イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) LiSA「炎」が完勝、3万を超えるポイントは誇るべき内容…10月26日付ビルボードジャパンソングスチャートを掘り下げる

※追記(10月23日21時54分):10月26日付ビルボードジャパンソングスチャートにおけるストリーミング指標の記事を掲載し忘れていたため、貼付しました。

 

 

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を紹介します。

10月12~18日を集計期間とする10月26日付ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)、前週からこのブログで予想した通りLiSA「炎」がトップに立ちました。そしてそのポイント数に注目です。

アルバム『LEO-NiNE』もチャートを制し、ビルボードジャパンでは史上初のソングス/アルバムチャート同時制覇を成し遂げたLiSAさん。さらに、ソングスチャートはほぼ完勝といえる結果となっています。

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カラオケ指標を除く7指標が全て3位以内、うち4指標を制覇という状況です。

 

所有指標はシングルCDセールスが65000枚(うち水曜までのセールスは37077枚)、ダウンロードが144446DL(うち水曜までのセールスは57505DL)。双方共に週後半の4日間で売上が失速することなく、金曜に主題歌となった映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が公開されその鑑賞後に購入行動を起こす方が多かったと想像できます。とりわけ、よりカジュアルに購入できるダウンロードのほうが週後半の伸び率が高くなっており、今回のダウンロードセールスは2020年度においては米津玄師「感電」(7月20日付 158572DL)に次ぐ二番目の高さとなりました。

 

接触指標群のうち、ユーザーが自ら選択できないという意味で受動的接触といえるラジオエアプレイにおいても首位発進。ビルボードジャパンのラジオエアプレイ指標はオンエア回数に調査対象局のエリア別の人口や聴取率を加味して出されるものですが、データを提供するプランテックが発表した同期間内の純粋なオンエア回数でもLiSA「炎」がトップを獲得。しかも今週2位のaiko「ハニーメモリー」が『先週1位からのダウンながら、オンエア数もリクエスト数も先週から大きく増加』していることを踏まえれば、今回の「炎」が如何に大量のOA数を稼いでいるかが理解できます。『』内は下記記事より。

 

そして能動的な接触といえるサブスクの再生回数に基づくストリーミングは、NiziU「Make you happy」に次ぐ『チャートイン1週目の週間再生としては歴代2位となる8,989,155回再生を記録』(下記記事より)。

NiziUがリリースタイミングでLINE MUSIC再生回数に関するキャンペーンを実施していた(一方でLiSA「炎」ではキャンペーンが見当たらない)ことを踏まえれば(Pre-Debut Digital Mini Album 『Make you happy』の配信を記念して、各配信ストアでのキャンペーン実施が決定!! | NiziU | ソニーミュージックオフィシャルサイト(6月29日付)参照)、仮に「炎」がLINE MUSICキャンペーンを実施していればチャート初登場時の週間再生回数記録を樹立できたかもしれません。

 

ルックアップについては、アルバム同様のレンタル解禁日を設けたことでレンタルCDに伴う分が加算されず同指標2位となりましたが、仮に発売と同日解禁にしていれば…という思いがあります(そしてレンタル同日解禁に至ったとして、CDセールスが著しく下がるとは思えないとも考えています)。

 

 

「炎」については無論、映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の影響はありますが、観た方の感動や熱意を受け止める場所を所有指標にも接触指標にも十分用意したことでより大きなポイントに繋げることができたと言えるでしょう。施策の徹底、そのタイミングの巧さは以前記しています。

またミュージックビデオをフルバージョンにて解禁したことが動画再生指標3位に至った要因と言えます。フルバージョンの重要性については、ショートバージョンで公開した「紅蓮華」が動画再生指標最高8位にとどまっていることも含めこちらも紹介済です。

昨年の『NHK紅白歌合戦』の出演効果が動画再生指標の伸びに活きなかった「紅蓮華」の反省を踏まえてでしょう、「炎」ではフルバージョンでのミュージックビデオ解禁にこだわったものと考えます。そしてCDレンタルを除く全てを同週解禁に至らせたことで大きなうねりを作ることに成功し、「紅蓮華」で成し遂げられなかった首位、そして同作が超えられなかった1万ポイントを大きく上回る30997ポイントでの首位獲得を「炎」が成し遂げています。

 

 

さて、「炎」のチャート推移をみると面白いことが解ります。

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CHART insightのチャート構成比をみると、シングルCDセールスは2割にも満たないのです。これが如何に凄いかを以下の表で紹介します。

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(ビルボードジャパンでは一定数のCDセールスを上回った場合にシングルCDセールス指標に係数を用います。その売上枚数は明言されていませんが、複数の予想担当者においてその基準は30万枚ではないかとの見方があるため、そちらを踏まえ週間売上枚数が30万を超える作品を黄色にて表示しています。なお、この係数使用開始以降、ビルボードジャパンソングスチャートが一気に社会的なヒットの鑑となったものと個人的には捉えています。)

この表をみると、獲得ポイントが3万を超える作品は今年度においてシングルCDセールスが30万枚を超える作品ばかり。逆に30万枚を超えても3万ポイントに満たない作品も少なくありません。その中にあって、CDセールスが30万どころかその2割強でしかない「炎」が3万を超えるポイントを獲得したのはまさに、とりわけダウンロードが強いながらも各指標をまんべんなく稼いだ結果と言えます。

 

また、今年度にシングルCDが10万枚を超え総合チャートを制した曲で翌週のポイントが前週比2割を超えた曲はわずかに2作品。最も高いTWICE「Fanfare」でも3割台であり、K-Popアクトの日本オリジナル曲における高い所有指標の反動と言えます。また今年度通算16週もの首位を獲得しているジャニーズ事務所所属歌手の作品は嵐「カイト」を除きシングルCD加算2週目のポイント前週比が2割を下回っていますが、これらはすべてデジタル環境が完璧ではありません(一部歌手はレコチョク等一部のデジタルプラットフォームでダウンロードをフルバージョンにて解禁。またYouTubeにてショートバージョンながらミュージックビデオを解禁する曲も増えてきました。一方、年内限定ながらダウンロードとサブスクを解禁済の「smile」はミュージックビデオが未公開となっています)。逆に、所有に頼らないヒットの図式を築くことがシングルCDセールス加算2週目におけるポイント低下を招きにくくロングヒットにつながることはOfficial髭男dism「I LOVE...」で明らか。LiSA「炎」が、たとえばSpotifyで今週に入ってからも連日再生回数を伸ばしていることを踏まえるとその立ち位置は「Fanfare」等より「I LOVE...」に近いと言え、ゆえに昨日のブログエントリーで述べたように次週のソングスチャート連覇が十分考えられるのです。

 

 

LiSA「炎」は、ほぼ全て同週解禁と周知の徹底により各指標をまんべんなく獲得し、そのポイント数が3万を超える大ヒットとなりました。無論タイアップ先の大ヒットゆえとも言えますが、この曲から日本の音楽業界は解禁スケジュール策定や(そもそも未解禁作品における)デジタル解禁の重要性を学べるのではないかと強く思います。

そしてLiSAさんサイドはこの記録的な内容について、もっと訴求してほしいと願います。これは強く誇るべき記録なのです。