イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Stationheadで紹介した、”宇多田ヒカルから辿るゲームチェンジャー”プレイリスト掲載

4月から毎週日曜17時にお送りしているStationheadの配信番組、『imaoto on the Radio』、昨日第2回をお送りしました。お聴きくださった皆さんに感謝申し上げます。アーカイブおよび選曲リストはこちら。

最新曲、音楽チャート上位曲や色褪せることのない名曲等をお届けする1時間の配信番組ですが、この1週間にリリースされた作品を軸に様々な曲をお届けするプレイリストの企画も用意しています。今回は宇多田ヒカルさんによる初のベストアルバム、『SCIENCE FICTION』のリリースを踏まえ、その宇多田さんの曲を軸に音楽業界の流れを変えた”ゲームチェンジャー”と思しき歌手や作品を紹介しました。

 

 

宇多田ヒカルさんによる初のベストアルバム、『SCIENCE FICTION』は明後日公開のビルボードジャパンアルバムチャートにて首位初登場が見込まれます。このアルバム、再レコーディング3曲や過去曲に施された新たなミックスを聴くにつけ、ベストアルバムながらニューアルバム的な要素も強いと感じるに至っています。

宇多田ヒカルさんほど、この四半世紀のJ-POPに新たな影響を及ぼし続けた方はいないでしょう。デビューシングル「Automatic」(1998)のインパクトは、後に最新4月10日公開分ビルボードジャパンソングチャートでラジオ指標を制したことからも明白(下記リンク先は、ラジオ指標の基となるプランテックのOAチャート)。「Automatic」は同日公開分の総合ソングチャートでも82位に再登場しており、Stationheadでもお届けしました。

(上記ミュージックビデオは4Kアップグレード版。音源はオリジナルバージョンであり、ベストアルバム『SCIENCE FICTION』収録の新ミックスとは異なります。)

 

「Automatic」を収録したファーストアルバム『First Love』(1999)は特大ヒット、表題曲がドラマ『First Love 初恋』(2022)に用いられリバイバルヒットする等様々な角度で話題の作品ですが、個人的に印象深いのが「Never Let Go」におけるスティング「Shape Of My Heart」(1993)の引用。この正式なサンプリングをパクりと糾弾した週刊誌が目立ったことも印象的でした(当初クレジットがなかったことも問題かもしれませんが)。

 

『SCIENCE FICTION』には”Utada”名義での海外活動期の作品は含まれていませんが、ベストアルバムでもフローティング・ポインツ等が起用され、海外の制作陣と組むことが自然となっています。その宇多田ヒカルさんが初めて海外のプロデューサーを招聘したと思しきシングルが、4枚目のシングル「Addicted To You」(1999)におけるジミー・ジャムとテリー・ルイスでした。

(上記ミュージックビデオは4Kアップグレード版。音源はオリジナルバージョンであり、ベストアルバム『SCIENCE FICTION』収録の再レコーディング版とは異なります。)

ミュージックビデオでも用いられた”UP-IN-HEAVEN MIX”は、後に「タイムリミット」でタッグを組むロドニー・ジャーキンス的上モノ使いが印象的ですが、”UNDERWATER MIX”ではジャム & ルイスとのタッグでキャリアを築き上げたジャネット・ジャクソンの影響が大きく、日本にR&Bを根付かせた宇多田ヒカルさんがそのR&B世界をより深くしたと感じています。タイムレスなミックスはもっと注目されていいはずです。

 

(ちなみに宇多田ヒカルさんは”Utada”名義で海外活動を開始する前、映画『ラッシュアワー2サウンドトラックに「Blow My Whistle」を提供しており、これが本格的な海外展開の開始と捉えています。ネプチューンズによるプロデュースで、フォクシー・ブラウンを迎えたこの曲のクールネスも特筆すべきですが、現時点で公式動画はなく、またSpotifyでは聴取できない状況となっています。)

 

Addicted To You」の”UP-IN-HEAVEN MIX”同様、今回のベストアルバム『SCIENCE FICTION』で再レコーディングされた曲のひとつが、宇多田ヒカルさん自身が出演したCMソングにも選ばれている「traveling」(2001)です。

(上記ミュージックビデオは4Kアップグレード版。音源はオリジナルバージョンであり、ベストアルバム『SCIENCE FICTION』収録の再レコーディング版とは異なります。)

遊び心溢れる歌詞が楽しく、高揚感が持続しながらも聴き手を疲れさせることのない「traveling」は、ミュージックビデオ共々衝撃をもたらしました。個人的には、歌手がこの曲を自身の世界観に寄せてカバーする姿も印象的で、槇原敬之さんおよび大橋トリオのカバーは共に素晴らしく、同業者に刺激を与えるという点でも宇多田ヒカルさんの凄さを実感した次第です。

 

現在ではサブスクの興隆により、日本語曲でも海外の音楽チャートにランクインしやすい状況となりました。米ビルボードが2020年にグローバルチャートを開始したことも大きいのですが、宇多田ヒカルさんはそのチャートのローンチ前、米ビルボードによる米のソングチャートで初の100位以内エントリーを果たします。

ゲーム『キングダム ハーツIII』オープニング曲で、スクリレックスとの共作(共同名義)となる「Face My Fears」は2019年2月2日付米ビルボードソングチャートで98位に初登場。この初登場が唯一のランクイン週となるのですが、そのチャートインに貢献した要因のひとつが、配信の”金曜リリース”だったと捉えています。

ビルボードは金曜が集計期間初日であり、金曜リリースにより初動の最大化が可能に。その習性を活かしたのがYOASOBI「アイドル」であり、同曲の英語版(「Idol」)を金曜に解禁したことで米ビルボードのグローバルチャートのうちGlobal Excl. U.S.(Global 200から米の分を除く)で初制覇に至っています。宇多田ヒカルさんは海外展開にてリリース日設定に施策を用いた点で、J-POPが世界ヒットに至るための礎を築いたのです。

 

 

宇多田ヒカルさんによる初のベストアルバム『SCIENCE FICTION』は、文筆家のつやちゃんさんがビルボードジャパンに寄稿したコラムでも”新作”と記しています。アルバムタイトルを”SF”にした意味の分析等には唸るばかりですが、つやちゃんさんが今回特筆すべき曲として採り上げているのが新曲「Electricity」でした。

この曲については、音楽ジャーナリストの柴那典さんもほぼ同じタイミングで言及されています。

『次なるフェーズへ向かおうとしている』『明らかに『BADモード』の次に行ってる』というお二方の言葉からも、今回の新曲が攻めの姿勢であり(いや、本人はそもそも肩に力をいれてはいないでしょう)、そして今後のJ-POPの地平を切り拓く可能性を大いに秘めた作品だと解るはずです。

この「Electricity」から浮かんだのが、w-inds.「We Don't Need To Talk Anymore」(2017)。EDMをJ-POPに見事に昇華させたこの曲の、サビでのボーカルドロップが「Electricity」につながっているように感じます。橘慶太さんによるセルフプロデュース曲は、柴那典さんがw-inds. 橘慶太、クリエイターとしての能力を発揮 最新曲における2つのポイント - Real Sound|リアルサウンド(2017年1月22日付)にて紹介されています。

この曲の素晴らしさは弊ブログでも紹介していますが、この曲やw-inds.についての紹介が難しいと思わせる枷や柵(しがらみ)がメディア側にあるならばそれは解くべきだということも、ここで唱え続けてきました。

w-inds.は未だ『ミュージックステーション』(テレビ朝日)をはじめとする音楽番組への出演が十分とはいえませんが、BE:FIRSTの登場以降、そして前週金曜の同番組におけるNumber_iとWEST.および20th Centuryの共演に伴い、枷や柵は少しずつなくなってきていると実感しています。

「We Don't Need To Talk Anymore」にはSKY-HIさんによるリミックスも存在。そしてそのSKY-HIさんこそ、J-POPのみならず日本のエンタテインメント業界にこびり続けた不条理を変えるべく動いた2020年代のゲームチェンジャーです。地平を切り拓くという意味でも、「We Don't Need To Talk Anymore」を軸に宇多田ヒカルさんとSKY-HIさんがつながったと考えるのは決して大げさなことではないでしょう。

 

 

というわけで、今回は宇多田ヒカルさんのベストアルバム『SCIENCE FICTION』リリースを記念し、宇多田ヒカルさんとその関連(と捉える)の歌手や作品にてJ-POPに影響を与えた”ゲームチェンジャー”的な位置付けの曲をお届けしました。プレイリストも用意しましたので、是非チェックしてください。

(いずれ聴取可能になる可能性を踏まえ、Hikaru Utada feat. フォクシー・ブラウン「Blow My Whistle」も収録しています。)