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”マイリー・サイラス「Flowers」はブルーノ・マーズ「When I Was Your Man」のソングライターを追記すべきか問題”への見解

マイリー・サイラス「Flowers」が大ヒット中です。1月28日付の米ビルボードソングチャートや米ビルボードによるふたつのグローバルチャートで初登場にて首位を獲得すると、最新2月4日付ではストリーミングをさらに伸ばしいずれのチャートでも連覇を果たしています。

次回、2月11日付各種チャートの集計期間は1月27日~2月2日。同期間においてSpotifyでは前週より再生回数を落としたものの、米ビルボードやグローバルのソングチャートでは「Flowers」が首位をキープするものとみられています。

 

そのマイリー・サイラス「Flowers」については、米ビルボードがヒットの理由として5つを紹介。このブログでは記事を踏まえたブログエントリーを用意しましたが、その際このようなことを記しました。

マイリーは「Flowers」のリリース前に歌詞のサビ部分を投稿しており、ともすればこちらの内容もコアファンやゴシップ好きの方々の想像を掻き立てるに十分だったかもしれません。さらにサビの歌詞についてはブルーノ・マーズ「When I Was Your Man」の立ち位置を逆転させたものではないかという指摘もみられています。

「Flowers」とブルーノ・マーズによる米ビルボードソングチャート制覇曲「When I Was Your Man」の類似性については上記エントリーや元記事では大きく触れていなかったものの、後に米ビルボードは類似性に関する記事をアップしています。まずは意訳した内容を以下に記載します。

 

マイリー・サイラス「Flowers」がブルーノ・マーズ「When I Was Your Man」をクレジットしなくてもいい理由について

(米ビルボードソングチャートの首位獲得曲は、ブルーノの「When I Was Your Man」を引用しているようだが、この曲のメロディをサンプリングしたり、挿入しているわけではない。)

 

 

マイリー・サイラスが米ビルボードソングチャート(Hot 100)のトップを飾るニューシングル 「Flowers」が1月13日にリリースされて以降、インターネット上で様々な憶測が飛び交っています。特に注目されているのがブルーノ・マーズによる10年前のナンバーワンヒット、「When I Was Your Man」 との関係性です。

 

「Flowers」と「When I Was Your Man」の歌詞の類似点、とりわけ各々のサビの部分を指摘するファンは数え切れないほどで、「When I Was Your Man」でブルーノ・マーズが記した後悔に満ちた多くの感情について、「Flowers」は反対側の視点から、堂々たる態度を記しています。例えばブルーノは「When I Was Your Man」にて、“君に花を買ってあげるべきだった / どのパーティーにも君を連れて行くべきだった / だって君はダンスがしたかっただけだ”と嘆いた一方、マイリーは「Flowers」にて“私は自分に花を買うことができる / 私は自分をダンスに連れて行ける”と述べています。「When I Was Your Man」はマイリーの元夫であるリアム・ヘムズワースのお気に入りであり、ゆえにサイラスは「Flowers」にてリアムを必要としていないこと(キスオフ)を示したという説が有力視されているのです。この2曲の話題性は、「Flowers」のリリース後に「When I Was Your Man」の週間ストリーミング数が20%近く上昇するほどの影響を与えています。

 

この2曲の関係はファンにとって明白なようで、多くの人がブルーノ・マーズ、そしてブルーノ共々「When I Was Your Man」を手掛けたアンドリュー・ワイアット、フィリップ・ローレンスそしてアリ・レヴィーンが「Flowers」のソングライターにクレジットすべきではないかと、ソーシャルメディア上で疑問を呈しています。音楽的インスピレーションの明らかな源泉となる作品のソングライターをクレジットすることは、たとえ直接的なサンプリングが存在しないとしても、人気アーティストの新曲ではある程度一般的になっています。最近では、オリビアロドリゴがパラモアのヘイリー・ウィリアムスとジョシュ・ファロを、彼らの「Misery Business」と音楽的に類似しているという理由で「Good 4 U」のクレジットに加え、またビヨンセは「Break My Soul」においてロビンS「Show Me Love」の音楽的要素がいくつか重なることからソングライターであるフレッド・マクファーレンをクレジットに加えています。

しかし、マイリー・サイラス「Flowers」とブルーノ・マーズ「When I Was Your Man」のケースは少し異なります。「Good 4 U」や「Break My Soul」ではメロディやリズム、テクスチャーなど音の類似性に基づくものが大半であり、オリジナル側の著作権が侵害されたと主張できるほど近い性質を持ち合わせていました。しかし、「Flowers」と「When I Was Your Man」の間には直接的なサンプルや明らかな挿入がないのみならず、音的にも大きな重なりはありません。明らかに共通するメロディやリズムもなければ、質感に大きな類似性も見当たりません。マイリーが“I can buy myself flowers”と歌うときは彼女自身のリズムとメロディで歌っており、マースが“I should've bought you flowers”と歌った場合とでは大きな類似性はありません。

つまり、「Flowers」と「When I Was Your Man」において明らかに類似している箇所は歌詞のみ。単にインスパイア源とされる曲と同じ言葉の一部を使用することは、侵害の根拠とは見なされないのです。

 

ナッシュビルにあるバンダービルト大学ロースクールの教授で音楽法の専門家であるジョセフ・フィッシュマン氏は、『これはファンにとっては格好のネタだが、弁護士は一切関知すべきではありません』と述べています。『「WhenI Was Your Man」の作詞者のクレジットがないのは、ライセンスが必要ないからです』とも話します。

マイリー・サイラスブルーノ・マーズの歌詞を自身の表現の参考としたというケースには、前例がないわけではありません。いわゆる“アンサーソング”はポピュラー音楽の長年の定番です。有名な例としては、1950年代のドゥーワップの定番曲であるシルエッツの「Get A Job」に対するミラクルズ「I Got A Job」やハートビーツ「I Found A Job」が挙げられます。また1970年代のサザン・ロックの名作「Sweet Home Arabama」での、ニール・ヤング「Southern Man」に対するリザード・スキナードの反論(“ニール・ヤングに覚えていて欲しい / サザン・マンにはとにかく彼は必要ない”)、また1980年代半ばの男性ラップグループUTFOと女性ラッパーのロクサーヌ・シャンテによる”ロクサーヌ戦争”等も。これらの多くには、インスパイア源となる作品のリリックの引用はあっても、それらの曲のソングライターを追加でクレジットしていないものがほとんどでした。

フィッシュマン氏は、『歌詞は確かに、「Flowers」が「When I Was Your Man」に意図的に反応しているとリスナーに思わせるに十分な類似性がある』と提示しています。『しかしそれが事実だと仮定して、だからどうしたというのでしょう。インスパイア源の曲を用いて返歌や反論をすることは、それだけでは侵害にはなりません。ジョン・メイヤーテイラー・スウィフトがお互いに曲を書いても、クロスライセンスする必要はないのです』。

 

これらを踏まえれば、ブルーノ・マーズと共同ソングライターが最終的に「Flowers」のクレジットに追加される可能性はないのでしょうか。いや、そうとは限りません。マイリーが「When I Was Your Man」のソングライター陣から法的な訴えを受けないよう、法的に保護されているかどうかは別としても最終的には善意の行為として、楽曲の類似性がメディアに注目される中にあって対立を避けたいという思いから、彼らを加えることを決めるかもしれません。2021年の「Good 4 U」のようにリリース後にソングライタークレジットを追加することは珍しいことではなく、多くの場合は関係者間の交渉を経て追加されます。しかしながらブルーノと共同ソングライターの名前がクレジットにないままであれば、マイリーは法的責任を負わない可能性が高いのです。

 

簡単にいえば、マイリー・サイラス「Flowers」はブルーノ・マーズ「When I Was Your Man」の歌詞にインスパイアを受けていることはほぼ明らかながら、歌詞の一部のみを引用したものはクレジットの必要がありません。ただし今後指摘される可能性を踏まえ、「When I Was Your Man」のソングライター陣を「Flowers」に後から追記することも可能だということです。

 

 

「Flowers」と「When I Was Your Man」との関係性とは異なりますが、米津玄師「KICK BACK」ではモーニング娘。「そうだ! We're ALIVE」の歌詞の一部を用いており、制作時にソングライターのつんく♂さんにお伺いを立てていたことを思い出しました。「KICK BACK」では「そうだ!We're ALIVE」がサンプリングとしてクレジットされていることが米津玄師さんのホームページにて確認できます。

他方、当初はクレジットがなかったものの類似性を指摘されたことで、後にクレジットが変わった例は日本でも存在します。

先述した米津玄師「KICK BACK」においては、先月放送の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)にてそのベースラインがレディオヘッド「Paranoid Android」を意識したものではないかという紹介がありました。仮に事実ならば後にクレジットされるか、ともすればレディオヘッド側から指摘を受けるかもしれません。

また、たとえば直近でリリースされた作品として、R&B歌手のケヴィン・ロスによる「Look My Way」がスタイリスティックス「Betcha By Golly, Wow」の展開をなぞっていると感じているのですが、曲の展開のみが似ているならばクレジット追記の必要性は微妙かもしれません。Spotifyによると、現段階でソングライターはケヴィン・ロス単独となっています。

 

 

あくまで私見と前置きしますが、ともすれば指摘されない限りはインスパイア源とされる曲をクレジットする必要性は乏しいのかもしれません。ただし米では高額訴訟が多く、中には個人的に不条理と感じる結果も少なくないことから、オリヴィア・ロドリゴが「Good 4 U」で採った手段をマイリー・サイラス「Flowers」においても一度講じてみることは必要ではないかと感じています。

なおブルーノ・マーズ「When I Was Your Man」は、1月27日~2月2日を集計期間とするSpotify週間チャートにおいて米で111位(最高位タイ)、グローバルでは75位(最高位更新)を記録し、マイリー・サイラス「Flowers」の影響力が見て取れます。この集計期間は日本時間で来週火曜発表予定の2月11日付米ビルボードおよびグローバルチャートと同一であることから、複合指標から成るチャートでも動向を注目したいところです。