ミュージックビデオの途中で音声が”生の声”になることがあります。今月公開された2つの作品に施されたその演出が、とりわけ強く印象に残るのです。
11月11日にリリースされる三浦大知さんのシングルCD表題曲「Antelope」。曲名はアメリカはアリゾナ州にあるアンテロープ・キャニオンを指し、曲のテーマである”重なり合う愛”をアンテロープ・キャニオンの美しい地層に例えています。
オープニングから声が幾重にも重なり合う曲でありながら、曲の終わりには三浦大知さんの生の歌声が登場するのが印象的。無論独唱であり、これが曲全体のハーモニーをより際立たせるのみならず、真っ直ぐな思いを伝えるのに十分な役割を果たしていると言えるでしょう。
JUJU「奏 (かなで)」からも真っ直ぐな、そして溢れる思いが伝わってきます。
男性歌手の楽曲括りによるカバー集『俺のRequest』からの先行シングルで、スキマスイッチによる離れゆく愛の歌。長回しによる映像もJUJUさんの思いをより浮き上がらせているように思うのですが、大サビ後に登場する生の歌声はまさに絶唱…動画のコメント欄を読み、自分と同じ思いを受け取った方が沢山いることを実感した次第です。
ミュージックビデオにおける生の声の挿入は以前からもありましたが、仮にミュージックビデオがフルバージョンでYouTube等にアップされたとしてもオリジナル音源とはっきりと区別させ、YouTubeで満足してもらうのではなくオリジナル音源を手に入れてもらおうという意味での差別化という目的が当時はあったのかもしれません。時として、オリジナル音源の心地よさ等を邪魔していると言っても過言ではないレベルの演出も当時はあったものと捉えています。
しかしそれは過去の話と言えるのではないでしょうか。「Antelope」も「奏 (かなで)」も、オリジナル音源とは異なる生の声を挿入することで歌手の思いがよりダイレクトに伝わり、曲の持つ意味や説得力が増幅されるため、オリジナル音源もミュージックビデオのバージョンも両方好きになっていくものと考えます。そして最終的にオリジナル音源を所有していただき且つミュージックビデオにも触れ続けてもらえるならばそれがチャートアクションの最大化を招き、また収益上昇にもつながるのです。
ちなみに、この演出手法を用いた素晴らしい例として星野源「アイデア」を挙げたいと思います。CD未リリースながらLiSA「炎」でも行われた一斉解禁を行い、2週連続でビルボードジャパンソングスチャートを制しています。