無論買収はあってはならないことですが、この問題が最初に報じられて以降何ら進展がない(ようにみえる)のは結局、メディアや市井が真摯に追及するつもりがないのでは?と思うのです。報じた媒体が今年の新語流行語大賞に複数ノミネートされている等、一目置かれる存在になったことで掲載内容の真偽にかかわらず"この媒体が報じていれば間違いない"というお墨付きが与えられたゆえに皆が盲目的になった...という構図を想像するのは穿った見方でしょうか。とはいえ、以前も書きましたが、音楽ジャーナリスト等が日本の音楽の未来を憂うのならばきちんと追及し、日本レコード大賞から膿を抜くように努めればいいと思うものの、そういうのをやらないでグレーをグレーのままにしておくというのは悪い意味での日本らしさの表れと思うのですが、如何でしょう。
さて、今年の日本レコード大賞のノミネートが発表となりましたが、仮に先述した買収報道が影響しているのならば、良い方向にシフトしたのではないかというのが自分の見方です。
優秀作品賞は下記に。
「あなたの好きなところ」西野カナ
「女は抱かれて鮎になる」坂本冬美
「最&高」きゃりーぱみゅぱみゅ
「涙のない世界」AAA
「BELIEVE」西内まりや
「みれん心」氷川きよし
「ラストシーン」いきものがかり
これまでの日本レコード大賞らしい傾向(人選)もみられつつ、注目は「花束を君に」と「海の声」。これらはシングルCDとして発売されていない作品なのです。また、「365日の紙飛行機」は「唇にBe My Baby」のカップリングとして発表され、ダブルAサイド(両A面)シングル扱いではありませんでした。カップリング曲のノミネートは以前もあったかもしれませんが(リリース後に世間の評判を受けてレコードのA面とB面を入れ替え再リリースし、ノミネートに至ったケースも)、配信先行で後にアルバムとして初CD化された曲のノミネートはこれまでなかったような気がするのです。
ちなみに、配信先行...のケースで思い出したのは、一昨年のサウンドトラック『アナと雪の女王』に収録された松たか子「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」。社会現象化しながらもシングルCD化していないため、オリコンシングルチャートにはランクインせず、ゆえに日本レコード大賞優秀作品賞の選に漏れたのかと。ただ同曲に関しては別の理由で漏れた、とも報じられており(「アナ雪」主題歌は大賞候補ならず…原則論で選考から“除外” ― スポニチ Sponichi Annex 芸能(2014年11月20日付)より)、同曲を含むサウンドトラックには『特設された特別映画音楽賞が贈られ』ています(『』内は記事より)。
たしかに日本レコード大賞独自の原則論ゆえに「レット・イット・ゴー...」は外さざるを得なかったのかもしれませんが、もしかしたらそのあたりから、"社会に影響を与えている曲とCDセールス、特にシングルCDの売上との乖離が大きいのではないか"、"配信のみの楽曲もきちんと取り上げたらどうか"という、賞の原則を疑う議論があったのではないかと勝手ながら想像します。2016年になって、ノミネートされた配信のみの2曲の他にも「PERFECT HUMAN」「PPAP」、Perfume「FLASH」やRADWIMPS「前前前世」といった配信のみヒット曲(オリコンには載らずビルボードジャパンには反映される)が量産される時代となり、それらを柔軟に反映させていった結果としての今年のノミネーションではなかったかと。そういう意味においては、選出者の柔軟性、賞を良くしようという気概が反映されているように思うのです。つまりは、自ずと膿を出そうとしていていないか?と。無論、それで先述した問題が解決したとは言えませんが、風通しは良くなるのではと考えています。
ちなみに、買収問題の渦中とされる三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEについて、問題があったからノミネートから外れたという論調の記事が各所で出ていますが、そもそも彼らは今年、シングルでは今月になって「Welcome to TOKYO」をリリースしたのみ。春にリリースされたアルバム『THE JSB LEGACY』から先行配信された「Feel So Alive」がアルバム並に大ヒットしたとは思えず、ゆえにノミネートに漏れたのは致し方ないのではないかと。問題があったから選外という論調は、冷静に発売状況を把握していないだけだと強く思いますので、まずは書き手のグレーな感情こそ冷静に対処していただきたいものです。