イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

オリコンシングルチャートは公式チャートではないと断言する2つの理由

日本の音楽チャートの問題について書こうとした矢先に良記事が登場したので紹介します。

オリコン1位AKB、カラオケでは圏外 ヒット曲、ランキングで一変 - withnews(ウィズニュース)

Billboard JAPAN”などの複合チャートを紹介し、『今後は、どうやって新しいランキングを広めていくかが課題になる』という音楽プロデューサーの永田純氏の発言も。昨夜のYahoo!トップページの芸能ニュース最上段に掲載されたことで、少しでも複合チャートが知名度を上げていけるならいいな、と思った次第です。

 

さて、アメリカでは歴史と権威のあるビルボードチャートですが、シングルCDのセールスに加えてアメリカで数千局あるといわれるラジオ局のエアプレイをカウント、各指標の影響力を考慮してバランスを決めポイント計算しチャートが誕生します。バランスは時代に合わせて変化しますが、近年登場した新しい指標をも柔軟に反映しています。

17. 『ビルボード』がチャートをリニューアル

(省略) アメリカの大手音楽業界誌『ビルボード』が音楽業界の構造変化を受けて総合音楽チャートを大幅にリニューアル。12月13日付けのチャートからはスポティファイやグーグル・プレイなどのストリーミングサービスにおける再生回数やアルバム収録曲単体のデジタルセールスも反映されることになる。同誌いわく、「アルバムを一度しか聴かない人もいれば、1曲を100回聴く人もいる。今回の変更によって、そうした聴き方の違いも反映させられます」とのこと。AKB48と嵐とEXILEで埋め尽くされる日本のチャートにも、時代にマッチした変革を期待したい。

2014年の音楽シーンであった21のこと - Time Out Tokyo (タイムアウト東京)より

歴史と権威のあるチャートだからこそ、”時代の空気”、特にインターネットが市井にもたらした音楽の触れ方の改革に沿う形で改革を断行しているといっていいでしょう。そのビルボードチャートを比較対象として、”オリコンのシングルチャートこそ変わる必要がある”ということを記事の書き手は結びの言葉としています。その書き手の方に限らず、先述したwithnewsで言及されているように、実際にアイドルやアニメ関連で週間や年間チャートが占拠されている事態を憂慮して、オリコンへの”失望”が年を追うごとに増えているように感じられます。その矛先が、たとえば複数種販売はおかしいなどとして特にAKBグループを指して非難する声になっており、長年消えることはありません。

 

ですが、その指摘は必ずしも正しくはありません。レコード会社は(文化的側面の普及はあれど、前提として)音楽をビジネスとして扱い、その売上を確保出来ないと運営していくことができないのは自明のこと。より利益を上げるための施策として、無理強いは好くないもののより多く買っていただける方法に着手することはビジネスとして必要なことですし、売上を同じレコード会社に所属する他の歌手や新人発掘等へ回すことだって重要でしょう。これを行っていくならば、ユニークユーザー(複数購入した場合、買った枚数ではなく人数としてカウントしていくもの)の算出の方がリアリティが生まれますがこのカウントは現実的なものではないかもしれません。

 

複数種販売を是として書きましたが、私自身はあくまでビルボード方式、複数の指標を総合的に勘案したチャートを支持します。理由は明らか。昨年あれだけ社会現象を巻き起こした”アナ雪”の劇中歌、松たか子さんが歌う「レット・イット・ゴー~ありのままで~」がオリコンにはランクインしてないのです(Billboad JAPANでは年間7位)。というかこのことをwithnewsでも言及されていなかったのが不思議なのですが。

オリコン年間 CDシングルランキング 2014年度 | ORICON STYLE

Billboard JAPAN Music Awards 2014│Special│Billboard JAPAN

アナ雪サントラはオリコン年間2位にはランクインしているのですが、曲がシングルCDとしてリリースされていない以上、どんなにメディアで注目されても、配信で購入されようとオリコンCDシングルチャートにはランクインされません。

しかしながら、たとえばテレビの企画などが今後、過去のヒット曲を振り返ってみようとすると、必ずと言っていいほど指標として用いられるチャートがオリコンである以上、”2014年のチャートにレリゴーはなかった”ということになります。配信もYouTubeiTunesも(浸透してい)なかった十数年前ならともかく、数年前のオリコンチャートを用いるならば社会的ヒットとCDセールスとに乖離が生じ、視聴者が困惑するのではないでしょうか。

 

(ちなみにビルボードシングルチャートでは1999年度より、アルバム購入促進のためにレコード会社が非シングル化にしておくことが多かった傾向を踏まえ、ラジオエアプレイのみでもチャートにランクインさせる手法を採用しています)

 

”レリゴー”一曲だけでも明白なのに、それでもオリコンチャートが”日本の公式チャートとして”扱われる現状が問題でしょう。無論、日本においては売上要素が未だに配信やストリーミング等に比べ影響力が強いわけですが、それだけではヒットの要素を図ることが出来なくなったのは明白。CDバブル全盛の90年代前半など、CDがミリオン連発であったのに対しラジオエアプレイや有線放送リクエストなどの指標が(あったとしても)決して強いとはいえず、ゆえに売上が絶対の影響力を誇っていたからこそCDセールスのみの指標が社会の流行とまだ合致していたわけです。それに、

オリコンチャートが権威をもつようになったのは、オリコン創業者の小池聰行の尽力によるところが大きい。小池は多くの音楽メディアにオリコンチャートを掲載するよう依頼し、知名度を高めてきた

オリコンチャート - Wikipediaより

小池氏のメディアへの”営業の成果”が今に至っているということ。これをもって断言することは危険かもしれませんが、オリコンシングルチャートは決して”日本の公式チャートではない”のです。営業の成果、なのです。

(とはいえ、ここでは集計方法への疑問に言及しているのではありません。あくまでオリコンシングルチャートが”日本の公式チャート”と化していることを指摘しているまでです)

 

 

となると、今後の希望としては、オリコンが”公式チャートと化している(みなされている)”以上、オリコンが時代性を捉え複合チャート化していくことが望ましいのかもしれませんし、先述したTime Out Tokyoのコラムでも、また市井でもその声が強いといえます。

しかしながら、オリコンが時代性を反映するように複合チャート化することは現状においては残念ながら難しい、ということを記したいと思います。理由は2つ。

 

 

オリコンがセールスチャート常連組と親密な関係を築きすぎている

オリコンチャートが掲載されている雑誌、『オリ★スタ』バックナンバーをチェックすると、2014年度のチャートが掲載された49号分(2014年1月10日~12月26日発売分)のうち、37号分の表紙の写真が(一部であるものも含めて)消されています。これはジャニーズ事務所所属歌手を表紙に起用しているためです。他方、表紙が消されていない場合でもジャニーズ関係者の名前が、表紙担当歌手の名前より明らかに目立つ構成に(一例として→コチラ)。ビルボード掲載誌でも歌手が表紙になっていますが、ここまで偏っているのは見たことがありません。もはやチャートが巻末についただけのアイドル雑誌ですよね。

仮にオリコンが複合チャート化すれば、withnewsでのオリコンと(複合チャートの)Billboard JAPANとのチャート比較で顕著なように、ジャニーズ勢がチャート上位から減るため、オリコンとの親密な関係が薄れていくでしょう。そうなれば表紙への登場回数が減るため(事務所側が好んで所属歌手を起用させようとは思わないでしょう)、アイドル雑誌として購入していたファンが離れることで、『オリ★スタ』の部数減を招きかねません。オリコンの直接的な利益となる雑誌販売にとっては痛手であり、ゆえにオリコンシングルチャートの常連歌手を手放すことが出来ない…という構図を考えれば、オリコンの利益確保の面において複合チャート化が出来にくくなるということです。ちなみに似た考えが、テレビ情報週刊誌などにもおそらく浸透しているものと思われます。

 

それとは別に、バックナンバー等を見てあらためて実感したのですが、インターネット上でジャニーズ事務所所属歌手の写真掲載が出来ない現状において、海外から日本のチャートにアクセスすると雑誌の表紙やCDジャケットが見られないというのは恥ずかしいことと言っていいでしょう。日本では違和感を覚えながらも”ジャニーズだから…”という理由で通って納得してしまっていますが、その事情を知らない方からすれば異様な状況だといえます。仮に”インターネットと肖像権”問題だとするなら、事務所側が法改正などに意見を出してみるほうが健全だと思うのです。

それにインターネットと事務所との非整合性は、たとえば配信やYouTubeへの動画投稿を大本が否定することであり、配信やストリーミングをチャートの指標として複合チャートに組み入れると事務所所属の歌手が余計にチャート上位から消える…ゆえに上記のサイクルが生じて複合チャート化出来ない…(インターネット掲載時に加工されてもやむなしとして)掲載する…という悪循環に。良曲などが広く市井に、そして世界に浸透する可能性を自ら逸するのは機械損失だと思うのですが。

 

 

②現状においてチャートのおかしな動きに対し言及していない

一昨年の話ですが、EXILEのシングル「EXILE PRIDE ~こんな世界を愛するため~」が発売の3ヶ月後に”再浮上”するという事態が発生しています。

実はこれは4月に発売したCDなのだ。7月になってからまた15万枚以上を売り、オリコン2位に再浮上している。先週、このシングルは順位を178位まで下げていたのだ。それが今週になって異常なまでの勢いでV字回復を果たしたということになる。

 なぜこんなことが起きたか。もともとこのシングルは4月の時点で「EXILEとしては初週売り上げ歴代1位」といわれて話題だった。しかしその記録も、実はファンクラブで販売されたドーム公演のツアーチケットに、抱き合わせ商品としてCDが付属していたせいなのだ。つまりこうだ。ファンクラブ会員がチケットを買い求めると、CDの引き換え券がついてくる。その引き換え券を特定の店で提示すると、CDがもらえる。この手法のおかげで、EXILEは4月に54万枚もの初週売り上げを記録したのだった。

 では7月に再び売れたのはなぜかというと、このドームツアーに追加公演が決定し、チケットがまた売られたのである。そのチケットに付属したCDの引き替え期間が7月からなのだ。というわけで、事情を知らないといきなり4月発売のシングルが急浮上したように見える珍事が起こったわけだ。

EXILEの4月発売シングルがなぜかチャート急浮上! その驚くべきカラクリとは? - Real Sound|リアルサウンド

この販売手法がメディア、特に情報番組で紹介されたという記憶がありません(あくまで自分が見聞きした範囲で、ですが)。そしてオリコン自体がこの販売手法にどう言及しているのか、(言及していないのではないかということも含めて)謎のままです。

他方、ビルボードでは販売手法に問題が発生すると短期間で改善につなげた例があります。レディー・ガガのアルバム『Born This Way』が米Amazonで99セントの激安販売を行いセールスを伸ばしたことを考慮してか、チャートに激安販売分はカウントさせないようになりました(bmrの記事より)。ビルボード側は必ずしもレディー・ガガの一件がきっかけではないとしていますが、激安販売が今後も起こりうるであろうとして事前にルールを改正、浸透させたとしたならば、時代性をきちんと反映しているといえます。他方、オリコンはこの件をどう考えているのでしょうか。

 

 

オリコンが”公式チャート”であるならば、時代性を考慮して複合チャートとするか、もしくはチャートの隙をついてくる動きを止める(もしくは未然に防ぐ)などを実行することは自然というか、”公式”としては当然の責務だと考えます。しかしながら、特に①での仮説が正しいならば、オリコン自身の利益確保を最優先とする姿勢が文化的側面に優先されるため、公式と名乗るには偏り過ぎているというか、身勝手過ぎるといっていいでしょう(その身勝手さを指摘されないがために、複数種販売などを認めてユニークユーザー調査などに踏み込もうとしないかもしれません)。先程は、レコード会社が音楽をビジネスとして捉えると書きましたが、音楽という文化を扱う以上は文化的側面を考慮しないといけないはず。しかしながら、目先の利益だけにとらわれ過ぎるあまりに先を見ようとしなくなっているのはレコード会社もオリコンも同じであり、それはあまりにも不健全です。

 

 

結論として、オリコンは現状においては複合チャート化出来ないでしょう。そしてその状態のままでいるオリコンシングルチャートを、公式チャートと呼んではいけないと考えています。ただし、セールスのカウント方法が正しいのならばあくまでオリコンは音楽チャートの”一指標”という位置付けにとどめ、Billboard JAPANチャートとオリコンの両者を”公式的なもの”とすることを薦めます。それはメディアでの取り上げのみならず、音楽を愛する人全てがそう捉えていく必要があるでしょう。