イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンソングスチャートを構成する指標を見直すならば…個人的希望を記す

このブログで毎週、その動向を追いかけているビルボードジャパンソングスチャート。時代に合わせて集計対象となる指標を増やす、もしくは指標毎のウェイトを変えることで、今の社会における真のヒット曲とは何かを常に自問自答されています。

2019年度の終盤に上記エントリーを記載しましたが、その後まもなくSpotifyが加算開始。またYouTubeのカウント対象が見直され、2021年度からはUGC(ユーザー生成コンテンツ)について別途チャート(Top User Generated Songs)を設ける形で動画再生やストリーミング指標の加算対象外とし、公式動画のみが接触指標群にカウントされる形に変更されました。

一方、新型コロナウイルスの影響でCDリリースの延期や中止、販売店の営業自粛によるシングルCDセールス指標がこの春減少。また営業自粛店舗が増え利用者が減ったカラオケについては、3ヶ月弱集計対象から外す事態も発生しています。

 

既に2021年度は始まっていますが、この状況下において今現在思うことを書き記してみます。

なお、2020年度の年間ソングスチャートはこちらから確認できます。

 

・シングルCDセールス:↓

『シングルCDセールスにばかり長けた作品が同指標初加算週に上位(首位を含む)を獲得しながら翌週には急落する現象が毎週のように発生し、週間チャートの順位と社会的ヒットとの乖離が甚だしい』と一昨年記載した事態は今も変わっていません。むしろコロナ禍で瑛人「香水」やYOASOBI「夜に駆ける」といった未CD化曲がチャートを制し、そちらのほうが社会的ヒットに至れたことで『』の傾向はよりはっきりしたとも言えます。

2020年度の週間1位獲得曲のリストは下記に。そして年間ソングスチャートを取りまとめたブログエントリーでは最後の項目に、【シングルCDセールス特化型は年間チャート上位に立てない傾向】としてまとめています。

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日本の歴代映画興行収入ランキングを塗り替えんとする映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』主題歌であるLiSA「炎」が、あれだけの映画のヒットにかかわらず初週CDセールスは65000枚。同作は年度末までに184557枚を売り上げ、2020年度年間シングルCDセールスチャート(→こちら)で34位に入りましたが、その前後の順位の曲は初週セールス特化型であり、その初週の売上は15~20万程度。しかしながらそれら楽曲の年間ソングスチャートでの弱さ、一方で「炎」がCDセールス加算からわずか6週で年間ソングスチャート9位に入ったことを踏まえれば、現在週間30万枚と言われている係数処理対象枚数を10万枚に落としてもよいのではないかと考えます。加えるならば、たとえば『ミュージックステーション』が今年11月に行ったアンケート企画、”今年の1曲ランキング”でCDセールス特化型のトップ10入りが嵐「カイト」のみだったことを踏まえれば、CDセールスばかりが長けた曲の社会浸透度は高くないということが解ります(「カイト」は12月10日までデジタル未解禁のまま。なお、シングルCDのカップリング曲は今も解禁されていません)。

 

 

・ダウンロード:→

・ストリーミング:→

全体的にダウンロードは緩やかに下がり、ストリーミングは飛躍的に伸びている状況です。とはいえ日本は世界の中でダウンロード指標が強く、LiSA「炎」が3週連続で10万DLを突破したことはその象徴と言えます。ダウンロードは徐々にシュリンクするとして、特段動かす必要はないでしょう。

ストリーミングが強い曲は週間最高位こそ高くないとしても年間ソングスチャートで上位進出している状況ですが、CDセールスばかりが強い曲よりも違和感を抱かれにくいと考えるゆえ、こちらの指標も特にウェイトを変える必要はないでしょう。なおダウンロードおよびストリーミングは、今年9月に米ビルボードが新設したグローバルチャートを構成するものであるため、世界的に知名度を高めるにはこのふたつの指標、特にストリーミングを強化しないといけません。

ストリーミングにおいては、未だ加算対象となっていないAmazon Prime Musicの再生回数をカウントするようにしてほしいと願います。

 

 

・ラジオエアプレイ:→

ラジオエアプレイの影響力は大きくなくなりましたが、今年特に目立ったTikTokYouTubeを起点としたヒット曲がラジオエアプレイおよびカラオケの指標群を獲得できるか否かが大ヒットとスマッシュヒットの分岐点と考えるゆえ、その判断材料という意味でもなくてはならない指標ではあります。これは瑛人「香水」の首位獲得前に指摘していることです。

このラジオエアプレイについては、前回(2019年10月)記した内容(→こちら)が未だ叶っていないと考えています。早急な改善を願うばかりです。

 


・ルックアップ:→or↓

パソコン等にCDを取り込んだ際にインターネットデータベースにアクセスする(ことでCD情報を受け取る)回数がルックアップ。日本独特のCDレンタルというニーズを把握するため、そしてCD購入者とCD売上枚数との乖離を把握し、実際のの購入者数(ユニークユーザー数)を推測するためにも重要な指標と言えます。

一方で、後述するTwitter指標同様、この指標を伸ばすべくコアなファンの取り込みが徹底されるようになった印象があります。この指標だけで1万ポイントを大きく上回る曲が複数出現したのも今年の特徴と言えるでしょう。無論この急拡大をコアなファンの活動だけが原因と断言することは正しくありませんが、しかしながらTwitterでのファン同士の呼びかけが目立っている印象がありますし、ビルボードジャパンスタッフによるポッドキャストでもルックアップの急上昇は特筆すべきと指摘されています。

ルックアップ上昇の一因として、カップリング曲が異なる複数種販売が挙げられます。一方でCDレンタル店では複数種全種を置くところは多くなく、レンタル解禁が一種のみしか許されていない作品もあります。ならば複数種販売はレンタルニーズの把握につながりにくくCDセールス上昇策の域を出ないだろう前提に立ち、その結果としてのルックアップ上昇にはメスをいれる必要があるのではないでしょうか。たとえば一定数を超えるルックアップについてはCDセールス同様に係数を導入することを視野に入れるべきと考えます。その意味において、→or↓と記載しています。

 

 

Twitter:↓

Twitterについては、2020年度ビルボードジャパンソングスチャートの定点観測を記したエントリーでも触れています(→こちら)。

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特に男性アイドルの占有率が高まったのは、ルックアップでも記したようにコアなファンの呼びかけが大きいゆえと考えています。

ビルボードジャパンのチャートディレクションを行う礒崎誠二氏はTwitter指標の導入理由を『その投稿が人目に触れることで一定のプロモーション効果がある』ためとしています(ビルボードジャパンが「複合チャート」を作る意味とは? 担当ディレクターに狙いを聞く - Real Sound|リアルサウンド(2015年3月22日付)。しかし、たとえば星野源「うちで踊ろう」のようなバズとは異なり、コアなファンがチャートアクション上昇を主たる目的としてつぶやくことで生まれる盛り上がりはファン同士の域を越えないのではないかと。たとえば応援するアイドルがドラマ等に単独出演した際、その方が所属するグループが主題歌を担当していないにもかかわらずグループ名および最新曲の曲名を実況ツイートに混ぜるアイドルファンの行為を、ドラマを純粋に楽しみたい側は邪魔に思いそのアイドルへのイメージ自体下げてしまうのではないでしょうか。またそのようなつぶやきをファン以外の方が触れたところで、肝心の曲がデジタル未解禁ならば結果としてツイートを起点とした接触や所有という流れは生まれにくく、その意味でも一定のプロモーションが生まれているとは考えにくいのです。

ビルボードジャパンは2021年度から、動画再生からUGC(ユーザー生成コンテンツ)を除外し、独自のチャートを設けました。UGCもチャートに大きな影響を与えてきたのですが、米チャートに倣う形のチャートポリシー変更を施しています。このUGC切り離しのように、Twitterにおいても切り離し、米ビルボードにおけるSocial 50チャートのように独立させてもいいのかもしれません。ただそうなると、星野源「うちで踊ろう」のようなバズは可視化されにくくなるため、どちらかと言えばウェイト減少のほうが現実的と言えそうです。

それでもストリーミングの興隆により、どんなにTwitter指標を伸ばしても総合での上位進出は難しくなってきているという現状があります。ならば、たとえばデジタル未解禁の歌手についてはその解禁こそ最優先事項ではないでしょうか。

 

 

・動画再生:→(ただし条件あり)

所有よりも接触指標がロングヒットや年間ソングスチャート上位進出に欠かせなくなったわけで、ストリーミングほどではなくとも高いウェイトを誇る動画再生は特段見直す必要はないでしょう。先述したようにUGC(ユーザー生成コンテンツ)が切り離されたことはいい意味で意外だったのですが。

ただし2年前のエントリー(→こちら)でも記した、ショートバージョンやティーザー、広告を(本編後ではなく)本編中に挿入する作品は対象から外す変更を行ってほしいという思いは未だ強く持ち合わせています。システム的にショートバージョン等を除外するのは無理があるだろうことは承知で、しかしミュージックビデオを文化ではなく商品として位置付け、CDセールス最優先という考えを第一義として投稿されるショートバージョンは正しくないだろうというのが私見。そもそもショートバージョン等フル尺ではない動画の再生回数は落ち込む傾向がありますが、外すことはできないかという思いを厳しくも強く持ち合わせています。

 

 

・カラオケ:→

支持される曲がロングヒットにつながる一方、チャートの硬直化につながりかねないためウェイトを落としてよいのではと以前書いたのですが、よりウェイトの大きなストリーミングもロングヒット化の傾向があるためカラオケ指標は現状通りでよいのではと思うようになっています。むしろ、コロナ禍の際に集計対象から除外する必要はなかったのではないかとも思っています。

 

 

 

最後に、合算について

上記ブログエントリーでも触れましたが、DISH//「猫」はオリジナルとTHE FIRST TAKEバージョンの2つが合算されていれば年間ソングスチャートトップ20入りは間違いありませんでした。しかし米ビルボードソングスチャートとは異なり様々なバージョンが合算されないビルボードジャパンにおいては、この曲の社会的ヒットが可視化されにくいと考えます。

仮にビルボードジャパンソングスチャートが合算へ舵を切れば、たとえば米ビルボードでみられるリミックス投入施策(特に顕著なのはBTS「Dynamite」やテイラー・スウィフト「Willow」)が日本でも行われ、リミックス初加算時にCDセールス特化型のようなチャートアクションが生まれかねないという懸念はあります。その点については、たとえばオリジナルバージョン以外に対し一定の係数を所有や接触指標群に施す等の措置を導入することで対応できるかもしれません。

 

 

 

2021年度のビルボードジャパンソングスチャートは既に始まっているため、次回のチャートポリシー変更はもう少し先になるでしょう。社会的ヒットの鑑となっているこのチャートがより社会の流行をなぞるべく、私見の域を出ないものの提案させていただいた次第です。ビルボードジャパンが議論の材料にしていただけるならば、なにより嬉しく思います。