イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

テイラー・スウィフト、「Delicate」がアルバムからの最大のヒットになる?

毎週米ビルボードソングスチャート速報を追いかけていると、トップ10ヒットになる曲には主に4つのチャートアクションがみられます。

① 初登場で高位置に登場し、そのまま勢いをキープする

② 初登場で高位置に付けながらすぐ下降するも再度上昇する

③ 初登場で高位置に付けながらすぐ下降し上昇することはない

④ 初登場は低位置ながら徐々に上昇する

チャート構成3指標のうち、ストリーミングおよびデジタルダウンロードというデジタル2指標が瞬発力高い一方、ラジオエアプレイは徐々に伸びるタイプであるゆえ、デジタル2指標の勢いを保ちつつ徐々にラジオエアプレイにシフトしていくという理想形が出来るかが鍵ではないでしょうか。あれだけ話題となったチャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」が早々にトップ10落ちしたのは、曲の社会派な側面がラジオ受けしなかったこともあるでしょうが、瞬発力に特化しすぎたゆえのランクダウンの速さではないかと考えています。その中にあって、今年リリースのドレイクやポスト・マローンの1位獲得曲は①に該当しており(ポスト・マローン feat. タイ・ダラー・サイン「Psycho」は②の側面も)、ヒップホップでは異例の強さを誇っています。

 

さて、最新7月14日付の米ビルボードソングスチャートについては速報の通り、ドレイクが100位以内に27曲も送り込んできました。

客演参加の2曲を除き、アルバム『Scorpion』から25曲全てが57位までにエントリー。となると、57位までにランクインしているドレイク以外の曲(客演参加曲も含め)が、実際その全てにおいてランクダウンの憂き目に遭うわけですが、その中で健闘しているのがテイラー・スウィフト「Delicate」。3ランクダウンの23位につけているこの曲、特にラジオエアプレイで力をつけており同日付ラジオエアプレイチャートでは前週から2ランクアップし2位となっています。

この曲について、米ビルボードがチャートアクションに着目した記事をアップしたのが先週のこと。

自分は彼女の今回のアルバム『Reputation』(2017)および収録曲のチャートアクションが、初動こそガツンと結果を残しつつもトータルでは芳しくないと考えていました(弊ブログで"テイラー・スウィフト"と検索すれば過去のブログエントリーが出てきます)。ファンからは一部非難の声もありましたが、しかし冷静客観的にデータをみると、「Delicate」以前のいわば攻めの楽曲群のチャートアクションが芳しくないのは一目瞭然。「Look What You Made Me Do」は2週目にソングスチャートを制しながらトップ10在籍はわずか8週、「…Ready For It?」は初登場4位につけるも翌週には21位に急落しトップ10入りはわずか1週、エド・シーランとフィーチャーをフューチャーした「End Game」は最高18位、トップ40内には通算でわずか6週の在籍という結果に。前作『1989』では「Shake It Off」をはじめシングルが軒並み大ヒットとなっていただけに、今回の落差は気がかりでした。

で、先の「Delicate」がラジオエアプレイを伸ばしていると書きましたが、ラジオエアプレイでの成績だけをみると(こちらに彼女の楽曲のラジオエアプレイチャートにおける最高位が掲載)、「Look What You Made Me Do」は5位、「...Ready For It?」は17位、そして「End Game」は15位という状況なのです。「Look…」においてはピークを迎えた次の週に20位へと急落しており『トップ5からの下降幅においてはラジオエアプレイのチャート(ラジオソングスチャート)が始まった1990年以降最大』(米ソングスチャート、「Rockstar」が盤石の体制へ(2017年10月24日付)より)となってしまいました。初登場もしくはデジタル2指標が丸1週間カウント対象となった週のソングスチャートでピークを迎えながらラジオエアプレイが芳しくないため下降に至るというのは、先述したチャートアクションにおける③の状態といえます。

では「Delicate」はどうでしょう。3月24日付で84位に初登場し、5月26日付でトップ40入り。赤丸が時折消えながらも再点灯し、現在の最高は20位。ポスト・マローンや今回のドレイクのようにアルバム収録全曲が100位以内にランクインする現在のチャートにおいてはその大波を受け順位が思うようには前進しないものの、登場17週目にして23位というのはこれまで見られませんでした(先にシングル化された曲で17週目の順位をみてみると「Look What You Made Me Do」は70位、「...Ready For It?」は61位となっています)。ゆえに「Delicate」のチャートアクションは④ということになります。しかも未だピークを迎えていないこと、次週ドレイクの作品群がほぼ全てランクダウンするだろうことを踏まえれば(それゆえ次週はカーディ・B等の「I Like It」が首位奪取と予想しているのですが)、次週の楽曲における最高位更新はおろか、トップ10を狙える位置にまで来るかもしれません。

尤も、この「Delicate」においては、相次ぐ公式リミックスの発表や今回のアルバムに伴うツアーの成功もまた、ヒットを後押ししていると言えます。

Delicate

Delicate

  • provided courtesy of iTunes
Delicate

Delicate

  • provided courtesy of iTunes

また、ミュージックビデオの別バージョン(スマートフォン仕様)もまたヒットに一役買っているのではないでしょうか。

とはいえこれら施策を悪いと言っているのではありません。リミックスの投入等は曲をよりヒットさせるべく他の歌手も採用している手法であり、加えてiTunes Storeでの69セント安価販売という方法を採ってデジタルダウンロードを急伸させ、ソングスチャートを制するというパターンも散見されます(これらの施策はビルボード速報にてお伝えしています)。そしてなにより、ラジオエアプレイでヒットするということは、リミックス版もOAされている(その合算である)とはいえ、純粋に曲が良いからこそラジオ局が好んでかけるわけです。ちなみに「Delicate」が他にも特徴的なのは、最新のストリーミングチャートにて50位以内にランクインしていないという点。先行の3曲がランクインした一方で対象的なチャートアクションですが、これもまたデジタルに特化し過ぎていない動きと言えるでしょう。

 

もしかしたら、「Delicate」がよりヒットすることで、彼女の攻めの姿勢(およびそこから生まれる楽曲群)が徐々に変化するかもしれません。まずはどこまでチャートを駆け上がっていくか、注目しましょう。