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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

宇多田ヒカル『BADモード』はなぜ水曜リリースにしたのか…考えられる3つの理由、そして変えるべきこととは

1月19日にデジタル先行でリリースされた宇多田ヒカルさんのニューアルバム『BADモード』。サブスクにおいてはリリース日における日本のSpotifyデイリーチャートで10曲目までの全曲が200位以内に登場しました。一方で最新1月22日付においては200位以内に7曲登場しながら、再生回数が伸びるはずの土曜にあって7曲すべてが前日割れという事態となっています。

ともすれば『BADモード』がサブスクで勢いを保てないことで、ビルボードジャパンがアルバムチャートのチャートポリシーを見直すのは先の話になるかもしれませんが、チャート側に議論の機会を設けていただくことを願い上記ブログエントリーを記載しました。明後日発表される最新アルバムチャートを注目したいと思います。

 

さて、その宇多田ヒカル『BADモード』は高い評判を集めています。これは自分のSNS上のタイムラインにとどまりません。

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音楽メディアによるアルバムや曲の評価をまとめたサイト、Album Of The Yearにおける、日本時間1月24日午前5時段階での『BADモード』の評価を上記に。メディアによるスコアは未記載(おそらく取り扱いがない模様)ですが、ユーザースコアは79に達しています。ユーザースコアにおいては今年はじめにリリースされ、同じく高い評判を集めているザ・ウィークエンド『Dawn FM』を上回っています。

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世界中の音楽関係者や音楽好きの方々ならば、Utada名義での活動を憶えている方が多いかもしれず、それが高い注目につながっていることでしょう。まずは世界のメディアに『BADモード』が採り上げられることを願うばかりですが、しかしながらここで思うことがあります。

それは、【『BADモード』はなぜ水曜リリースにしたのか?】ということです。

 

シングルのデジタルリリースにおいては、タイアップ先を考慮した解禁日設定がなされることが多く、たとえば「君に夢中」(2021年)においてはドラマ『最愛』(TBS)が放送される金曜に解禁されています。しかしながらアルバムにおいては、日本人歌手の作品の場合は未だ水曜リリースが主流という状況です。

しかしながら、海外での標準リリース日は金曜に移っています。米ビルボードのみならず、米ビルボードが2020年秋に新設した世界でのヒット曲を可視化するグローバルチャートにおいても、金曜が集計期間初日となっています。つまり日本の作品は水曜リリースを踏襲し続ける限り、初週においては2日間の加算にとどまり不利になるわけです。

 

宇多田ヒカルさんの場合、『BADモード』は後発リリースとなるフィジカルは2月23日水曜にリリースされますが、デジタルにおいても水曜リリースという形となりました。仮に金曜リリースだったならば、海外のアルバムチャート等でも存在感を示せたでしょう。現に海外では、瞬発的かもしれませんが『BADモード』が上位に進出しています。

たとえば米ビルボードにおいて、1月20日木曜までの1週間を集計期間とする1月29日付アルバムチャートの詳報は日本時間の明日19時以降に発表されます。宇多田ヒカル『BADモード』も初登場する可能性が高いかもしれませんが、より上位に進出するにはやはり金曜リリースに設定したほうがよかったでしょう。

もしくは、デジタルのみのカウントでも日本でより好い位置を狙うならば、17日月曜リリースという手段もあったはずです。標準のリリースタイミングからは外れるとしてもデジタルであれば柔軟に対応が可能。月曜朝の情報番組で採り上げられれば職場や学校等で話題にあがることも増え、より多くの方がチェックするようになったかもしれません。

『BADモード』のデジタルリリースが、フィジカルセールスに強い木村拓哉Next Destination』と重なったのであれば、サブスク再生回数等を含めない現行のビルボードジャパンアルバムチャートでは首位を獲ることが難しいと予想できたはずです。ならば意識を世界に向けて金曜にリリースする、もしくは日本の音楽チャートをきちんと意識するならば月曜リリースという手段も有り得たでしょう。

 

 

ではなぜ『BADモード』は、先行したデジタルにおいても水曜リリースとなったのでしょう。

 

考えられるのは3つ。まずは、【日本では水曜リリースが標準化している】ということ。先述の通り、アルバムにおいては水曜リリースが未だ大半の作品で踏襲されています。個人的に金曜リリースにすべき理由については2年前に記していますが、日本の水曜リリースの慣習はデジタルが世界で標準化し、そしてデジタルを解禁していれば世界の音楽チャートにも載ることが可能な時代にあって、ガラパゴス的ではと思うのです。

 

次に挙げられるのは、宇多田ヒカルさんがスクリレックスと組んだ【「Face My Fears」のチャート結果を踏まえて】という可能性。先程掲載した自分のツイートはこちらを指すものです。

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2019年1月18日金曜にデジタルおよびフィジカルでリリースされた「Face My Fears」は、同年1月23日公開分(1月28日付)のビルボードジャパンソングスチャートで6位に登場(総合ソングスチャートは黒で表示)。翌週は初の1週間フル加算が影響して3位に入りますが、トップ10入りはわずか3週、100位以内エントリーも7週にとどまっています。

仮に水曜リリースだったならば、リリース週の集計対象日数が伸びることでもう少しポイントを獲得し、上位に進出した可能性があります。ともすればこのチャート動向を踏まえ、金曜リリースを避けたと言えるかもしれません。

ただ、たとえば動画再生指標(上記CHART insightでは赤で表示)においては極度に低く、総合3位を記録した週とその2週後に加点はされているのですが100位未満(300位圏内)であり高いとは言えません。先程紹介したミュージックビデオはスクリレックスYouTubeアカウント発でありフルバージョンなのに対し、宇多田ヒカルさんのアカウントに掲載されたほうは短尺版となります。ともすればこの影響も大きかったでしょう。

仮に宇多田ヒカルさん側のYouTubeアカウントが「Face My Fears」をフル尺にて動画発信していたらと思うのですが、宇多田ヒカルさんサイドは同曲の結果を経て、金曜リリースへのこだわりが薄れたという可能性が考えられます。そしてもしかしたら、同曲の成績が日本の音楽業界全体における金曜リリースへのシフトを遠ざけたとすら言えるかもしれません。

 

『BADモード』のデジタルリリースが水曜となった理由として考えられるもう一つの要因は、SNSにて教えていただいたのですが【リリース日が宇多田ヒカルさんの誕生日】だということ。確かにこの"記念"を踏まえたリリースは十分考えられます。

 

 

今回のリリース設定について、特に最初の2点が理由であるならば、如何に日本の音楽業界が水曜リリースを強く意識しているかを感じ取った次第です。広く世界に視野を広げれば、このリリース曜日設定はデジタルの興隆に伴って不利になるものと考えます。無論チャートが全てではないとして、しかしなぜ日本だけ水曜なのかという疑問を世界中の方々から抱かれかねないでしょう。

日本の音楽業界や音楽ファンの方々が、リリース日設定について考えを巡らせることを願っています。