ビルボードジャパンソングスチャートを追っていくと、ドラマ主題歌はヒットに至りやすい傾向にあるということが見えてきます。シングルCDの売上枚数は下がれど、米津玄師「Lemon」(2018 ドラマ『アンナチュラル』(TBS)主題歌)がダウンロードとシングルCDの合計で300万を突破していることは象徴的な出来事です。
ビルボードジャパンが先日公開した”徹底分析”の資料にも興味深い内容が。
米津玄師「Lemon」、back number「HAPPY BIRTHDAY」、あいみょん「ハルノヒ」、Aimer「I beg you」、そしてmilet「inside you」は、いずれもドラマや映画とのタイアップ・ソングだ。これだけメディアが多様化した現代でも、地上波テレビや映画の影響力はやはり根強く、音楽の訴求に対する貢献度も非常に高いことが窺える。そして、その影響が特に色濃く反映されるのがダウンロードであり、“ダウンロード型”に括られるアーティストは、そのマス訴求力の高い楽曲を生みだせるポテンシャルが強みだと考えていいだろう。
ドラマを観た人が心を動かされ、その感動のままタイムラグなしにダウンロードで購入という流れは加速している気がします。もしかしたらその現象は、一昨日ブログで触れた山下智久「CHANGE」(ドラマ『インハンド』(TBS)主題歌)にも表れているのかもしれません。
さて、前クール(4~6月)のドラマで話題となった作品のひとつに『きのう何食べた?』(テレビ東京)があります。よしながふみ原作の漫画を実写化した本作、ネット局の少ないテレビ東京の深夜枠ゆえリアルタイムテレビ視聴者数は少なかったかもしれませんが、見逃し配信の再生回数で新記録を樹立したのみならず、ドラマ満足度で前クール1位を記録するほどの話題となりました。
さらにはドラマで流れる”劇伴”もプラスに作用したとの分析がなされています。
しかしながら、劇伴のひとつとも言っていいかもしれない、オープニングおよびエンディングテーマがヒットに至っていないのが気になるのです。オープニングのOAU「帰り道」、およびエンディングのフレンズ「iをyou」は共に6月26日にシングルCDとしてリリースされましたが、6月24~30日を集計期間とする7月8日付ビルボードジャパンソングスチャートでは共に100位以内へのランクインを逃しています。
「帰り道」はオープニングとリンクした自撮りのような画面、フレンズはドラマ同様料理を作って…と、間違いなく『きのう何食べた?』を意識したミュージックビデオが制作され、且つフルバージョンで公開。しかしながら複合指標に基づくチャートで100位に満たなかったのは、ドラマの話題性とあまりに乖離している気がしています。
実は両者とも、ビルボードジャパンの7月8日付シングルCDセールスチャートでは100位以内に初登場を果たしています。OAU「帰り道」は、映画『新聞記者』主題歌「Where have you gone」とのダブルAサイドシングルとして32位に、フレンズ「iをyou」は映画『今日も嫌がらせ弁当』主題歌「楽しもう」とのダブルAサイドシングルとして(ただし「楽しもう」が1曲目に配置された形で)68位。ゆえにシングルCDセールス以外の指標が強くなかったことが見て取れますが、このダブルAサイドシングルでの発売では、どちらか1曲にしかシングルCDセールス指標が加算されません。今週ラジオエアプレイで8位を記録したフレンズ「iをyou」をみるとシングルCDセールス未加算のため、ダブルAサイドの曲順を変えていたならば総合ソングスチャートでも入る可能性が高まったのでは?と、その曲順を疑問視した次第。
ただ、ビルボードジャパンの7月8日付ダウンロードソングスチャートをみるとフレンズ「iをyou」は100位以内に登場せず、先のCHART insightをみると300位以内にも登場していないのが気掛かりです。一方、OAU「帰り道」は96→63位に上昇。この2曲、いずれも同じ4月19日金曜に先行配信されています。
ダウンロード配信開始日を含む4月29日付ダウンロードソングスチャートでは「帰り道」は71位に入ったものの「iをyou」は100位以内には入らず。ドラマ放送日に合わせて解禁を金曜に設定したのかもしれませんが、それでは初週の集計期間が3日となり不利に。それでも初週100位以内に入った「帰り道」は、以降最新7月8日付までの11週中延べ9週間ダウンロードチャート100位以内に登場しており、先述した”ドラマを観た人が心を動かされ、その感動のままタイムラグなしにダウンロードで購入”という流れは発生しているものと思うのですが、その流れは弱いのではという印象があります。
オープニング、エンディングテーマ共に、先行配信からシングルCDセールス開始まで2ヶ月強と間が空きすぎたため、先行配信の熱が冷めたものと捉えています。またミュージックビデオは「帰り道」が4月26日、「iをyou」は5月11日の公開であり、たとえば「帰り道」が5月に入って間もなくシングルCDを出していたならば…と思わざるを得ません。先行配信という形は定番化しているとはいえ、後に音源をシングルCDとして発売するのならば、間を空けすぎずリズミカルに出すことが重要だと思うのです。それは米津玄師「Lemon」という最高の例を見てきたゆえ、「帰り道」等に限らずマーケティング不足の曲の動向を見るたびに勿体無いと思ってしまいます。
(ちなみに「Lemon」はシングルCDリリースの17日後にCDレンタルを解禁。つまり4段階での解禁(発売)を実施したことになります。)
もしくはシングルCDにおけるダブルAサイドのもう一方の曲(「帰り道」「iをyou」は共に映画主題歌)に合わせて、シングルCDリリースのタイミングでダウンロードもストリーミングもまとめて解禁したほうが効果的だったのではとも考えます。先の山下智久「CHANGE」はドラマ最終回放送週にシングルCDリリースとダウンロードがスタートしていましたし、同時解禁の例では星野源「アイデア」という最良のチャートアクション事例があります。
(結局この翌日、昨年8月20日月曜はダウンロード配信と共にミュージックビデオを公開。これにより「アイデア」はビルボードジャパンソングスチャートで2連覇を達成しました。)
映画がどれだけ話題になるかは蓋を開けないと分からなかったかもしれませんが、他方『きのう何食べた?』は昨年ドラマ化が噂された段階で既にSNSを中心に話題を集めており、放送局や時間帯に関係なく話題性が高いだろうことはある程度予想出来たと思うのです。またネット局が少なく且つ深夜枠での放送ならば見逃し配信の再生回数の多さも見込めたはず。ならばコストはかかれどシングルCDを映画主題歌とは切り離して販売したり(そうすれば同時解禁や段階的ながらリズミカルな解禁がしやすくなります)、見逃し配信の再生の合間に挿入されるCMにシングルCDの宣伝を挟んだりすることは出来たのではないかと思うのです。そういった点も含め、今回「帰り道」と「iをyou」のマーケティング力は弱かったのではないか…と残念に思っています。