8月5日にサブスク解禁した米津玄師さん。Spotifyでの動向について昨日取り上げたところ、多くのアクセスをいただきました。
ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標(サブスクの再生回数に基づく)、その速報では米津玄師さんの作品群が大量エントリーを果たしています。
『米津玄師は、集計期間1日にも関わらず、トップ100に計18曲がチャートインした。最高位は、179.5万回再生を記録した「感電」。さらに、12位に「Lemon」、20位に「馬と鹿」、25位に「Flamingo」が続いている。『STRAY SHEEP』の収録曲15曲はすべて速報トップ100入りを果たして』いる状況 https://t.co/oip5wPjK78
— Kei (@Kei_radio) 2020年8月7日
8月3~5日における動向において「感電」は7位に登場。勢いの凄まじさを感じます。
Spotifyでは、8月6日付で再生回数や順位がダウン。「感電」は日本のSpotifyデイリーチャートにおいて再生回数が287603→248868となり、順位も首位から3位へ後退。米津玄師さんの主演曲は200位中52曲に減りました。それでもDAOKOさんとの「打上花火」、中田ヤスタカさんへの客演となる「NANIMONO」を含めれば54曲となり全体の4分の1以上を占めているわけで、「感電」が主題歌に起用された『MIU404』の放送やそのドラマ主演陣との対談企画、ニュース番組でのインタビュー、そしてなにより『フォートナイト』でのイベント開催がどう影響するのか気になるところです。
【イベントレポート】米津玄師が“新しく美しい一瞬”を世界中のファンと過ごした「FORTNITE」イベント(写真15枚)https://t.co/jJq7FmLK3y
— 音楽ナタリー (@natalie_mu) 2020年8月7日
#米津玄師 #FORTNITE #米津玄師xフォートナイト #フォートナイト #フォトナ #STRAYSHEEP pic.twitter.com/7bKo2iIQPX
米津玄師さんの勢いはLINE MUSICでも如実に表れているのですが、順位をみると気になることが。
8月7日付デイリーチャート、トップ10には米津玄師さんの曲が4曲登場している一方、YOASOBI「夜に駆ける」や瑛人「香水」等常連曲も登場。また、もさを。「ぎゅっと。」やオレンジスパイニクラブ「キンモクセイ」はいずれも上記ビルボードジャパンストリーミング指標の記事でも言及されている注目曲なのですが、それらの中にあってSUPER★DRAGON「SAMURAI」が2位に登場しているのです。
ブログ執筆時点となる8日5時のリアルタイムチャートをみると「SAMURAI」は2位。そして1位にTOMORROW X TOGETHER「Drama (Japanese Ver.)」、3位にはTREASURE「BOY」が入り、これら2曲とも7日付デイリーチャートで高位置につけています(「Drama (Japanese Ver.)」は13位、「BOY」は21位)。この3曲について調べると、共通の理由が。
8月5日(水)配信スタートの新曲「SAMURAI」をLINE MUSICでたくさん聴いてくれた方の中から、 上位の方に3つのコースからプレゼント!!!!!!!!!
・【LINE MUSIC キャンペーン】Digital Single「SAMURAI」 / SUPER★DRAGON official website(8月4日付)より
TOMORROW X TOGETHER の新曲「Drama [Japanese Ver.]」をLINE MUSICアプリで500回以上聴いた方の中から抽選で30名様をTOMORROW X TOGETHERのオンライントークイベントにご招待!
・【LINE MUSIC会員限定♪】TOMORROW X TOGETHERのオンライントークイベントにご招待!🗣💻💕(参加者全員にLINEプロフィール背景画像をプレゼント!🎁) - LINE MUSIC(8月7日付)より
1st Single『THE FIRST STEP : CHAPTER ONE』収録の「BOY -KR Ver.-」(1曲)をLINE MUSICにてフル尺再生で、たくさん聴いていただいた方の中から上位24名様に、"LINE MUSIC限定 TREASUREメンバー直筆サイン入りソロ・ポラロイド(ランダム)"をプレゼント!!さらに、キャンペーンにご参加頂いた全ての方に「LINE MUSIC限定 TREASUREメンバー全員サイン入り待ち受け画像」がDLできるURLをプレゼントします!たくさん聴いてご応募ください♫
回数が明示されているところもあればそうでないところもありますが、いずれにせよ”沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する”キャンペーンが実施されているのです。これは邪推の域を出ませんが、ともすれば深夜から明け方にかけてはサブスクサービス利用者が少なく、他方キャンペーン実施歌手のファンの方が(自身も就寝中かもしれませんが)対象曲を常にループさせていることにより、リアルタイムチャートのトップ3がキャンペーン対象曲で独占されたのではないかと思うのです。
TREASURE「BOY」においては他のサブスクやダウンロードサービスでも似たキャンペーンを行っていますが(上記リンク先参照)、各サービスの中でLINE MUSICが特にこの種のキャンペーンを多く展開しています。先月はBTSが、昨年秋は加藤ミリヤさんが、そしてその少し前にはテイラー・スウィフトが行っていました。しかしこれら”沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する”キャンペーンについて、個人的には当時から疑問を呈しています。
テイラー・スウィフトに会える!と謳ったキャンペーンに当選するためには、『「ME! (feat. Brendon Urie of Panic! At The Disco) (feat. Brendon Urie)」をより多くLINE MUSICでフル尺再生で聴いた上位30名様』に入らないといけないのです。時間の有る方が該当曲を四六時中流しっぱなしにしないといけないこのキャンペーン、当選するのは有る種簡単かもしれませんが、それがユーザーのライフサイクルに支障をきたしかねず、またチャート上で不自然な動きを生み出した点においてもこのやり方は支持できない
・(追記あり) サブスクを使用したキャンペーン、もっとスマートなものはないものか? レディー・ガガ、テイラー・スウィフトの例から考える(2020年3月22日付)
チャート上ではこのキャンペーンがたしかに有効に作用しているようにみえるのですが。
テイラー・スウィフト feat. ブレンドン・ユーリー(パニック・アット・ザ・ディスコ)「Me!」はLINE MUSICキャンペーン効果で昨年11月4日付ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標で11位、総合では44位に再浮上。上記チャート推移(CHART insight)の真ん中あたりで青(ストリーミング)と黒のグラフ(総合)が盛り上がっていることが解ります。翌週も高く推移したのは、ビルボードジャパンソングスチャートの集計期間にまたがる形でキャンペーンが展開されていたためですが、しかしリリース当初のようにストリーミング以外の指標で盛り上がらなかったためキャンペーン終了後に急激に失速。ここから、キャンペーンが非常に限定的であることが解ります。
尤も「Me!」がリリースからしばらく経ってからのキャンペーン開催であるのに対し、SUPER★DRAGON「SAMURAI」やTOMORROW X TOGETHER「Drama (Japanese Ver.)」、TREASURE「BOY」といった楽曲は新曲ゆえ他指標も盛り上がる可能性はあるでしょう。しかし同じサブスクサービスのSpotifyではブログ執筆段階で最新となる8月6日付で200位以内に、Apple Musicでは8月8日6時時点で100位以内にこれら3曲は登場していません。サブスクサービスの中でも盛り上がりが限定的であっては、他指標に波及することも難しいのではないでしょうか。
今回取り上げたキャンペーンのすべてを否定するつもりはありませんし、むしろ上手く用いれば対象曲やその歌手の認知度を向上させる大きな武器になることも考えられます。しかしながら、たとえば彼らの公式Twitterアカウント発のつぶやきから、このキャンペーンを機により多くの方に聴いてほしいという思いをあまり感じなかったのは自分だけでしょうか。「夜に駆ける」を大ブレイクに導いた一因と言っても過言ではない、YOASOBIのTwitterアカウントにおけるファンとのエンゲージメントの徹底っぷりに幾度となく触れた身には、YOASOBI側が如何に優れているかをあらためて感じた次第です。その内容は下記ブログエントリー等で確認できます。
LINE MUSICをはじめとする、”沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する”キャンペーンがコアなファンの域を出ず、しかもそのファンの負担を強いかねない可能性があることから、現状においてあまり好ましいと思えないのが自分の見方です。ビルボードジャパンソングスチャートにおいてストリーミングは接触指標群に該当しますが、接触指標群は本来ライト層の動向が強く示されるものであり、それらライト層はいずれコアなファンに昇華するかもしれないにもかかわらず、今回紹介したキャンペーンからはその可能性が感じられない気がします。
ビルボードジャパンソングスチャートにおいてストリーミング指標が単発的なヒットで終わっていないか、他指標もきちんと上昇しているか等、キャンペーン対象曲については中長期な動向を見て真に社会的なヒットとなったかを見極めないといけません。
このキャンペーンで得する方は何方なのかと考えてみて、ふとある歌手の言葉を思い出しました。その方は自身の作品をサブスク解禁したタイミングで、再生される毎に利益が増えるサブスクサービスの仕組みを説いた上で、ミュートした状態でリピートし続けるのもアリだと語っていたのです。それを聞いて虚しい思いに襲われた自分がいます。