イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

LINE MUSICの再生回数上位対象プレゼントキャンペーン実施曲が今月10曲以上登場…中長期的な視点でこの施策を考えたい

ここ最近のブログエントリーでは米津玄師さんのニューアルバム『STRAY SHEEP』およびリリース同日のサブスク解禁について幾度となく行っていますが、今週早くも『STRAY SHEEP』はCDセールスがミリオンを突破したことを踏まえれば、やはり注目しないわけにはいかないのです。

首位で初登場を果たした8月17日付ビルボードジャパンアルバムチャートではCDとダウンロードセールスでミリオン直前の状況でした。アルバム単位でのダウンロード1回がCDセールス1枚に比べてウェイトが大きいことについてはビルボードジャパンアルバムチャートにおけるデジタルの考え方について、最新チャートから推測してみる(2019年10月12日付)で説明しています。強引な考えかもしれませんが、初週におけるダウンロード数をCDセールスに換算すればミリオン突破と言えたのではないかと思うのです。兎に角、『STRAY SHEEP』がどこまで売上を伸ばすか楽しみであり、オリジナルアルバムでのミリオン獲得は尚の事素晴らしいと思います。

 

 

さて、米津玄師さんのサブスク解禁が8月17日付ビルボードジャパンソングスチャートに大きく反映されていることはここ数日のブログエントリーで触れた通りです。

8月3~9日を集計期間とする8月17日付ビルボードジャパンストリーミングソングスチャートで米津玄師さんはトップ10内に5曲を送り込んでいますが、同チャート(およびストリーミング指標)の元となる各サブスクサービスではこのチャートに差がみられます。とりわけLINE MUSICにおいては、その内容が大きく異なってくるのです。他サービスとの差は、5月等に比べて際立ってきています。

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8月5日からの1週間を集計期間とするLINE MUSIC週間チャートでは米津玄師さんが6曲トップ10に送り込んでいる一方、SUPER★DRAGON「SAMURAI」の2位を筆頭に、TOMORROW X TOGETHER「Drama (Japanese Ver.)」が4位、TREASURE「BOY (KR Ver.)」が5位にランクイン。これらはLINE MUSIC独自の特徴、すなわち”沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する”再生回数上位対象プレゼントキャンペーン実施曲に該当します。このLINE MUSICのキャンペーンについての内容および私見は前週記載したのですが、先述の3曲はキャンペーンの成果により上位進出できたと言えるでしょう。

 

そしてLINE MUSICではこの3曲を皮切りに、今月に入り様々な楽曲でこのキャンペーンが行われ始めています。一部楽曲はRakuten Musicでも同種のキャンペーンが組まれていますが、SpotifyApple Music等で再生回数上位対象プレゼントキャンペーンは行われていません。

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上記表に記載された楽曲はすべて、LINE MUSICのリアルタイム等チャートで上位進出を果たしています。なお、豆柴の大群「サマバリ」は今日の段階で聴き始めても、期間中に9600回に到達することはできません(さらに到達したとしても当選するとは限りません)。8月5日からの1週間を集計期間とするLINE MUSIC週間チャートにおいてはその「サマバリ」は57位に入り、他にもBALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE「SUMMER HYPE」は27位、Da-iCE「DREAMIN' ON」は43位、スカイピース「青青ソラシドリーム」は59位につけています。なお「青春ソラシドリーム」についてはアルバム収録分が対象という指定があります。

その一方で、先程の8月17日付ビルボードジャパンストリーミングソングスチャートにこれら楽曲はどれくらい入っているのでしょう。集計期間の9日までにリリースされた4曲(「SAMURAI」「Drama (Japanese Ver.)」「BOY (KR Ver.)」「サマバリ」)のうちランクインしたのは「SAMURAI」のみ、それも74位という順位にとどまっています。そしてダウンロード等も含め複合指標から成る同日付のソングスチャート(Hot 100)では「BOY (KR Ver.)」が89位に入った以外、ランクインしていませんでした。

 

 

LINE MUSICのチャートの独自性については、SpotifyおよびApple Musicと比較して以前述べています。今年に入ってから動画を機にヒットする曲が増えていますが、そのきっかけのひとつである『TikTokの流行等をとりわけ敏感に取り込み』、『若年層を中心にさらなる広がりをみせる可能性は高く』、歌手側にとって『ブレイクのチャンスはどんどん広がっているのではないか』…これら『』内は下記ブログエントリーに記載したものですが、これを記した5月半ばの順位では、今回取り上げた再生回数上位対象プレゼントキャンペーンによる上昇曲はほぼなかったか、あったとしてもそこまで目立ってはいませんでした。これは7月の観測においても同様です。

それが、8月に入りチャートの状況が一変しています。

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20位まではこちら。

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8月14日付デイリーチャートではYOASOBI「夜に駆ける」や米津玄師「感電」を、再生回数上位対象プレゼントキャンペーン実施曲であるBALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE「SUMMER HYPE」が上回っています。しかしながら「SUMMER HYPE」を例に挙げると、日本のSpotifyでは同曲がリリースされた8月10日から現段階で確認できる13日までのデイリーチャート200位以内に入っておらず、また『純粋にファンが聴いて共感共有した音楽のデータを示す指標』であるSpotifyバイラルチャートにおいても13日までに一度も50位以内に入っていません(『』内はSpotify、新しいバイラルチャートを発表。「売上枚数」ではなく聴き方に最適化した指標を訴求 | All Digital Music(2014年7月26日付)より)。LINE MUSICで爆発的人気となっているならばそれがSNS等で話題となり他サービスに波及してもおかしくないと思うのです。そして、LINE MUSICやSpotify等複数のサブスクサービスを合計したビルボードジャパンのストリーミングソングスチャートにおいて、次週8月24日付(8月19日発表分)の速報段階でも10位以内に入っていない状況です。

他方、8月15日5時の段階のリアルタイムチャートをみると、トップ10入りした曲のうち6曲が再生回数上位対象プレゼントキャンペーンの実施曲となっています。これは仮説と前置きして書きますが、多くの方が寝静まった時間に応募者が曲をリピートし続けたことで他の時間に比べてキャンペーン実施曲の再生回数がより際立ったのではないかと思うのです。もしも応募者自身も寝ていた、しかし曲は繰り返していたのであれば、キャンペーン実施曲はライト層ではなくコアなファンにばかり、それもきちんと聴かれていない可能性が出てくると思うのですが、これは邪推でしょうか。

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LINE MUSICにおける再生回数上位対象プレゼントキャンペーン実施の連続、そして実施曲の上位寡占は、同サービスのチャートが健全なものでなくなっていると感じるに十分だと捉えはじめている自分がいます。不定期ながら二度チャートの中身を確認していたゆえ尚の事です。しかしながらLINE MUSICのチャートを無視していいかというとそうではありません。たとえば上記8月15日5時のデイリーチャートでトップ10入りしている ひらめ「ポケットからきゅんです!」は、TikTokでの人気を機に8月14日に配信されたもので、その成果が既に表れています。

ひらめ「ポケットからきゅんです!」が現段階でLINE MUSIC限定となっていることについては、サブスクサービスを限定する手法が大きなヒットに結びつきにくいという過去の事例を踏まえれば疑問に思うのですが(ストリーミングサービス限定解禁では効果が薄い? 新しい地図 join ミュージック「星のファンファーレ」から考える(2019年6月9日付)参照)、しかしLINE MUSICが他サービスよりも『TikTokの流行等をとりわけ敏感に取り込み』、『若年層を中心にさらなる広がりをみせる可能性は高く』なっているサービスであれば、LINE MUSICを意識して活用する方は少なくないでしょうし、総合でもヒットに至っている瑛人「香水」やさらなるヒットが期待されるTani Yuuki「Myra」等はまさにLINE MUSICの特色が上手く表れた結果と考えます。つまりはヒットの源やきっかけをLINE MUSICチャートで知ることができるのです。

しかしながら、LINE MUSICを主に活用しヒットに至りたいと歌手側が考えたとしても、リアルタイムやデイリーチャート、果てはウイークリーにまで”沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する”再生回数上位対象プレゼントキャンペーン実施曲が上位を占拠する状況では、歌手側のLINE MUSICへの気概が薄れるのは自然ではないかと思いますし、あれだけ祭り状態となった米津玄師さんの曲が他サービスに比べてチャートの上位にあまり登場していないとなると、LINE MUSICのチャートに違和感を抱くユーザーが出てきてもおかしくないかもしれません。これらのネガティブな感覚が増えれば歌手側、ユーザー双方のLINE MUSIC離れに繋がる可能性もゼロではないわけで、LINE MUSIC独自の再生回数上位対象プレゼントキャンペーンが中長期的にみて果たして得なのかと考えてしまいます。"あれだけ再生しても当選しなかった"と不信感を抱くコアなファンも出てくるのではと懸念します。

 

 

ここまで書くと、再生回数上位対象プレゼントキャンペーン実施曲への批判と聞こえるかもしれませんが、前週のブログエントリーでも書いたように『むしろ上手く用いれば対象曲やその歌手の認知度を向上させる大きな武器になることも』あると思うのです。ただし他サービスやダウンロード等他指標に波及していないだろうことは先述した8月17日付ビルボードジャパンソングスチャートやストリーミングソングスチャートで指摘した通りであり、また例えば一昨日キャンペーンを終了したTREASURE「BOY (KR Ver.)」が8月14日付LINE MUSICデイリーチャートで19位に後退したことがコアなファンの再生離れおよびライト層が増加していないことの結果によるものだとすれば、再生回数上位対象プレゼントキャンペーンが限定的であり大きな武器にならないのではと思うのです。