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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(記事追加あり)【ビルボードジャパン最新動向】「流れ弾」「Scars」がストリーミング指標で上位進出…その理由と私見

(※追記(7時46分):最新10月20日公開(10月25日付)ビルボードジャパンソングスチャートの記事を追加しました。)

 

 

 

毎週木曜は、最新のビルボードジャパンソングスチャートから注目点を紹介します。

10月11~17日を集計期間とする10月20日公開(10月25日付)ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。フィジカル関連指標初加算に伴い、櫻坂46「流れ弾」が首位を獲得しました。

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また2位にはStray Kids「Scars」が前週の39位から大幅アップ。これは櫻坂46「流れ弾」同様、最新週でフィジカル関連指標が初加算されたことに伴います。

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さて、この2曲には共通の特徴がみられます。LINE MUSIC再生回数キャンペーンを活用しているのです。

櫻坂46「流れ弾」はフィジカルリリース日にあたる10月13日水曜からキャンペーンが実施中、またStray Kids「Scars」はデジタル先行解禁となった10月6日水曜から最新週のビルボードジャパンソングスチャート集計期間最終日まで適用されています。これがサブスク再生回数等を基とするストリーミング指標を大きく押し上げた形です。

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上記CHART insightにおいて、ストリーミング指標は青で表示されます。ロングヒット曲の多い今週のソングスチャートトップ10では3位以下がすべてストリーミング指標10位以内に入っていますが、上位2曲も一見して遜色ない動きに映るかもしれません。

 

ストリーミング指標は本来、ロケットスタートしやすいものではないと言えます。LiSA「炎」のような再生回数新記録(当時)を樹立した曲のように話題性の高い作品ならばまだしも、基本的に加算初週における順位は低いのが特徴です。

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ロングヒットを続ける曲でLINE MUSIC再生回数キャンペーンが用意されなかった曲の動向をみれば、back number「水平線」(今週総合3位)のストリーミング指標はサブスク解禁後の初週に57位を記録*1Official髭男dism「Cry Baby」(今週総合4位)はストリーミング指標が48位スタート、YOASOBI「怪物」(同10位)は同40位スタートとなっています。

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また、共に10月15日配信開始となったKing Gnu「BOY」(総合13位)はストリーミング指標54位スタートとなり、LiSA「往け」(総合22位)は同指標が300位圏内となり加点対象となっているものの100位以内には入れませんでした。解禁日の曜日にも左右されるとはいえ、これらを踏まえれば櫻坂46「流れ弾」やStray Kids「Scars」のストリーミング指標はより高い位置で初登場を遂げていることが解ります。

 

 

最新のビルボードジャパンソングスチャート、トップ2の動向からみえてくる点は2つあります。ひとつはLINE MUSIC再生回数キャンペーン採用曲はストリーミングに強く、且つロケットスタートを切っているということ。そしてもうひとつはフィジカルセールスに強い曲がLINE MUSIC再生回数キャンペーンを採用しているということです。

 

本来、フィジカルセールスに強い曲は同指標を武器に総合首位を獲得しながら翌週はその反動で急落することが多くあります(前週首位のKing & Prince「恋降る月夜に君想ふ」が31位に急落したことは分かりやすい例と言えます)。また2021年度の下半期(第3四半期)初週にフィジカルセールスのウエイト減少というチャートポリシー変更を実施したことで、フィジカルセールスに強い曲が総合で首位を獲得しにくい状況が生まれました。

さらに第4四半期には、コアなファンがビルボード活動等と称して好きな歌手の作品を推すために参加しやすいTwitterやルックアップといった指標群のウエイトが引き下げられるというチャートポリシー変更も行われています。

最新週においてフィジカルを40万枚以上売り上げた櫻坂46「流れ弾」や同じく18万以上売り上げたStray Kids「Scars」はそのフィジカルセールスだけでも上位を狙うことは可能でしたが、ストリーミングを強化させて盤石な体制とすべくLINE MUSIC再生回数キャンペーンを採用したものと思われます。さらにストリーミング指標はライト層のニーズの高さと受け止められやすく、より広くヒットしているという印象付けも可能です。

しかしながらLINE MUSIC再生回数キャンペーンは、再生回数が多いほどイベントへの参加資格やグッズが当選しやすい性質を考慮すれば、コアなファンの頑張りが大きく反映されたものです。BTSの英語詞曲やNiziUのプレデビュー曲等でもこのキャンペーンが用意されていますが、キャンペーン終了後も勢いが持続するのはその後のライト層への浸透がみられたため。キャンペーンを活用した大半の曲は終了後に急落しています。

ロングヒット曲においてはストリーミング指標ほど急落が考えられず、ゆえにキャンペーン活用曲におけるストリーミング指標の急落はフィジカルセールス指標化と称しても差し支えないでしょう。

 

LINE MUSIC再生回数キャンペーンは、当選したいとするコアなファンと有料会員数を増やしたいLINE MUSICにとってはWin-Winの関係とも言えますが、音楽業界全体にとってはストリーミング再生回数の乱高下を生み、再生回数から真のヒット曲が読みにくくなった点においてプラスとはいえないというのが私見ビルボードジャパンがキャンペーン適用曲に対しウエイトを引き下げる等の措置を採る必要があるとも考えます。

 

 

櫻坂46「流れ弾」、Stray Kids「Scars」に限らず、LINE MUSIC再生回数キャンペーン適用曲においてはその終了後のチャートアクションを追いかけることが必要です。キャンペーン後に急落するならばライト層があまり獲得できていないと言え、ロングヒットに至ることはほぼできません。歌手側は勿論のことキャンペーンに参加するコアなファンも、推す歌手の作品をキャンペーン後も高めていく策を講じる必要があります。

*1:なお「水平線」はデジタル解禁前、YouTubeでのみ長期間公開されており、YouTube Musicの再生回数でストリーミング指標300位以内に達したことがあります。