イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

国会中継より災害報道優先という選択肢はなかったか

NHK国会中継は絶対的な義務、なのでしょうか。 

一昨日の午前9時より、NHK総合国会中継が午前と午後に渡って放送されました。国会中継自体が必要なこと、審議されている内容の重要性は重々承知しております。がしかし、平成28年熊本地震の被災状況の報道を取りやめてまで中継を行う必要があったのか、そしてそもそも論としてこの日に国会を行わなければならなかったのか。疑問を抱かずにはいられません。

 

 

実は国会中継に関して、高齢の視聴者からも疑問が出ていました。先日、地元放送局の役員の方々にお会いする機会があり、そこで視聴者の意見や質問に対して答えられていたのですが、視聴者側として出席していた高齢の男性が、"NHK国会中継の視聴率は?"と問いかけました。低い数字であるとの回答を受けたその男性は続けて、"なぜ他の番組を潰してまで国会中継をするのか?"と問い質したのです。若年層より政治に関心があるとされる高齢者からまさかこのような質問が出るとは思わず、驚きました。その方は、マルチ編成(NHKによる解説はこちら)にしてメインチャンネルかサブチャンネルで国会中継と通常放送の同時放送を行えばよいのでは?とも提案していたのですが、局側からの回答は【中継は義務、サブチャンネル化はNO】ということでした。

 

さて今回、国会中継の件について調べるうちに、先述した高齢の男声の方と似た疑問を抱いていた方がNHKに対して問い合わせた内容をアップしていました。およそ1年前の出来事です。

『マルチチャンネル化で画質にバラツキが出ると「与野党/議員/議題/その他諸々…で差をつけている!」というクレームが出る。実際そういう問題が事前に出たので、国会中継は<特段の事情がない限り>サブチャンネル化されないと思って戴きたい』というNHK側の回答には驚かされました。党による贔屓等を訴える方がいるのか...と。マルチ編成での画質の低下は技術的に仕方ないはずですが。

 

 

ここで思ったのは、もしかしたら今回このエントリーをすることで、"お前は現政権が嫌いなのか"とか"野党を贔屓しているから国会中継はやめろと言ってるんだろう?"という声が出てくるかも、ということですが、自分は仮に政権交代与野党が逆転しても同じようにこの疑問を抱きます。逆に、たとえば現政権や与党を強く支持する方が政権交代で野党に転落した場合、現野党嫌いゆえ国会中継をやめろと言い出したならば問題で、それは政治に関心があるのではなく政党に興味があるということではないかと(特定の党を叩く人が非常に多く見受けられ、それは健全ではないというのが私見です)。そのような考えの方が国会中継は義務だとするのは説得力に欠けると考えます。

 

 

それにしても、今回の平成28年熊本地震は、先述したTogetterにおける【特段の事情】ではないかと思うのですが...その感覚は間違ってるのでしょうか。この日の国会の答弁で、個人的に疑問をいだいたのは下記の点。

安倍晋三首相は18日の衆院環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)特別委員会で、熊本地震を受けて来年4月に予定している消費税率10%への引き上げの先送りを求められ「リーマン・ショック級、大震災級の事態にならない限り予定通り引き上げていくという基本的な考え方に変わりはない」と述べ、従来の答弁を繰り返した。

熊本地震 安倍首相、消費税10%「予定通り」 (産経新聞) - Yahoo!ニュース(4月18日付)より

首相に”大震災級”の定義を問いただしたいと強く思いました。平成28年熊本地震震源地が広範囲におよび、地震発生回数も内陸や沿岸部を震源とする地震では国会開会日の前日の段階で過去最多となった(地震発生回数 中越超える 震度1以上478回 ― スポニチ Sponichi Annex 社会(4月18日付)より)、にもかかわらず首相は大震災ではないと発言。他方、首相は同日、激甚災害指定の方向でいくとも発言しており(熊本地震、首相「激甚災害指定の方向で間違いない」答弁:朝日新聞デジタル(4月18日付)より)、大震災は激甚災害に含まれるのか含まれないのか、首相の考えが見えてこないのです。

 

 

ひとつ思ったのは、もしかしたらNHK側は災害報道を大事と考え、今回の地震についての報道を行うことを優先事項と考えていたのではないかということです。ところが、とりわけ現政権はここ最近メディアに、特にNHKに対して強硬な姿勢をとり続けているのは御存じの方も多いでしょう。

自分は国会中継開始後間もなく、今回の私見をいくつかツイートしました。そのうちのひとつが上記。メディアの”萎縮”姿勢は、政権側に誤りがあったとしても冷静客観に批判しようとせずあたかもおもねる態度であり、現政権とメディアの関係性を”懐柔”と呼ぶ人も少なくありません。この"萎縮"や”懐柔”について危惧するジャーナリスト等は多いですが、改善が見られないのが現状でしょう。そんな中でNHK側は、もし先述した仮説を持ち合わせていたならば、(提案というか)提言すべきではなかったかと思うのです。国会中継より地震の報道が優先です!と。それによって被害の状況をリアルタイムで伝えられたのみならず、たとえば避難施設の場所や不足物資の情報、エコノミークラス症候群を回避するための方法等、今まさに必要な情報を伝えることが出来たのではないかと思うのです。NHK側が政治家側に提言したかどうかは判りかねますが、そもそも提言していないとしたならば非常に悲しいことです。

 

 

政治の世界のみならず、例えば一昨日の国会中継に関するハッシュタグ( #kokkai )で辿ると現政権支持者からの野党非難もしくはその逆があまりに多く出てきてしまい、その非難合戦に辟易します。なぜ相手を嫌いという感情ありきなのか、質問する側が好い内容を言ってもなぜ素直に受け入れようとしないのか、そしてなぜ提言を非難としか受け止められないのか...野次がなくならないのもその感覚が根本にあるのかもしれませんが、そういう感覚が蔓延っているゆえ相手を蔑視する発言が多く、そしてその言葉は語気が強く荒々しいゆえ、圧力といっても過言ではない、いわば"凶器"になっているとすら考えます。政治家も、政治に強い関心を持つ方も、もう少し心を柔らかくもって他者と接していただけたなら、社会全体の空気感すら変わると思うのですが。その”凶器”たる空気感ゆえ、政治に関心がない人が増えどんどん距離を置くようになったり、メディア側も萎縮したり果ては”懐柔されるフリしたほうがまし”とすら思うかもしれません。

 

そんな現状においては提言は難しいでしょうが、それでもNHKサイドには提言をお願いしたいところです。画質が優れなくともマルチ編成は有効でしょうし、データ放送から過去の国会中継アーカイブにつながる技術も確立出来るのではないかと思うのです。提言には、いつ何時でも国会中継は義務だと仰るかもしれない政治家等の方々に対し納得し得る解決策、最善の解決策を必ず持ちあわせていただきたいところ。提言が柔らかい言葉であっても政治家、現政権側が受け入れてくれないのだとしたら問題ですが、それでも今まさに必要なのは災害について知らせることだと思うのです。報道することの意義をしっかりと自覚した上で、提言していただきたいと強く願います。