イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本は定額制音楽配信サービスの”黒船”が来港出来ないままの”鎖国”である

昨日掲載したグラミー賞についてのエントリーで紹介した、ビヨンセによる「Take My Hand, Precious Lord」がビヨンセの”公式”動画としてYouTubeに掲載。グラミー賞側が動画を提供したのだとしたら、なんて素晴らしいことでしょう。

 

 

 

グラミー賞開催時、私自身は仕事やその移動のため、radikoプレミアムを活用しInterFMの特番を聴いてました。その番組の協力(提供、とでも言うべきでしょうか。”Supported by"とアナウンス)がソニーの定額制音楽配信サービス”Music Unlimited”。実はこのサービス、前月に終了するとアナウンスされたばかりなのです。

「Music Unlimited」サービス終了のお知らせ |ソニー (2015年1月29日付)

終了が決定しているサービスが番組協力というのはどうなんだろう…と思いましたが、InterFMのグラミー賞特番は毎年恒例であり今回も早い段階で特別番組が決まっていたため、”特別番組の協力にMusic Unlimitedが名乗り出る→サービス終了が決定→協力体制はそのままで、でもCMにおいて終了のアナウンス”という流れだったのでしょう。2月で新規会員の受付を停止し3月に終了するとCMで謳われていましたが、サービス期間があと僅かなのにもかかわらず受賞曲がMusic Unlimitedに入っている度に”聴くことが出来ます”とDJ陣が伝えるのはなんだか空虚さが滲み出ていました(無論そのアナウンスは既加入者向けのものであろうけれども)。

 

 

サービスの終了は、次のサービスの開始でもあります。”黒船”と呼ばれていたSpotify(スポティファイ)と組んだ新サービスが始まります。

・ ソニー、Music Unlimitedを終了し、日本ではまだ使えないSpotify提携の新サービスへ - ITmedia ニュース

新サービス、”PlayStation Music”についてはプレスリリース(PDF)をご参照ください。

 

しかしながら、記事のタイトルでも察しがつくとは思うのですが、この新サービス、日本で生まれた”プレステ”の名前を冠しながらもその日本が対象外なのです。なんという皮肉。というか、”黒船”と呼ばれたSpotify自身、来港出来ないままでした。

Spotifyは欧米を中心に約60カ国でサービスを展開しており、2014年には米国に次いで世界で2番目に市場規模が大きい日本にも進出するとみられていたが、いまだ実現していない。

ソニー、Music Unlimitedを終了し、日本ではまだ使えないSpotify提携の新サービスへ - ITmedia ニュースより

有料と無料との両サービスを備えるSpotifyについては、便利ではあるものの逆風もあり、特に無料サービスに対して異を唱え、”音楽は無料であるべきではない”として曲を撤退させたテイラー・スウィフトの例も見られますが、有料会員(月間のアクティブユーザー)だけでも1000万人を越えています。またSpotifyをはじめとする定額制音楽配信サービスのストリーミング再生数が昨年夏からシングルチャートにアメリカでは今年度からアルバムチャートに反映されており(アメリカではシングルチャートに既に反映済)、定額制音楽配信サービスは音楽の一大勢力であることは間違いない事実。にもかかわらず、Spotifyはサービス開始出来ないままの、また公式チャートが存在すらしない(とこのブログで記載。リンクは下記に掲載)日本は、”鎖国”の度合いを強めていると言わざるを得ません。

 

いや、黒船が来港出来なくともMusic Unlimitedなどのサービスはあるだろうという声は出てくるかもしれませんが、東京のラジオ局J-WAVEのIT関連会社、J-WAVE iの代表取締役である小向国靖氏がSpotify以外のサービスに触れてみたその感想が非常に興味深いのです。

一方キャリア系以外のサービスは全体的に厳しい状況だ。

理由は簡単。みんなが聴きたい曲が網羅されていないのだ。

 

洋楽はかなりの割合で網羅されているが、問題は邦楽。

日本のビッグアーティストの楽曲はかなりの割合で存在しない。

男性アイドル系も皆無。

 

(中略)

 

何故邦楽は充実していないのか?

レコード会社やアーティストから配信許諾が下りないからだ。

彼らが許諾しない理由はいくつもある。

 

・配信をするとCDの売れ行きに影響が出る恐れがある

・配信音楽は圧縮されており音質に不満がある

・他のアーティストとひとくくりにされたくない

・配信から上がる利益が低い

 

などが主な理由だろう。

音楽聞き放題サービスが流行らない訳: - iのBlog(2013年11月14日付)より

たとえばMusic Unlimited2014年 年間再生ランキングを見ても邦楽ははっきり言って惨憺たる状況。年間トップ10に2014年産の曲が皆無であり、新しい曲を聴きたいというニーズには全く応えられていないことはここから容易に想像出来ます。これが仮に小向氏の言うところの、レコード会社とアーティストの許諾不可が原因だとしたならば…厳しい物言いですが、彼らの保守的な理由(都合)が日本の音楽業界がユーザーアンフレンドリーに陥れていると言っても過言ではないでしょう。無論、配信売上の利益の低さ、ネット時代に則さない著作権法にがんじがらめになっているなど様々な問題はありますが、小向氏が挙げた理由が正しいならばそれらは全て”ネガティブな理由”であると言わざるを得ません。

 

以前、弊ブログエントリーのオリコンシングルチャートは公式チャートではないと断言する2つの理由において、『自身の利益確保を最優先とする姿勢が文化的側面に優先』と見受けられるオリコンを”身勝手である”と述べました(ゆえにオリコンは公式チャートではないし、公式チャートにはなれない、とも)。その”身勝手さ”はレコード会社やアーティストに対しても言い切れます。その身勝手さはユーザーアンフレンドリーを作り上げ、結果的にSpotifyは上陸出来ないまま、そしてソニー×Spotifyの新サービスは日本では始まらない…というのは、音楽の発信元が音楽業界全体を結果的に追い込んでいるという意味において、世界から笑いものにされてもおかしくありません。

(というか、そもそも世界で成功しているSpotifyに”黒船”と名付ける段階で、日本の音楽業界にとってSpotifyはネガティブな意味での違和感だったのかもしれませんね)

 

 

Spotifyと日本の音楽業界の現状については、この記事が非常に分かりやすいのですが。

黒船音楽配信サービス・Spotify上陸へ 音楽産業の鎖国解くか WEDGE Infinity

この記事が出たのが2013年6月のこと。小向氏のブログ記載日は同年11月。日本では長い間”鎖国”が守られてきたことになります。この状況は”身勝手さ”が続く限り変わらないでしょう。そうやって市場が衰退していき、仮に画期的な音楽サービスが登場しても”日本には旨味がないから無視して構わない”という風潮が出てきそうで。悪い予感しかしませんね。