イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

King & Princeデジタル解禁やアルバムチャート動向から、STARTO ENTERTAINMENT全体のデジタル解禁を提案する

本日、King & Princeの新曲2曲がデジタル解禁されました。ジャケットを別々に用意したその工夫に感心した次第です。

STARTO ENTERTAINMENT所属歌手はデジタル解禁が不十分な状態が続いていますが、King & Princeはフィジカルシングルがリリースされる週の月曜に表題曲2曲を先行解禁。そしてリリース日である5月23日に最新シングルのカップリング曲、そしてベストアルバム『Mr.5』(2023)収録曲がデジタル解禁されます。

このデジタル解禁については以前も紹介しましたが(上記リンク先参照)、King & Prince側はデジタル解禁をアナウンスしたInstagramライブ配信時にビルボードジャパンソングチャートでの首位獲得を目標にしていると明言したことを伺っています。解禁スケジュールからはBE:FIRSTのフィジカルシングルにおける施策が見て取れ、STARTO ENTERTAINMENT側の意識が変わってきていることに感心しています。

昨日お送りしたStationheadの配信番組『imaoto on the Radio』ではKing & Princeのデジタル解禁に触れつつ、STARTO ENTERTAINMENT所属歌手のデジタル配信曲を紹介。デジタルカタログはまだまだですが、デジタルには廃盤という概念が基本的にないこと、過去曲でもいつ何時再度フックアップされるかわからないことを紹介しました。加えて、ライト層やグレーゾーンの方が新曲に触れる機会が増えることもメリットといえます。

 

 

さて、STARTO ENTERTAINMENT所属歌手がデジタルに強い可能性について、以下のデータを踏まえてお伝えします。

 

上記は2022年度以降にビルボードジャパン週間アルバムチャートを制した作品の一覧表。2022年度まではルックアップ(インターネット接続機器にインポートした際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスした数)も指標に含まれており、レンタル数も推測可能なこの指標が接触の意味合いも持ち合わせていましたが、ルックアップが廃止された2023年度以降は所有2指標のみで構成されています。

この表はこれまでもブログで用いてきましたが、今回フィジカルセールスとダウンロードの合計売上数、および全体に占めるダウンロード数の割合を新たに設けています。なおビルボードジャパンではフィジカルセールス1枚とダウンロード1DLとで、後者が大きくなるようチャートポリシー(集計方法)が設計されています。

 

上記表からは、週間首位獲得作品の多くがダンスボーカルグループ/アイドルグループであり、特に日本そして韓国の男性ダンスボーカルグループが多くを占めていることが判ります。その一方で合計売上数に対するダウンロード数の割合は低く、1%に満たない作品も目立っています。

(なお合計売上数およびダウンロード数の割合における赤文字は(当時)デジタル未配信の作品。青文字はデジタルのみリリース、もしくはフィジカル後発の作品を指します。)

一方で合計売上数に対するダウンロード数の割合が3%を超える作品にはストリーミング等でも強い、またロングヒットする傾向にあるものが少なくないと捉えていいかもしれません。また登場2週目以降はこの割合が高くなる傾向もみえてきます。

 

合計売上数に対するダウンロード数の割合が大きかった作品のひとつが、2023年12月27日公開分ビルボードジャパンアルバムチャートを制したTravis Japan『Road to A』。4.12%という数値、ダウンロード数共に今年度では高い状況です。男性ダンスボーカルグループのアルバムチャート首位作品ではBE:FIRST『BE:1』(2022年9月7日公開分)が『Road to A』に近く、Travis Japanはデジタルでもポテンシャルが高いと解ります。

またフィジカルシングル「Roar」以降デジタル解禁を強めている(一方で過去曲は今も解禁されていない)KAT-TUNは、『Honey』が2022年4月6日公開分、『Fantasia』が2023年2月22日公開分にてビルボードジャパンアルバムチャートを制しています。合計売上数に対するダウンロード数の割合は順に1.60%および1.44%となり先述した3%は割り込んでいますが、他の男性ダンスボーカルグループ/アイドルグループより高い状況です。

 

Travis JapanKAT-TUNはサブスクで必ずしも強いわけではないというのが厳しくも私見ですが、STARTO ENTERTAINMENT所属歌手全体がデジタルを強化し、コアファンがデジタルも好んで活用するようになれば、知名度の高さからライト層やグレーゾーンの方にも所属歌手をデジタルで買う/聴く動きが徹底され、(全体的には漸減傾向にある)ダウンロード、そしてストリーミングでも強くなる可能性を今回の表から感じています。

また今回の表からあらためて、フィジカルセールスに強い作品の売上枚数がユニークユーザー数と乖離することが少なくないと実感します(その点において、STARTO ENTERTAINMENT所属歌手の作品のほうがフィジカルセールスからユニークユーザー数を算出しやすいのではとも感じています)。ダウンロードの強さから、デジタルがフィジカルを凌駕するのではなく共存可能に成り得るという考えを強くした次第です。

特に施策に伴い初登場週以降にフィジカルセールスを伸ばした作品のダウンロード数との乖離や、そこから想起可能なユニークユーザー数を踏まえ、ビルボードジャパンにはアルバムチャートへのストリーミング指標導入を提案しています(上記リンク先参照)。その願いがさらに強まると共に、これはSTARTO ENTERTAINMENT所属歌手か否かに関係なく、ダウンロードのウエイトをもう少し高めてもいいのではとも感じています。

 

そして、STARTO ENTERTAINMENT所属のKing & Princeがデジタルの世界に舵を切ったことで、事務所側の考え方が変わることを願います。その変化が、日本のエンタテインメント業界が開かれたものに成ったと海外からは映ることでしょう。