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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

12月14日付ビルボードジャパンソングスチャートに、CDリリースの役割と重要性をみる

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を紹介します。

11月30日~12月6日を集計期間とする12月14日付ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)はNiziU「Step and a step」が首位に到達。NiziUは初のチャート制覇となります。

 

今回注目したいのはこの「Step and a step」を含め、今週ポイントを大きく伸ばした曲と、CDリリースとの関係性。

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シングルCDセールス初加算週に伴い首位を獲得したNiziU「Step and a step」。そのCD関連指標(CDセールスおよびルックアップ)のポイントは全体の6割を上回りますが、逆に言えばCD関連指標指標でもポイント全体の3割以上を獲得。ポイントは12371→40125(前週比324.3%)となっていますが、CD関連指標を除いても前週のポイントを上回っていることが解ります。

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14→4位に躍進したKing Gnu「三文小説」もまたシングルCDセールス加算初週。CD関連指標はポイント全体のおよそ半分を占めていますが、ポイントは4823→13798(前週比286.1%)と3倍近くに推移。

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そして菅田将暉「虹」。総合ではひとつ順位を落とし3位につけています。前週シングルCDセールスが初めて加算され8470→13646ポイント(前週比161.1%)と推移しましたが、今週はさらにポイントを伸ばし14470ポイント(前週比106.0%)へ。CDセールスは3→11位にダウンしていますが、主題歌となった映画の公開やテレビパフォーマンス、さらにCDリリースによる曲への注目度の上昇がポイントのさらなる上昇に寄与していると言えるでしょう。

 

これら3曲に共通するのは、シングルCDセールス以前から既に高かったポイントを、CD関連指標の加算に伴いさらなる高みに押し上げていること、そして時には菅田将暉「虹」のようにCD関連指標加算2週目でも全体のポイントが落ちない(どころかさらに伸ばしている)ということ。そしてこの3曲はいずれもソニーミュージック発であり、同社の今年の成功の理由を以前このように記しています。

「炎」のミュージックビデオフルバージョン解禁、『STRAY SHEEP』のリリースと同時にサブスク解禁したことはソニーミュージックの大きな転換点と考えます。それはすなわち、CDセールスに絶対的な重きを置かなくなったということではないでしょうか。これまではシングルCDがリリースされる場合、表題曲のミュージックビデオはCDに同梱される映像盤に収録されるためにミュージックビデオはあくまでCDの販促品という意味合いが強かったと思われます。サブスク解禁もリリースから時間を置いたほうがCDセールスが伸びる、言い換えればサブスク解禁がCDセールスを阻害するという考えが以前ならばあったのかもしれません。

CDセールスに頼らない、CDを配信のさらなる後押しという位置付けに据えたことが、この3曲の動向からもよく解るのです。

 

このソニーミュージックにおける2020年度最大の成功のひとつがYOASOBI「夜に駆ける」(今週総合7位)であり、同曲はビルボードジャパン年間ソングスチャートを制覇するに至りました。この「夜に駆ける」の紹介の際、CD未リリースの曲がはじめて年間チャートを制したことが比較的強く謳われているように感じています。それは間違いない事実なのですが、その中にあってこの記事の表題には疑問を抱きますし、当のビルボードジャパンから発信されていることに驚かされます。

CDリリースが今やデフォルトでないことは事実でしょう。レコード会社はシングルCDリリースにおいては選択と集中を行っている印象が強く、特にアニメーション作品のタイアップ曲をCD化する傾向が強いと感じています(この件については、アニメ関連は所有行動が生まれやすいという考えに基づくものと思われます)。とはいえ、「夜に駆ける」のチャート制覇を持って"CDは不要⁈"と書き記すことには強い違和感を覚えます。

気が早いですが、2021年度の年間ソングスチャートではLiSA「炎」の上位進出は確実です。この曲はCDを武器のひとつとしてデジタル解禁と同週に発売し、総合的に大ヒットに至ることができました。

先述したように、CDセールスに頼らない、CDを配信のさらなる後押しに据えたのが現在における理想的なチャートアクションの一種。CD未リリースの曲が年間チャートで上位に登場しているのは事実ですが、しかしCDリリースのタイミングで他指標も伸び、相乗効果をもたらしていることが今週取り上げた曲からみえてくることであり、CDは主軸ではなくとも"有るに越したことはない"というのが自分なりの結論です。その点において、安易な不要論の提示は乱暴が過ぎるという気がしています。

 

 

最後に。"不要?!"という表現に代表される表現の問題について私見を述べるならば。

飛びつきやすさ(それは言い換えれば、記事へのアクセスのされやすさ)を目的として極論のような表現を用いることには、特に分析記事においては激しい違和感を覚えます。客観的だったり自発的な思考が生まれにくくなり、また高いCDセールスを誇る歌手へ強い不快感を持つ方がざまあとばかりに煽りという形で便乗する行動すら出てきかねません。