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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

『HELP EVER HURT NEVER』『アンコール』が急浮上…ロングヒットするアルバムの動向を読む

最新10月13日公開(10月18日付)ビルボードジャパンアルバムチャートでは、藤井風『HELP EVER HURT NEVER』(2020)が44→13位、back numberのベストアルバム『アンコール』(2016)が85→15位に躍進。2作品とも、メディアへの登場が大きく影響しています。

藤井は10月3日放送のテレビ朝日関ジャム 完全燃SHOW』に初登場しており、9月4日の生配信ライブ【Fujii Kaze “Free” Live 2021】の模様やインタビューが放送された。また、back numberは10月4日放送のTBS『CDTVライブ!ライブ!』で90分のライブを披露しており、これらのメディア露出がチャート上昇に影響を与えたと考えられる。

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この11週における2作品のチャート推移(CHART insight)をみると、その急浮上がよく解ります。藤井風さんにおいては日産スタジアムでのフリーライブの模様(後にアーカイブ化)が『HELP EVER HURT NEVER』の順位を押し上げ、さらに昨日放送された『NHK MUSIC SPECIAL 藤井風』の影響により次週さらに勢いづく可能性もあります。

 

さて、『HELP EVER HURT NEVER』は首位に初登場して以降アルバムチャートで一度も100位以内を下回ることなく最新チャートが73週目のチャートインとなりましたが、このアルバムチャートで通算1年(52週)以上100位以内に入っている作品のCHART insightにおける動向からは、ロングヒットするアルバムの様々な特徴がみられます。

まずは最新10月13日公開(10月18日付)ビルボードジャパンアルバムチャート(→こちら)で52週以上エントリーしている15作品を紹介します。

 

・13位 藤井風『HELP EVER HURT NEVER』

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・15位 back number『アンコール』(直近の120週分を表示)

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・31位 米津玄師『STRAY SHEEP』

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・45位 Official髭男dism『Traveler』

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・47位 大滝詠一『A LONG VACATION』(直近の120週分を表示)

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・48位 嵐『5×20 All the BEST!! 1999-2019』

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・59位 milet『eyes』

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・63位 BTS『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』(直近の120週分を表示)

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・68位 ZARDZARD Forever Best〜25th Anniversary〜』(直近の120週分を表示)

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・72位 緑黄色社会『SINGALONG』

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・74位 BTS『MAP OF THE SOUL: 7』

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・77位 あいみょん『おいしいパスタがあると聞いて』

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・82位 松任谷由実松任谷由実 40周年記念ベストアルバム日本の恋と、ユーミンと。』(直近の120週分を表示)

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・84位 サザンオールスターズ『海のYeah!!』(直近の120週分を表示)f:id:face_urbansoul:20211014203903p:plain

 

・87位 back number『MAGIC』(直近の120週分を表示)

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この15作品からアルバムチャートにおけるロングヒットの傾向をみてみます。ひとつ目は大ヒット曲の登場が牽引するパターン。特にBTS『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』は3年前にリリースされながら、「Dynamite」以降の英語詞曲が世界を席巻して以降ダウンロード指標が高値安定しています。

 

フィジカルセールス(CHART insightでは黄色で表示)、ルックアップ(オレンジ)に比べてダウンロード指標の割合が常に大きいのは松任谷由実さんおよびサザンオールスターズのベストアルバムに共通しています。アルバムの価格を踏まえればレンタルで済ませる方も少なくないだろうものの、ファンの年齢層を踏まえればアルバムをデジタル購入することに躊躇いがないのではないかと推測します。

 

加えてサブスク解禁も影響を及ぼします。大滝詠一さんは3月21日に『A LONG VACATION』の40周年記念盤をリリースしたことにより3月24日公開(3月29日付)ビルボードジャパンアルバムチャートで5位に躍進していますが、アルバムリリース日にはサブスクも解禁されたことで、その後の高値安定につながっていると言えます。

またZARDのベストアルバムが9月22日公開(9月27日付)でダウンロード指標11位、総合で30位に急上昇したのは集計期間中の15日に全作品をサブスク解禁したことの話題性に伴うものと考えられ、サブスク解禁はフィジカル/デジタル問わず所有指標全体に影響を及ぼすことがCHART insightから見て取れます。サブスクは所有指標を削るわけではないということがこの点から解るのではないでしょうか。

 

一方、ルックアップ指標が常時高位置となる作品も少なくありません。Official髭男dism『Traveler』は16位、米津玄師『STRAY SHEEP』に至っては9位が現段階における同指標の最低順位となっています。ルックアップはパソコン等にCDを取り込む際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を指し、購入者のみならずレンタルした方のインポートを含みます。

人気作品がレンタル店舗で大きく展開されていることを踏まえれば、ルックアップ指標の高値安定に納得できます。これは1年未満のエントリーを含む近年のロングヒット作品に共通していることですが、しかしながら藤井風『HELP EVER HURT NEVER』はリリースが1年以上前にもかかわらずルックアップが抜きん出ておらず、他の作品とは異なるというのが私見です。CHART insightを再掲してみましょう。

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ルックアップが抜きん出るわけではなく、フィジカルセールスと寄り添うように動いているのが『HELP EVER HURT NEVER』独特の特徴です。この理由を考えるに、まずはレンタル在庫が多くないだろうことが挙げられます。

昨年8月のブログエントリーでレンタル在庫について疑問視しました。その後CDショップ大賞受賞や『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)で取り上げられたこと等によりルックアップ指標の順位が上昇したとお伝えしましたが(【ヒットの予感】藤井風「きらり」を大ヒットに導く3つのポイント(5月8日付)参照)、しかしながらレンタル在庫は十分に足りているわけではないと感じています。

それもあってか、『HELP EVER HURT NEVER』は所有が多い印象があります。フィジカルセールスとルックアップとの相互互換が大きいのは所有者のインポート率が高いこと、そしてそもそも所有行動を採る方が多いと推測可能です。この行動はメディア露出や口コミでの評判を受けての動きであったり、接触してその良さを実感した方の所有行動への移行もあると想像するに、コアなファンの昇華が多いとみていいでしょう。

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『HELP EVER HURT NEVER』の初回限定盤に同梱されたカバーアルバム『HELP EVER HURT COVER』が5月に復刻リリースされたことも大きいでしょう。カバーアルバムが4位に初登場した5月26日公開(5月31日付)ビルボードジャパンアルバムチャートで『HELP EVER HURT NEVER』は9位をキープ、フィジカルセールスは前週比27.0%上昇しています。関連作品の投入は元の作品を押し上げ、コアなファンの上昇を呼び込むのです。

 

 

『HELP EVER HURT NEVER』はリリースから1年以上が経過したことでレンタル在庫が増える可能性は低いと思われます。個人的にはシングルCDを1作品以上輩出し、シングルCDレンタルコーナーに展開することでアルバムのレンタル需要を喚起することも効果的だったのはと思いつつ、しかし昨日のテレビ放送を機にさらにデジタル/フィジカル双方のセールスが伸び、ルックアップにも波及するだろうと考えます。

「きらり」のロングヒット、そしてNHKへの出演を経て、藤井風さんが『NHK紅白歌合戦』に出場する可能性は十分あると考えます。また『HELP EVER HURT NEVER』リリース以降現在までにアルバム未収録曲を5曲リリースしていることを踏まえれば、近い将来ニューアルバムの発売もあり得るでしょう。これらは仮定でしかありませんが、叶うとすればファーストアルバムがさらなるロングヒットにつながることでしょう。