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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

BTS、米アルバムチャートを制しながらもソングスチャートが強くない理由を探る

BTSが今年、『Love Yourself 轉 ‘Tear’』(以下『…Tear』)『Love Yourself 結 ‘Answer’』(以下『…Answer』)と2作立て続けに米ビルボードアルバムチャートを制し、K-Popとして初の快挙を達成したのはご存知の方も多いことでしょう。

しかし、この2枚のアルバムのリード曲として、ミュージックビデオが制作された2曲の、米ビルボードソングスチャートにおける動きはトップ20在籍がそれぞれ1週のみ、とりわけ『Love Yourself 結 ‘Answer’』に収録され、ニッキー・ミナージュをフィーチャーした「Idol」がわずか3週でトップ100からも陥落というのは、正直いって驚きました。

BTS「Fake Love」(アルバム『Love Yourself 轉 ‘Tear’』収録)

 10位(6月8日付)→51→48→71→65→76位(7月7日付)→圏外

BTS feat. ニッキー・ミナージュ「Idol」

 (アルバム『Love Yourself 結 ‘Answer’』収録)

 11位(9月8日付)→81→92位(9月22日付)→圏外

尤もBTSは先月下旬、アメリカのテレビ番組『ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン』(NBC)および『グッド・モーニング・アメリカ』(ABC)に立て続けに出演し「Idol」を披露したのですが、トップ100内に再登場することはありませんでした。

それゆえBTS人気と言われている状況に対し、ソングスチャートとの乖離に違和感を覚える自分がいます。尤もこの見方は、たとえばこういう記事に登場するような言いがかりとははっきり異なります。

 

さて、今年のBTSの米ビルボードにおけるチャートアクションを整理しましょう。『…Answer』は9月8日付米ビルボードアルバムチャートで首位を獲得しています。下記bmrに詳しく掲載されています。

1年以内に2度のアルバムチャート首位獲得はワン・ダイレクション以来という快挙。しかし翌週は8位へ後退。

このランクダウンがソングスチャートにおける「Idol」の、9月8日付ソングスチャート11位→翌週81位というアクションに少なからず影響しているものと思われます。しかしながら、それにしても落ち込み度が高いのではないでしょうか。

他方、前作『…Tear』も6月2日付アルバムチャートで首位を獲得。

そして収録曲「Fake Love」が同日付ソングスチャートで10位に初登場を決めています。

しかし翌6月9日付アルバムチャートでは『…Tear』が6位に後退。アルバムの初動ユニット数は135000で、そのうち純粋なセールス(CDおよびデジタルダウンロード)が100000、ストリーミングのアルバム換算分が26000、単曲ダウンロードのアルバム換算分が9000。2週目は米ビルボードの記事において内訳の記載がないもののユニット数は46000となり前週比66%もの大幅ダウンとなります。

そして「Fake Love」は6月9日付ソングスチャートで51位に後退。しかし「Idol」ほどの落ち込みではありません。以降は48位(赤丸付)→71位→65位(赤丸付)→76位となり、7月14日付ではドレイクの大量エントリーもあって100位圏外へ。わずか6週のエントリーとなってしまいました。デジタルダウンロードでは初登場時に首位を獲得、またストリーミング指標では初登場時の7位が最高となっています。

一方『…Answer』は先述の通り1→8位。初動ユニット数は『…Tear』より5万多い185000で、純粋なセールスは141000、ストリーミングのアルバム換算分は25000、単曲ダウンロードのアルバム換算分は19000。セールスで4万強、単曲ダウンロードで1万増加した形です(なお、アルバム/ソングスチャートにおいて、7月13日付よりストリーミングの算出方法が変わっています)。単曲ダウンロードにおいてはCD未収録の、ニッキー・ミナージュをフィーチャーしたバージョンの「Idol」目当てで買った方が多かったことが予想出来ますが、その「Idol」は11→81→92位で、登場週以降は赤丸なし。BTSのみよりニッキー・ミナージュを迎えたバージョンがより再生されているゆえ客演有バージョンがクレジットされていますが、BTSのみのバージョンも加えた2バージョンでの結果ゆえ、今回トップ10を逃したこと、そしてこの急降下がいずれも予想外というのが個人的な見方です。

 

その「Idol」は総合ソングスチャートで11位を記録した9月8日付において、デジタルダウンロード首位、ストリーミング11位という同曲での最高位を樹立していますが、ストリーミングはその時点がピークとなっているんですよね。それどころか、ストリーミングソングスチャートでは翌週において、トップ50からも陥落してしまうのです。つまりはデジタル2指標における超が付くほどの瞬発力と、まったくもって持続性のない(と言っても過言ではない)チャートアクションが、BTSがロングヒットに至れない理由といえます。

それが証拠に。

「FAKE LOVE」は他のTOP10ソングとは決定的に異なる点があり、それはラジオで流された回数であるエアプレイポイント(ラジオ局リスナー100万人あたり1000DL換算)がないこと。ストリーミング やDL数に比べ、ラジオでかかった回数が極端に少ないのだ。

強固なファンドムを獲得しているBTS - Real Sound|リアルサウンド(6月6日付)より

これは「Idol」にも当てはまることで、デジタルダウンロードやストリーミングとは異なり、BTSはラジオエアプレイのトップ50に未だにランクインしたことがないのです。上記リアルサウンドの記事では、

通常TOP10にランクインするような曲は、ほとんどがRADIO SONGSトップ50にチャートインしており、今回のトップ10もBTS以外は全曲このチャートにランクインしている。BTSはその「一般的なヒット曲」に必須のラジオプレイポイントがないのだ。

とありますがここには若干の違和感が。以前、自分が考える米ヒット曲の4つのパターンをテイラー・スウィフト、「Delicate」がアルバムからの最大のヒットになる?(7月11日付)の冒頭で示しました。デジタル2指標(デジタルダウンロード・ストリーミング)が抜きん出ている場合は解禁直後、ランクイン初週にずば抜けたチャートアクションを示します。ただしラジオエアプレイに長けていればロングヒットする傾向があるゆえ、そのラジオエアプレイが追いつかないと一度ランクダウンするか(しかしながら数週後に再び上昇に転じます)、ラジオエアプレイが弱いままとそのまま失速する傾向にあるのです。「DNA」や「Idol」以外、様々な歌手の様々な楽曲にも失速の傾向はよく見られますが、そのラジオエアプレイにとりわけ課題を残しているのがBTSだと言えるでしょう。BTSの米ビルボード各チャートにおける最高位の記録は下記に掲載されていますので是非確認していただきたいのですが、ラジオエアプレイで50位以内に入っていれば、”Digital Songs Sales”の上に”Radio Songs”が登場するのですが、一度も入っていないゆえにその項目が出てきません。

個人的には、このラジオエアプレイの弱さはイコール、アメリカでのライト(なファン)層へのプロモーションの強く無さとリンクしているように感じます。「Idol」のアメリカにおけるテレビパフォーマンスは『…Answer』発売から1ヶ月以上経過しています。もしこれがアルバムリリースと同じタイミングでなら、火の付き方はもう少し高まっていたりそれがラジオエアプレイまで波及したのでは…と思ったのですが、ここにはどうやら”カムバ”ことカムバックと呼ばれるK-Popマーケティング手法が背景にあるのかもしれません。10月18日放送の『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ 月-金曜18時)のK-Pop特集で”カムバ”という言葉が出てきていた(リンク先経由、ラジオクラウドにて音声を確認可能です)のですが、より解りやすい解説がありましたので勝手ながらリンクを貼らせていただきます(問題があれば削除いたします)。

K-POPアイドルはアルバムをリリースすると、「ショーケース」と呼ばれる新曲発表コンサートを皮切りに、韓国で放送されている音楽番組に一斉に出演します。

そして、約1か月ほどの間、精力的にプロモーションを行うと、ふたたびつぎのアルバムの制作期間に入る。制作期間中は年末の特別番組を除いて音楽番組への出演がなくなります。

そのため、本格的なテレビ露出のはじまるアルバムリリースのことを「カムバック」と呼ぶようです。

【K-POP入門】 「カムバック」って何のこと? - それは夜明けの色(2017年10月15日付)より

アルバムリリース直後(直前のトレーラー公開も含む)、およそ1ヶ月間は海外でのプロモーションが厳しいかもしれず、BTSも例外ではなかったのかもしれませんが、この”カムバ”を韓国市場ではなく世界規模に拡大させ、海外で母国とタイムラグのない、より効果的なプロモーションが出来れば、海外メディア出演時の効果はより高まり、(チャートイン初週の爆発的な動きを支えているコアなファンのみならず)ライト層にも届き、デジタル2指標の2週目以降の動きも失速せず、またラジオエアプレイも上昇するのではないかと考えています。となると、”カムバ”をどうやってグローバルに進化させるかが次のK-Popの課題かもしれません。

(先に紹介したブログによれば韓国にはシングルCDという形態がないとのこと。それゆえもしかしたら、アルバムから先行曲を切る(たとえばドレイクのアルバム『Scorpion』における「God's Plan」)という概念もないのかもしれません。アメリカでは、(近年では何の前触れもなくいきなりアルバムを出すことも出てきましたが)アルバムからいくつかの先行曲を出すマーケティングが基本であり、そのやり方をK-Popも踏襲すればアメリカでの認知度等はもう少し上がるかもしれません。尤もそのシングル→アルバムというやり方は日本のフォーマットが得意とするところであり、日本の音楽業界がグローバルな視野を持って臨めば、米チャートへのランクインも難しくないのではないかと思うのですが。)

 

BTSのソングスチャートの強くなさは、現行の”カムバ”施策に伴う海外プロモーションのタイムラグにあり、それがコアなファンとライト層の乖離(熱や認知度等)を生んでいると考えます。コアなファンがリリース初週に購入した結果、アルバムチャート首位を制覇出来たわけで、それは純粋に素晴らしいこと。またたとえば『…Tear』においては、同じく『アフター6ジャンクション』6月12日放送回において、bmr編集長の丸屋九兵衛氏がその内容を賞賛しておりクオリティもお墨付き。それゆえ尚の事、ソングスチャートでロングヒットに至れていないことで彼らの魅力が伝わりきれていないのが、実に勿体無いと思うのです。

弊ブログではソングスチャートアクションにおける、ミュージックビデオ公開タイミングやiTunes Store安価販売等、巧妙なマーケティングに因るチャート上昇について触れています。BTSをはじめとするK-Pop界がこれらマーケティングも学んでいけば、楽曲そのもののレベルの高さと相俟ってより高みに到達する可能性が高いと思うのです。楽曲のクオリティが急激に上昇しグローバル仕様になった(ことは今月放送の『アフター6ジャンクション』で触れられていますが、その)歴史を踏まえれば、高いマーケティングの習得も早々に出来る気がします。”カムバ”の進化とマーケティングの取り入れで、BTSが次の作品でソングスチャートでより高みに到達し、ロングヒットに至ることを強く願っています。