イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

一昨年夏リリースの「パプリカ」が大賞受賞、特別賞の存在…日本レコード大賞に対する疑問と改善策の提示

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 

一昨日、2019年の日本レコード大賞が発表され、Foorin「パプリカ」が受賞しました。しかしながらSNSには一部、疑問の声が挙がっています。それは「パプリカ」のリリースが昨年8月であること。このノミネート対象期間の問題は、一昨年の最優秀アルバム賞を受賞した米津玄師『BOOTLEG』において既に指摘していることでした。

TBSのホームページ(→こちら)は簡素なデータのみ掲載されているため、主催する公益社団法人日本作曲家協会の審査基準(→こちら)をチェックしたのですが、対象期間についての具体的な言及はありませんでした(というより、上記ブログエントリー以降文言は変わっていないようです)。

米最大の音楽賞であるグラミー賞(上記ブログエントリー等で記載)とは対照的な非明確化は日本レコード大賞の権威を自ら削ぎ、同時に受賞者への心無い言葉を生んでしまうのではと考えれば、日本レコード大賞主催団体は素早く改善していただかないといけません。『ノミネート作品は2018年11月1日から2019年10月31日までに発売もしくは解禁された作品。ただし対象期間より前に発売もしくは解禁された作品ながら対象期間に目覚ましい活躍を示したものはその限りではない』と明言するだけで好いはず。この【ノミネート作品の対象期間の非明確化】のみならず、日本レコード大賞には問題点がいくつかありますのでどう改善すべきかを含め提示します。

 

まずは一昨年のエントリーでも述べたTBS色の強さについて。Twitterアカウントである@TBS_awards(→こちら)は同局が毎夏放送する長時間音楽番組『音楽の日』等と共通で用いているものであり、その点において日本レコード大賞は局からの独立性が保たれていないと考えます。そして昨年は個人的に致命的と捉える事態が生じました。

石原信一さんは昨年の日本レコード大賞作詞賞を受賞したのですが、同賞発表時に後ほど市川由紀乃「雪恋華」を披露しますとアナウンスがあったことから石原さんの紹介は当初から決まっていたはず。にもかかわらず安住紳一郎アナウンサーによる発言は石原さんにとって屈辱的ですらあったのではないでしょうか。当該発言が台本通りならば台本の、安住紳一郎アナウンサーのアドリブならば安住さんの問題ですし、わずか一度の過ちを責めるのは違うとは思います。しかしながらTBSが作詞家をあたかも軽視したかのような発言は(たとえ最優秀歌唱賞が曲と関係ないことが事実だとしても言い方が)無礼であり、同局を代表するアナウンサーを司会に起用すること(これは安住アナウンサーに限らずすべての同局アナウンサーに言えることですが)は控えるべきだと考えます(というより、安住アナウンサーは昨日も長時間特番に出演しているのはさすがに体力面で大丈夫かと思ってしまいます)。【TBS色の強さ】をどう脱却させるかが問題であり、最善は放送局の一定期間での変更だと考えます。

 

もう一点、不可解なのは特別賞の存在。

グラミー賞に倣い最優秀レコード賞候補を(数も米グラミー賞に倣い8曲を)選ぶならば、ビルボードジャパンソングスチャートの動向を踏まえればこのような感じでしょうか。しかしながら日本レコード大賞の候補となる優秀作品賞10曲には「黒い羊」以外は含まれず、菅田将暉まちがいさがし」は特別賞を受賞。そして米津玄師さんは曲ではなく個人として同賞を獲得しています。仮に2曲が優秀作品賞に入っていれば同じく米津さんが書いたFoorin「パプリカ」とバッティングする可能性を踏まえ特別賞扱いにしたのでは?という邪推が働いてもおかしくないと思うのです。

日本レコード大賞の審査基準における特別賞とは『社会的に世の中を賑わせ、注目された人、作品などに贈る』ものであるゆえ(『』内は先述した日本作曲家協会の審査基準より)、「まちがいさがし」や米津玄師さんが選ばれることは問題ないのですが、2曲を優秀作品賞に入れないならば優秀作品賞の意味とは?と考えてしまいます。「まちがいさがし」や「馬と鹿」が社会的ヒットの鑑たるビルボードジャパン年間ソングスチャートにおいて優秀作品賞10曲より上位だったことを踏まえれば尚の事、疑問が強くなるのです。

さらには今回、新たに創設された特別音楽文化賞の存在にも疑問が生まれます。

上記音楽ナタリーの記事によれば、特別音楽文化賞は『音楽文化の発展に寄与し、「日本レコード大賞」へ多大な貢献をもたらした人物に贈られる賞』とのことですが、『長年にわたり音楽活動を続け、音楽界に多大な貢献をされた人』に送られる功労賞とはそこまで大きな差異はないと思うのです。ジャニー喜多川さんが音楽活動を行っていなかったゆえ新設したという見方もあるでしょうが、しかしながら引っかかるのはこの賞が与えられるタイミングで近藤真彦さんや亀梨和也さんといったジャニーズ事務所所属歌手が久々に登場したこと、意地悪な見方をすれば特別音楽文化賞がない限り登場しなかったのではないかということです。たとえば一昨年目覚ましい活躍をみせ、同年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)にも初出演を果たしたKing & Princeは、デビュー曲「シンデレラガール」(2018)が同年のビルボードジャパン年間ソングスチャート12位に入りながらも、最優秀新人賞受賞どころか新人賞にノミネートすらされていません(チャートはこちら)。ジャニーズ事務所日本レコード大賞辞退については様々な憶測が飛んでいますが、客観的なチャートデータひとつだけでもやはり不自然だと断言するに十分です。

日本レコード大賞においては特定の歌手やレコード会社、芸能事務所とのつながりの強さ/弱さという話がよく聞こえてくるのですが、もしかしたら一部の方が日本レコード大賞と距離を置くことを防ぐべく予防線を張ったその結果が特別賞や特別音楽文化賞という厚遇ではないでしょうか。そしてそれらを受賞した歌手は最悪VTR出演で好いとしても、優秀作品賞受賞者には全組出てもらいたい…その姿勢がみえてくるかのようです。そう考えると【賞の悪い意味での差別化】という姿勢も見えてきます。元来ノミネートに選ぶことも、ボイコットしたところで受賞に至らせるのも何ら問題ないはずであり、毅然とした態度を日本レコード大賞側は示すべきではないでしょうか。

 

【ノミネート作品の対象期間の非明確化】【TBS色の強さ】【賞の賞の悪い意味での差別化】の他にも【アルバム部門の軽視】【新人賞と優秀作品賞の同時ノミネート不可】等の問題点はありますが、いずれにも共通するのは保身と責任回避。対象期間を曖昧にすることで突っ込まれても言い逃れが可能となります。また近年回復傾向にある視聴率(2010年代は半数以上で15%台を超えています)を踏まえればTBSが日本レコード大賞を他局に渡したくないコンテンツと考えているだろうとも予想出来、そのために様々な仕掛けを用意したくなるのは自然ですが、しかしながら賞はそのような都合、保身とは切り離して考えられないといけないはず。ボイコットを避けてパフォーマンス出来る歌手を増やせば視聴率につながると考えどの賞を与えるかでフレキシブルに対応しているならばそれは客観化出来ていないことの証であり、大問題なのです。

 

かなり厳しい論調となりましたが、言い続けなければならないことだと考えます。個人的には先に取り上げた自身のツイートにあるように、日本版グラミー賞の創設は必要だと思うのです。しかしながらそれが非現実的であるならば、日本の音楽賞で最大級である日本レコード大賞が変わらないといけないはずです。