イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Number_i『No.O -ring-』収録曲がサブスクで躍進、その背景から考えること

5月27日にリリースされたNumber_iのミニアルバム『No.O -ring-』が本日公開分のビルボードジャパンアルバムチャートで総合首位を獲得することが確実視されています。そして注目は、収録された7曲のソングチャート動向。Stationheadというアプリ(サービス)でのリスニングパーティーも相まって7曲のうち複数が総合100位以内に入る可能性も考えられます。加えてリード曲「BON」がどの位置に初登場するかも注目です。

 

上記は日本のSpotifyデイリーチャートにおける『No.O -ring-』および「GOAT」の動向。5月26日付でフラゲ的な形で初登場したミニアルバム収録曲は翌日に初の24時間フル加算に伴い上昇、そして5月28日火曜には7曲すべてが50位以内にランクインしています。

火曜付の上昇はStationheadでのリスニングパーティー開催に因るものといえます。メンバーも参加したこの企画において、同時接続者数は3万を超えていることを確認(ポストはこちら)。その後、公式によるアフターパーティーも土日に開催されたほか、ファンアカウントによる番組も高い接続数を誇ったことをうかがっています。特に金曜→土曜の伸びは公式側による開催が大きく功を奏した形です。

Stationheadについては以前このブログで紹介しています。CEOがメジャーレーベルにて歌手活動を行った経験を踏まえれば、このアプリが推し活に用いられることを目的に作られたと考えるのは自然なことでしょう。実際、海外の歌手のファンによるアカウントが多数存在します。

Stationheadは日本でも徐々に拡がっている印象がありますが、Number_i『No.O -ring-』ほどSpotifyの動向に反映された作品はないと感じています。日本のSpotifyではトップ50プレイリストの効果が大きく、50位以内に入れば数日は伸びるという特性がありながら、Stationheadユーザー(リスナー)の動きはその特性を上回ることが今回確認されたといえます。なおこの”50位の壁”特性は下記にて紹介しています。

 

そしてStationheadはSpotify共々、Apple Musicにも影響を及ぼします。本日公開分のビルボードジャパン各種チャートと集計期間を同一とするApple Music週間ソングチャートでは「BON」の11位を皮切りに、Number_iは100位以内に5曲エントリーを果たしています。

となるとビルボードジャパンソングチャートでの動向が気になるところですが、他方先週水曜からを集計期間とするLINE MUSIC週間ソングチャートではNumber_iの100位以内エントリーが「BON」(47位)のみという状況です。サブスクサービス間で順位が乖離する曲は時折登場しますが、今回の差はStationheadがひとつの要因と考えていいでしょう。

 

 

Stationheadの影響力が可視化された一方、複合指標から成る音楽チャートでのStationheadの波及を考える必要があります。というのも音楽チャート管理者は、(綺麗ではない言葉ですが分かりやすい形容ゆえ敢えて用いるならば)”ハック”という状況を防ぐべく、チャートポリシー(集計方法)を変更してきた歴史があります。

 

その代表的な例が2年前に二度実施されたストリーミング指標の変更。前者はAWAラウンジを踏まえAWA全体に対し、後者はLINE MUSIC再生キャンペーンに伴いStreaming Songsチャートで首位を獲得した曲について、指標化の際に係数処理を適用するようになったと推測され、これら変更はこのブログでも紹介しています。なおその後、LINE MUSICは同年秋に再生回数のカウント方法を変更しています。

またビルボードジャパンは2023年度初週、ルックアップとTwitterの2指標をソングチャートおよびアルバムチャートから除外しています。ルックアップはパソコン等にCDを取り込んだ際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を指し、売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)やレンタル枚数を推測可能とするものでしたが、どちらの指標においてもコアファンのチャート施策が確認されています。

これらのチャートポリシー変更はいずれも、本来はライト層やグレーゾーンの人気が可視化されやすい接触指標でコアファンの熱量が過度に反映されるのを防ぐことを目的としています。一方で上記エントリー群でも述べたようにビルボードジャパン側の対応が素早いとはいえないこと、毅然とした態度とは言い難かったこと等、チャート管理者への素直な疑問も抱かせるに十分だったことは事実です。

 

Number_i『No.O -ring-』収録曲におけるStationheadを踏まえた再生回数上昇はAWAラウンジやLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲を想起させるかもしれず、ビルボードジャパン側はチャートポリシー変更について今後議題していく(もしくは既に議論している)かもしれません。

ただし現状では、Stationheadキャンペーン対象曲に係数処理を施すことは難しいと捉えています。宇多田ヒカルさんやJO1等Stationheadを利用する歌手が増えていますがNumber_iほどの大きな動きがこれまでなかったこと、主要サブスクサービスのひとつであるSpotify全体に係数処理を施すならば他の曲に悪影響を与えかねないことがその理由です。

またLINE MUSIC再生キャンペーンについてはStreaming Songsチャート首位曲のみが指標化時に係数処理適用となりますが、現在そのような事態はほぼ起きていないことに加えて同チャート2位以下になることで係数処理が施されない曲が多い状況です。係数処理適用が不十分といえる状況で、Stationheadリスニングパーティー対象曲にのみ係数処理を適用することは不可能に近いと考えます。

 

それでも近い将来、何かしらの形でビルボードジャパンがアナウンスする可能性は十分考えられます。ビルボードジャパンは常に議論する姿勢を持ち、仮にチャートポリシーを変更すると決めたならば指標廃止時のような後出しジャンケンの姿勢ではなく毅然とした態度で、変更の理由を前もって説明することを願います。

 

 

さて、今回のStationheadパーティー開催に伴うNumber_i『No.O -ring-』の上昇が日本のストリーミング環境に好い変化をもたらすという可能性を感じています。

海外ではストリーミングに強い歌手の作品が登場すると、そのリリース日に上位を席巻する状況が生まれます。たとえばテイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』においては、デラックスエディション(拡張版)収録の31曲が4月19日付のSpotifyデイリーチャートにおいてグローバルで42位まで、米では34位までに初登場。最終的にはアルバム収録曲が米ビルボードソングチャートでトップ10を独占しています。

さすがにここまでの記録は極端かもしれませんが、しかし強力なアルバムがリリースされるとサブスクサービスでの上位占拠→米ビルボードソングチャートにおける複数(もしくはすべての)曲の100位以内エントリーが自然なものに成りつつあることは事実です。この点は下記エントリーにて紹介しています。

翻って日本は音楽サブスク利用者数自体が未だ多くはない状態であり、Number_i『No.O -ring-』収録曲もリリース日ではなくStationheadパーティー開催時の火曜日がピークになっているのですが、それでもリリース日からチェックされる状況自体は好い流れだと感じています。新曲を能動的にというよりも(話題曲やチャート上位曲をまとめた)プレイリストで初めて知るという受動的な動きが今も多い状況ゆえ、尚の事です。

 

ゆえに、今後多くの歌手がStationheadリスニングパーティー等イベントを開催することで、サブスクサービスの盛り上がり、音楽を能動的にチェックする習慣の徹底、Stationhead参加条件である有料会員の増加が見込めるかもしれません。またNumber_iのファンダムからはビルボードジャパンソングチャートへの意識の高さも感じており、音楽チャート(特にビルボードジャパン)の重要性も認知されていくでしょう。

ちなみにNumber_iは、以前King & Princeとして活動していた際に音源を一度もデジタルリリースしていません(チャリティユニットとしてのデジタルリリースは除きますが、そちらも期間限定)。加えて旧芸能事務所からの離脱はメディア露出の大幅な減少も予想されたため、歌手側そしてファンダムがその背景も変えるべく知見を広げ努力を重ねていったことが感じられます。実際、「GOAT」のフィジカルセールス初加算週にカップリング曲がすべて総合100位以内に入ったことは、その結実ともいえるでしょう。

 

音楽チャートへのファンダムの反映が過熱と感じれば、チャート管理者側が迅速且つ毅然とした態度で対応することは必須ですが、施策というものはどの歌手のどの曲でも、リリース日設定ひとつをとっても実施されていることです。音楽チャート管理者が常時議論することを願いつつ、日本のストリーミング全体の活性化に向けて歌手やコアファンがNumber_iの動向から学び、自身の施策に活かすことも重要だと考えます。