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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

藤井風が口ずさんだデボラ・コックス「Nobody's Supposed To Be Here」について

先月NHK総合で放送された『tiny desk concerts JAPAN』が、本家NPR Musicの公式YouTubeチャンネルにて昨日公開されました。

公開から11時間で既に21万の再生回数を記録し、NPR Musicがこの1ヶ月にアップした動画では現時点で3番目に高い記録となっています。日本版が好評となれば『tiny desk concerts JAPAN』への注目度は高まり、本家YouTubeチャンネルでも公開される流れが増えていくことでしょう。

 

さて、その藤井風さんがInstagramライブ配信にてこの曲を披露したと知りました。

デボラ・コックス「Nobody's Supposed To Be Here」は1998年にリリースされた2枚目のアルバム『One Wish』のリード曲。この曲は純粋に好い曲であるのみならず、様々な面において印象深い作品なのです。

 

 

ひとつは音楽チャートの側面にて。デボラ・コックスはアリスタ・レコードから華々しくデビューを飾るものの(この”華々しく”については後述します)、ファーストアルバム『Deborah Cox』(1995)からは米ビルボードソングチャートでのトップ10ヒットが生まれませんでした。そのデボラにとって最大のヒットになったのがこの「Nobody's Supposed To Be Here」であり、首位到達はならずも8週連続で2位を記録します。

最高位に初めて達した1998年12月5日付米ビルボードソングチャート(→こちら)ではR. ケリー(R・ケリーと表記するメディアも) & セリーヌ・ディオン「I'm Your Angel」が初登場で首位に。その後ブランディ「Have You Ever?」に首位が移っても2位をキープしていた「Nobody's Supposed To Be Here」は、ブリトニー・スピアーズ「...Baby One More Time」が1位に到達した際に減退するものの、キャリア最高のヒットとなったのです。

(ちなみに1998年12月5日付にて、米ビルボードはフィジカル未リリースのシングルもランクインさせるべく、チャートポリシーを変更しています。アルバム販売促進のために敢えてフィジカル化しないシングルが増え、ラジオで上位に入りながらソングチャートにランクインしない傾向が高まったゆえの措置となります。その集計方法変更という大事なタイミングの前後に「Nobody's Supposed To Be Here」は居たことになるのです。)

 

もうひとつは、デボラ・コックスのキャリアにおける重要な作品として。「Nobody's Supposed To Be Here」はチャートヒットであることも当然大きいのですが、元々彼女は”第2のホイットニー・ヒューストン”として売り込まれ、セルフタイトルのデビューアルバムは当時のR&Bヒットメーカーがこぞって参加。しかしデビューアルバムからのシングルは最もヒットした「Who Do U Love」で17位という結果に終わります。

業界の重鎮クライヴ・デイヴィスが手塩に掛け育て上げたデボラ・コックス嬢の2枚目。次のホイットニー・ヒューストンを狙うクライヴとそれに従う彼女による前作は、歌唱力と裏腹の窮屈感がどうしても付きまとっていた。だが本作ではそんな欠点を彼女の尺に合わせた曲により払拭。

R&B HIP HOP DISC GUIDE P117 デボラ・コックス『One Wish』より

その『One Wish』からのリード曲が「Nobody's Supposed To Be Here」。プロデューサーを手掛けたシェップ・クロフォードは、後にドゥルー・ヒルのシスコによる美しいバラード「Incomplete」を米ソングチャート首位の座へと送り込むことに。なおこの曲には「Nobody's Supposed To Be Here」共々、R&B歌手のモンテル・ジョーダンがソングライターとして参加しています。

そしてデボラ・コックスは、自身が形容されてきたホイットニー・ヒューストンと共演を果たします。ホイットニーのベストアルバム『Whitney: The Greatest Hits』(2000)収録の新曲「Same Script, Different Cast」はデボラの参加に加えてシェップ・クロフォードがプロデュース、モンテル・ジョーダンが(シェイ・ジョーンズ共々)ソングライターに起用。この座組は「Nobody's Supposed To Be Here」のヒットゆえといえるのです。

2000年代に入り俳優業に進出したデボラ・コックスは、ホイットニー・ヒューストンが出演し大ヒットした『ボディガード』のミュージカル版に出演。またアンジェラ・バセットによる伝記映画『Whitney』(2015)にて、ホイットニー・ヒューストンの歌唱パートを担当します。その流れもあってか、デボラはホイットニーのカバー集となる『I Will Always Love You』を2017年にリリースしているのです。

 

 

このような背景もあり、デボラ・コックスに、そして「Nobody's Supposed To Be Here」に注目をしていた自分にとって、藤井風さんがInstagramライブにてこの曲を披露し、多くのファンにこの曲が認知されことを嬉しく感じた次第です。藤井風さんが次のオリジナルアルバムをリリースする際には、フィジカルに同梱するだろうカバー集にて藤井さん版の「Nobody's Supposed To Be Here」を収録してほしいと切に願います。