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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ジョングク feat. ラトー「Seven」が世界そして日本で大ヒットを続ける理由…想起する作品群から考える

ジョングク feat. ラトー「Seven」が世界で大ヒットを続けています。

最新9月2日付の米ビルボードによるグローバルチャートではGlobal 200、Global Excl. U.S.(Global 200から米の分を除いたもの)の双方で6連覇を達成(上記リンク先参照)。グローバルチャートは様々なバージョンが合算され、リミックスが現在までに7バージョン登場している「Seven」が有利と言われればそれまでですが、それでもGlobal 200においてストリーミングが前週まで5週続けて1億回超えを達成しているのは立派です。

 

ここまでのヒットに至っているのはジョングクが所属するBTSの世界的な人気もさることながら、たとえば音楽的側面において1990年代後半から2000年にかけて流行した2ステップを取り込んだことも大きいといえるでしょう。2ステップはUKガラージの一種として大ヒットしたサウンドですが、K-POPではたとえばSHINeeが2010年代半ばに取り入れる等、現在ではこのジャンルの復興が目立っている印象です。

加えて、「Seven」に参加したラトーは「Big Energy」が昨年米ビルボードソングチャートで最高3位を記録するヒットに。この曲にはリミックスにおけるマライア・キャリーの後押しも大きく関わっていますが、サンプリング元が共通しているマライアの「Fantasy」は1995年に大ヒットしています。

マライア・キャリーは1995年に「Fantasy」が8週首位を獲得しましたが、「Big Energy」のリミックスではこの「Fantasy」の一節をマライア自身が披露。「Big Energy」そして「Fantasy」においてもトム・トム・クラブ「Genius Of Love (邦題:悪魔のラヴ・ソング)」(1982 31位)が用いられています。

UKガラージの一種である2ステップ、マライアをリミックスで招聘したラトーの参加に加えて、今年ヒットしたピンクパンサレス & アイス・スパイス「Boy's A Liar Pt.2」(YouTubeこちら)が用いているジャージークラブも2000年代初頭に流行したものであり、2000年前後のリバイバルブームが「Seven」のヒットを押し上げたともいえるかもしれません。勿論、ジョングクとラトーの相性の好さもヒットの一因でしょう。

 

 

さて、ジョングク feat. ラトー「Seven」がヒットした要因としてはTikTok人気も挙げられます。

総合チャートも賑わせている、JUNG KOOKの「Seven (feat. Latto)」は11位から9位へとランクアップした。ダンスのカバー動画が人気で、ENHYPENや&TEAMのメンバーなどK-POPアーティスト達もダンス動画を投稿し話題に。BTSのオフィシャル・アカウントでは、英BBCトークショー『The One Show』に出演した際のライブ映像が投稿されており、1週間で970万回以上再生されている。

ビルボードジャパンによるTikTokチャート、TikTok Weekly Top 20では8月に入りジョングク feat. ラトー「Seven」がトップ10入り。ダンス動画等が人気の要因となっていますが、個人的には動画で多く活用されていると思しきサビの歌詞が気になります。

サビは"Monday, Tuesday, Wednesday, Thursday, Friday, Saturday, Sunday"という曜日の羅列に。その後"Every hour, every minute, every second"と続くことから、四六時中愛していることを伝えているラブソングだと解ります。この"四六時中"というテーマから様々な曲が連想されるのです。

 

「Seven」のサビにおけるメロディのリズムから、シェレール feat. アレクサンダー・オニール「Saturday Love」(1985)を思い出した方は少なくないでしょう(かつてのラジオ番組、『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(TBSラジオ)でも用いられていました)。「Saturday Love」は1980年代R&Bを代表するラブソングとして有名なイメージがあります。

1990年代にはプロデューサーのベイビーフェイスが設立に関わったレコード会社より、トニ・ブラクストンがデビュー。彼女のファーストアルバムに収録された「Seven Whole Days」は悲しみを湛えたラブソングであり、秀作揃いのアルバムの中でも人気の作品となっています。なおこの曲の邦題は「愛の一週間」です。

美しいメロディに定評のあるベイビーフェイスの関連曲では、兄であるケヴォンがリリースしたソロファーストアルバムのタイトルトラックが米ビルボードソングチャートで最高10位を獲得。ソングライトにはベイビーフェイスが関わっていないものの、歌いまわし等からもその薫りが漂います。"24/7"とは"24時間/7日間"であり、四六時中ずっとと同義といえるでしょう。

ゴスペルでも"7 Days"を用いた曲が。デイトリック・ハッドンによる2006年のアルバムはR&Bアプローチによるゴスペルであり、タイトル曲「7 Days」はプロデューサーのティム&ボブがボビー・ヴァレンティノ「Slow Down」(2005 YouTubeこちら)で築き上げた流麗なサウンドを敷いています。

時期は前後しますが、2000年代に入り登場したのが"UKガラージ/2ステップの貴公子"と呼ばれたクレイグ・デイヴィッド。ファーストアルバムに収録された「7 Days」にはすべての曜日がサビに登場し、哀愁漂う作品に。

2018年にこの世を去ったアヴィーチーによる「Waiting For Love」は、EDMの中にあってこちらも憂いと、そして希望の双方を伴った作品に仕上がっています。この曲が今年に入りTikTokで火が付いたことについては、下記コラムにて紹介されています。

 

上記で紹介した曲を含む"四六時中ずっと"的作品群はSpotifyのプレイリストにまとめています。

四六時中という言葉は今まさに恋愛中の方にも、失ったばかりで失意の真っ只中にいる方にも適用可能な表現といえそうです。加えて曜日の羅列は言葉遊びの側面からも親しまれやすいのかもしれません。よくよく考えれば、今夏サブスク等でヒットしたサザンオールスターズ真夏の果実」のサビにも"四六時中"が用いられています。

 

 

ノスタルジックながら現代また流行しているサウンド、曜日羅列の言葉遊び、そして四六時中の愛を奏でるラブソング…ジョングク feat. ラトー「Seven」はリミックスが合算されないビルボードジャパンソングチャートでも上位をキープしており、世界的な支持を集め続けていることが解りますが、背景にはTikTokムーブメントや複数リミックスもヒットを牽引しつつ、楽曲自体の魅力や求心力自体が大きいのではと感じています。

Spotifyでは最新8月28日付までで世界、そして日本で大ヒットを続け、後者ではYOASOBI「アイドル」に迫っています。「アイドル」のダウン幅が大きいといわれればそれまでですが、人気をここまで高くキープできているのは「Seven」自身の力と言っても過言ではないはずです。