毎月【私的トップ10ソングス+α】なる企画を行い、1ヶ月間にリリースされた作品の中で特に好きなものを洋楽邦楽問わず取り上げています。今月も良作が多く選出や順位付けで既に迷っているのですが、そんな今月はいつも以上に良質なリミックスが多くリリースされている気がします。
3月末にリリースされたデュア・リパ『Future Nostalgia』は1980年代感をブラッシュアップした(いや、時にはそのいなたさをそのまま表現した)セカンドアルバムで、本国イギリスで初の1位、アメリカで4位をマークしたほか、先行曲の「Don't Start Now」は米ビルボードソングスチャートで自己最高の2位に達し、「Break My Heart」は最新8月22日付米チャートで13位まで上昇しています。そんな中、デュア・リパはアルバム収録曲「Levitating」のリミックス版を今月リリース。しかもあのマドンナそしてミッシー・エリオットを客演に迎えています。
「Levitating」のリミックスバージョンは、8月28日にリリースされるリミックスアルバム『Club Future Nostalgia: The Remix Album』からの先行曲で、他にも「Physical」ではマーク・ロンソンがリミックスを手掛け、しかもグウェン・ステファニーが参加というのですから面白いことになりそうです。
チャートアクション的には「Break My Heart」のリミックスを出すことでオリジナルバージョンとリミックスのポイントを合算させ、米ビルボードソングスチャートでトップ10入りを狙うのがベストではと思いつつ、マドンナとミッシー・エリオットを招いたというトピックはリミックスアルバムの存在を示すには最適。両者は以前も1980年代感溢れるコラボレーションを果たしており、これがデュア・リパが招くに至った要因でしょう。
なお今回の『Club Future Nostalgia: The Remix Album』をデュア・リパと共に手掛けたのはDJでプロデューサーのザ・ブレスド・マドンナ(The Blessed Madonna)。マドンナつながりです。
オリジナルアルバムのリミックスといえばベックも。昨年リリースした『Hyperspace』の2020年版が先週リリースされています。
1月にリリースされていた「Uneventful Days」のセイント・ヴィンセントによるリミックスや、4曲の2020年バージョンが収録。一方で7月に配信を開始した「No Distraction」のリミックスはクルアンビンが担当。オリジナルバージョンが2017年のアルバム『Colors』に収められているためか今回の『Hyperspace』2020年版には含まれていませんが、こちらも素晴らしいので是非。
そして今月の私的ベスト級となっているのが、リアン・ラ・ハヴァス「Please Don't Make Me Cry」。先月リリースされたサードアルバムにしてセルフタイトル作に収録されていた曲で、オリジナルバージョンは先月の私的トップ10で7位に選出。
この曲をリミックスしたのがジョーダン・ラカイ。日本で人気のトム・ミッシュとの流れで紹介されることも多く、ジョーダンについては音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんもラジオ番組で勧めています。
全体を支配する浮遊感、サビに入った瞬間のコードの展開にセンスを感じます。「Please Don't Make Me Cry」のオリジナルバージョンを含むアルバム『Lianne La Havas』は批評家やユーザーレビューをまとめたサイト、Album of The Yearで高評価を得ていますので是非聴いてみてください。
海外ではリミックス版のリリースが多く、米ビルボードソングスチャートではオリジナルバージョンと合算されチャート浮上のきっかけとなることから戦略としても有効に作用しますが、たとえば自分が毎回チェックするSpotifyの新曲プレイリスト”New Music Friday”に今回の3曲がすべて登場しているのが興味深いところ。現段階で367万ものユーザーが支持しているこのプレイリストに載ることで、リミックス版が新曲の一形態として定番化していると言ってもいいでしょう。
日本でもこのリミックス文化が広まることを願うばかりです。下記ブログでも書きましたが、願う理由は【リミックスや客演文化の醸成】【海外作品の日本市場での流通拡大】【チャートの仕掛けや戦略の活性化】【新鋭歌手の認知度向上】【ヒップホップの人気拡大】【リミキサーの育成】【クラブカルチャーの復興】等、様々な効果が期待できるため。チャートポリシーの変更や音楽業界の意識変革を伴いますが、是非ともお願いしたいところです。