来年開催される、第60回グラミー賞のノミネーションが日本時間の昨夜発表されました。
主要4部門は下記の通り。
●最優秀レコード賞
・「Redbone」チャイルディッシュ・ガンビーノ
・「Despacito」ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキー feat. ジャスティン・ビーバー
・「The Story Of O.J.」ジェイ・Z
・「HUMBLE.」ケンドリック・ラマー
・「24K Magic」ブルーノ・マーズ
●最優秀アルバム賞
・『Awaken, My Love!』チャイルディッシュ・ガンビーノ
・『4:44』ジェイ・Z
・『DAMN.』ケンドリック・ラマー
・『Melodrama』ロード
・『24K Magic』ブルーノ・マーズ
●最優秀楽曲賞(賞の対象者はソングライターとなるため歌唱者を()内に掲載)
・「Despacito」(ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキー feat. ジャスティン・ビーバー)
・「4:44」(ジェイ・Z)
・「Issues」(ジュリア・マイケルズ)
・「1-800-273-8255」(ロジック feat. アレッシア・カーラ&カリード)
・「That's What I Like」(ブルーノ・マーズ)
●最優秀新人賞
・アレッシア・カーラ
・カリード
・リル・ウージー・ヴァート
・ジュリア・マイケルズ
・SZA(シザ)
米ビルボードチャートが社会の鑑であることを証明するかの如く、ヒップホップが主要部門において最優秀新人賞以外は複数ノミネートされています。とりわけケンドリック・ラマーは、3枚目のオリジナルアルバムにして3度目の最優秀アルバム賞ノミネートを果たしており、三度目の正直なるかが注目されます。
さて、ケンドリック・ラマーの前作『To Pimp A Butterfly』が最優秀アルバム賞を逃した第58回(2016)のグラミー賞において、同賞を受賞したのがテイラー・スウィフト『1989』でした。彼女の受賞直後の行動に素直に感動したのは自分だけではないはずです。
ただ、今回のアルバム『Reputation』(アルバムは11月リリースゆえ第61回グラミー賞の対象作品となります)における一連の行動を踏まえれば、受賞直後の行動すら計算では?と思う自分がいます。
そのテイラー・スウィフト、実はデビューから『Reputation』に至る全てのオリジナルアルバムにおいて、2年連続で主要部門にノミネートさせるための施策を採っています。それが【オリジナルアルバムは10月以降に、先行シングルは9月以前に発売する】というもの。グラミー賞の対象作品は賞開催の前々年の10月から前年9月までであり、先行シングルが大ヒットして最優秀レコード賞および最優秀楽曲賞にノミネート、そして翌年最優秀アルバム賞等にノミネートさせるというのがそのやり方。実際、『Red』(2012)では先行シングル「We Are Never Ever Getting Back Together」が第55回(2013)の最優秀レコード賞、アルバムが第56回(2014)の最優秀アルバム賞にノミネート。『1989』(2014)では先行シングル「Shake It Off」が第57回(2015)の最優秀レコード賞・最優秀楽曲賞、アルバムが第58回(2016)の最優秀アルバム賞にノミネートされており、先述したように『1989』は見事最優秀アルバム賞を受賞しています(また第58回では「Blank Space」が最優秀レコード賞・最優秀楽曲賞にノミネート)。【対象期間を挟んで発売する】という方法が見事にハマっているのですが、無論これは質の高さゆえだと考えます。
では、『Reputation』からの先行シングルで、今回第60回の対象作品である「Look What You Made Me Do」(8月24日リリース)はどうかというと...主要部門はおろか、ポップカテゴリーにもノミネートされていません。テイラー自身はリトル・ビッグ・タウンに提供した「Better Man」で最優秀カントリー楽曲賞、およびゼインとの「I Don't Wanna Live Forever」で最優秀ビジュアルメディア向け楽曲賞(意訳。原題は”Best Song Written For Visual Media”)にノミネートされたのみなのです。「Look...」がウケなかったということもさることながら、次回『Reputation』がノミネートされるかも微妙になってきたと考えていいでしょう。
こういう話になると、”今作のテイラーは攻めている、グラミー賞は保守的だから攻めの楽曲を見ようとしない”という批判も出てくるかもしれません。しかし最近のグラミー賞は、『1989』受賞時のブログエントリー(上記にリンク先掲載)でも書いたように保守云々ではなくチャート上でヒットしたものに送られる傾向があり(ただしヒップホップは未だ冷遇と考えていましたが、昨年チャンス・ザ・ラッパーが最優秀新人賞を受賞したことで風向きは変わった気がします)、必ずしも保守とは言えないはずです。”ならば「Look What You Made Me Do」は3週1位を獲得した”という反論に対しては、最新12月9日付米ビルボードソングスチャートにおいて同曲が、登場14週目で前週の31位から44位へと、早くもトップ40圏外に後退したことを提示したいと思います。『Reputation』は未だストリーミングNGゆえソングスチャートで不利になっている側面があるにせよ、単曲ではストリーミングOKでありもっと踏ん張れたはずで、つまり楽曲そのものに勢いがないゆえの失速と言っていいでしょう。最新ソングスチャートにおいては「Gorgeous」(前週89位)および「Call It What You Want」(前週73位)がトップ100圏外となり、変わってエド・シーランとフューチャーをフィーチャーした「End Game」が86位に初登場しましたが、「End Game」「Look...」および「...Ready For It?」(18→24位)の3曲のみ、そしてトップ10はおろか20位以内にも入っていないのは寂しすぎます。アルバムが大ヒットしているだけに尚の事です。
(ちなみに『Reputation』は最新チャートで256,000ユニットを獲得し2週連続の首位をキープしました(Taylor Swift's 'Reputation' No. 1 on Billboard 200 Chart for Second Week | Billboard(11月26日付)より)。しかし『1989』は『2週目にして40万枚を突破』しているのです(『』は累計4週目のNo.1!テイラー・スウィフトがアルバム共に連続で2冠を達成。11月22日付 Billboard HOT 100 | Daily News | Billboard JAPAN(2014年11月14日付)に掲載)。後者記事における数値は単曲ダウンロード分および単曲のストリーミング分をアルバムに換算したものを足したユニット数と思われるため、『Reputation』の2週目における成績は『1989』の6割程度でしかないことが判ります。この点において、アルバムが大ヒットしていると言えどもこれまでのような勢いがないことが証明されているように思います。)
と、今回のグラミー賞ノミネーションを(これまで弊ブログで追いかけている)テイラー・スウィフトの”施策”を軸に書きました。近いうちに、テイラー・スウィフトの動向と切り離し、グラミー賞についてじっくり腰を据えて分析したいと思います。