近年の米ビルボードでは日本の音楽(以下、対比する意味でJ-Popと記載)についても、ビルボードジャパンの記事を翻訳する形で発信しているのですが、韓国の音楽、いわゆるK-Popは数年前から既に発信を強化しているように思われます。その結果が防弾少年団(BTS)のアメリカでの躍進ではないかと考えています。
いずれも今年の出来事。地道な周知が花を咲かせたのではないかと。
J-Popいずれは米ビルボードにチャートインしてほしいと期待していますが、K-Pop躍進の背景には【米ビルボードが積極的に記事を掲載している】【アイドルの定義が日本と異なる】があるのではないかと。前者においては”クールジャパン”のような戦略で米ビルボードに掲載を働きかけることを想像、後者においてはアメリカでは『アメリカン・アイドル』出身者を見れば明白なように”アイドル”とはいえデビュー時から既に完成品であり、K-Popのアイドルもアメリカ的な立ち位置ではないかと。一方日本のアイドルはデビュー後にも育てていくタイプのものであり、また歌唱力は(どちらかといえば)軽視という側面も否定できません。尤も日本が悪いというのでは決してなく、K-Popのほうが”アメリカに対してしっくりきた”のかもしれませんし、戦略が功を奏したと言えるのではと。更にK-Popの音楽業界にはアメリカで販売できる体制が整っていたのかなとも考えており、デジタル配信が当然となった時代において大々的に世界進出と謳わなくとも、また英語以外で歌唱していても、世界中のK-Pop好きが”手にしやすい”環境を作ったのかなというあくまで私見(と強く念押ししますが)を持ち合わせています。J-Popにおいては、たとえばミュージックビデオの掲載もショートバージョンが多かったり、海外からはアクセスできないことも少なくないため、グローバルな動きが出来ていないのはJ-Popの機会損失ではないかと思うのです。
さて今週、SHINeeのテミン(Taemin)がセカンドソロアルバム『Move - The 2nd Album』をリリースしました。勿論こちらも米ビルボードは記事になっています。
SHINee's Taemin drops the sultry "MOVE" album & single https://t.co/kX4pcXGvZj
— billboard (@billboard) 2017年10月17日
記事には前作からの先行シングルにも触れられていて、”ブルーノ・マーズとステレオタイプスが関わったのか!”と一目置く方はきっといらっしゃるでしょう。その曲についてはここでも以前紹介しました。
今作の巻頭を飾るタイトルトラックのミュージックビデオも公開されています。
しかもビデオには他に2種類、女性ダンサー陣を従えたものと女性と1対1で魅せるものとが存在するという力の入れよう。肝心の音はアンビエントで踊れる...ザ・ウィークエンド以降のトレンドを取り入れた作品と言えます。それをしなやかにこなすテミンの実力には唸らされますね。
今作の制作陣は『米国の人気ミュージシャン、カニエ・ウエストが率いるレーベルのプロデューサー、チェ・ポープやカナダ出身の作曲家、マシュー・ティシュラーをはじめ、韓国の有名作曲家シン・ヒョク、チェ・ジンソクなど国内外のヒットメーカーが参加』([芸能]SHINeeのテミン 2ndソロアルバムを発表 - 聯合ニュース(10月16日付)より)とのこと。ブルーノ・マーズのような著名なシンガーソングライター参加という前作のようなトピックはないかもしれませんが、1曲毎に制作陣が異なるようで、おそらくは曲の好さで選んだ(著名か否かに関係なくコンペを行った?)ものと考えます。
ちなみに「Move」のソングライターにクレジットされているうちのひとりがカーティス・リチャードソン。
#TAEMIN #MOVE is coming 10/16 "MOVE" produced & composed by @CRIchaSON @AdienLewis @MsCinelu #Kpop translation #SeoJiEum ✍🏽 #태민컴백_MOVE_16일 pic.twitter.com/deIEarzVTN
— CurtisRichardson (@CRIchaSON) 2017年10月14日
実は彼、安室奈美恵 feat. 川畑要 (CHEMISTRY)「#1」のソングライターのひとりでもあるのです。
安室奈美恵さんのコラボレーション集『Checkmate!』(2011)収録の(当時の)新曲のひとつ。安室さんはオリジナルアルバム『PAST<FUTURE』(2009)以降、国内外のソングライターを積極的に起用しておりこの曲もその流れのひとつと言えますが、現在ではJ-Pop、特にアイドルが海外のソングライターによる作品をリリースすることが多く(個人的にはとりわけ嵐がそうだと考えています。今年リリースのシングル「つなぐ」については嵐、シングル『つなぐ』は“手練れの仕事”だ 大胆な和洋折衷サウンドを読み解く - Real Sound(7月9日付)でも分析が掲載)、安室さんはJ-Popにおける海外ソングライター起用の先駆者と言えるかもしれません。そしてもしかしたらK-Popにも彼女の制作方針が影響を与えたのでは?と...そう考えると、安室奈美恵さんの作品も前々から海外発信してよかったのではないかと思うのです(今更の提案と言われればそれまでですが)。
テミンのアルバムは下記リンク先(Apple Music)で聴取出来ます。
日本で今夏リリースされたアルバムのタイトルトラック、「Flame of Love」の韓国語版がボーナストラックとして収録されているのですが、ボーナストラック以外の8曲とは雰囲気が異なりJ-Popの空気が強く漂っています。外国のソングライターも参加していながらJ-Pop感を醸し出せるのに驚くと共に、テミンのアルバムからはJ-PopとK-Popの違いが何かがおぼろげながら伝わってくるなあと感じています。