如何にロングヒットに至れていないかもまた解ります。首位におけるあたかもとっかえひっかえ的なこの状況は、シングルCDセールスに長けながら他指標が振るわない(中にはデジタル自体解禁していないため加点できない)ためにCDセールス加算2週目に他指標が補填できず急落することの表れです。

日本の興行収入記録を塗りかえんとする映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌で、首位登場からわずか6週で年間ソングスチャートトップ10入りが見込まれるLiSA「炎」の初週CDセールスが6万5千枚であることを踏まえれば、(作品ではなく歌手の)コアなファンが主体となって購入され首位獲得の原動力となるCDセールスについては、現状30万と言われている係数適用の売上枚数を、極端に言えば10万に設定し直すことも議論していいかもしれません。首位獲得曲は翌週の推移を見て真の社会的なヒット曲かを判断することを以前から勧めていますが、そこまで意識してチャートをチェックする方が多いかは不明であり、ならば1週間のチャートのみでも真のヒット曲が解る仕組みを構築すべきだと考えます。

 

最後にTwitter指標の動向について。

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この2年間の毎月最終週のTwitter指標上位20曲について歌手名を記載し、またその歌手のジャンル毎に色付けをしています(なお、たとえばLiSA「炎」「紅蓮華」はアニメ主題歌ながら、歌手の元来のジャンルを踏まえ黄色では表示していない等、ジャンルの括り方は曖昧と思われておかしくないのですが)。これをみると、上位陣はこの2年の間にK-Popアクトや女性アイドルから日本の男性アイドル主体へと移行しています。

弊ブログのTwitter指標に関するエントリーは時折彼らの熱心なファンの方々に参照され、Twitter指標を盛り上げビルボードジャパンソングスチャートにランクインしようとする目的から共有される傾向があります。それ自体は嬉しいと思う一方、たとえば最新11月30日付のTwitter指標2位であるJO1「Shine A Light」は動画再生でも47位に入りながら総合100位には至れていません。おそらくは総合チャートのポイントが大きく底上げされたことにより、Twitter指標でいくらコアなファンが頑張ったとしても総合100位以内へのエントリーが難しくなったものと考えます。それこそ星野源「うちで踊ろう」級のバズがなければ厳しいのかもしれません。

 

 

ストリーミング指標がポイント上昇に大きく寄与し、トップ3獲得の翌週におけるポイント推移をみてもロングヒットの要になることがこの1年でさらにはっきりしたというのが、今回の定点観測の結論です。ビルボードジャパンの記事で数値化されることがほとんどない動画再生指標についても似た傾向があると言えるでしょう。これら接触指標群の充実が如何に重要かは幾度となく申し上げてきましたが、客観的なデータでよりはっきりと証明されたと捉えていいはずです。