R&B界注目のミュージシャン、メイヤー・ホーソーンがプロデューサーのジェイク・ワンと組んだユニット、タキシードのセルフタイトル作が3月にリリース。そこからの先行シングル「Do It」が、ダフト・パンク「Get Lucky」やブルーノ・マーズ「Treasure」に次ぐディスコヒット間違いなし!と言われています。
どちらかといえば、ブルーノ一座がマイケルになりきる「Treasure」に近い音かもしれませんが。
でも、出だしに敷かれるピアノの音色や、浮かび上がるようなこもり気味の音像は、むしろブレイクボット(feat. Irfane)の「Baby I'm Yours」を想起させるかな、と。というか、「Treasure」もブレイクボットの影響が大きいのではと以前から思っていましたが。昨年から今年にかけてラジオ中心にヒットしているLes Sins(レ・シンズ。読まれた方から読み方を教えていただきました。ありがとうございます)による「Why (feat. Nate Salman)」は、ミュージックビデオでの印象的な色の用い方からしてまさしく。
2010年作の「Baby I'm Yours」がここ数年で世界的な潮流になりつつある…そう考えると、この曲をいち早く咀嚼したSaori@destiny「OFF THE WALL」(2011 アルバム『Domestic domain』収録)のセンスの良さはあらためて評価されていいと思うんですよね。しかもタイトルからしてマイケルと関連(アルバムタイトルと同一)しているわけで、その点においてはブルーノへの流れを敷いているとすら。
この良曲があるからこそ、Saori@destinyは活動休止してしまった事実に悲しさを覚え(Twitterでは活動休止以降全く更新されていない)、所属していた事務所への問題点も含めて記載したのですが。
・BreakbotとSaori@destiny、そして納得のできない引退のこと - face it(2012年11月8日付)
昨年秋、Saori@destinyは復活を遂げていました。【Saoriiiii】として。ブログにSaoriの音楽性をいち早く捉えていた知人よりコメントをいただきそれを知った次第。
2007年より、秋葉原の路上ライブで活動を開始。同年にインディーズデビュー。翌年に正式デビューを果たす。
初期こそアイドル曲のカバーなどを歌う地下アイドル路線だったものの、見事にクラブシーン路線にチェンジ。
ライブでは2名のキーボーディストを従え圧巻のパフォーマンスを見せた。 コンスタントにアルバムをリリースするも、2012年4月1日のライブを以って、約5年間の活動に終止符を打った。
そして--
2014年9月15日。2年半の沈黙を破り、「ぐるぐる回る2014」への出演を果たし復活を遂げる。
復活したこと自体も嬉しいですが、復活後にリリースされた曲がクラブ要素を強く盛り込んでいることに安心しました。ちなみに【Saoriiiii】の情報は、Twitterでも発信されています。
・Saoriiiii Staff (@Saoriiiii_Staff) | Twitter
ただ、復活の件に関して、素直に喜べないというか、わだかまりが解消できない部分もあるわけです。
Saoriiiiiのステージを2年10ヶ月ぶりに見た。MC以外DJミックス形式で曲が続くステージ。名義も曲も編成も変わったけれど、SaoriiiiiはSaori@destinyの頃と全然変わらなくて、彼女が前に押し寄せたファンの手にタッチしていった瞬間、2年10ヶ月が巻き戻った。
— 宗像明将 (@munekata) 2015, 1月 18
勝手ながら引用させていただいたこのツイートは、Saoriiiii StaffのTwitterアカウントに公式リツイートされています。他方、スタッフのTwitterでは一度も、"Saori@destiny"の名義は出てきません。推測の範囲でしかないのですが、もしかしたら前事務所からSaori@destinyの名義、そしてSaori@destiny時代の曲を使用することは禁じられているということなのでしょう。復帰後のセットリストではたとえば「OFF THE WALL」の記載はなく、活動休止前の曲を生で聴くことが出来ない、というのは悲しい…というのが率直な意見です。
いや、【Saoriiiii】サイドが過去の音源を封印したと考えることも可能です。ですが、仮にそうだとして、ならばプロフィールなどに"活動に休止符を""復活を遂げる"なとという言葉は載せる必要ってあるのかなと。穿った見方だけど、昔からクラブ音楽を中心にやってきた実績があるのにそれをおもいっきり公言出来ないジレンマがあるからこそ、Saori@destiny時代があったことを匂わせる表現になるのでしょうね。
事務所の移籍ってそんなに問題なのでしょうか。所属タレントの契約違反なら別ですが、契約満了や上層部からの一方的な契約打ち切りという場合、移籍してもしばらく活動を制限されるということが大物歌手であれども散見されます。それはあたかも、"そもそも移籍すること自体が間違いである"かのよう。"旧事務所の圧力"があるのかは分かりかねますが、それにまるで屈するような形で"使用を控えるメディア"、そして仮に良好的な移籍だったとしても事務所移籍を否定的にしか捉えず、むしろトラブルの発生を嬉々として扱い(持ち上げ)、"「干された」等と平気で言う市井"の存在…それら三者の親密な結びつきがあるからこそ、音楽業界をはじめとする芸能界が旧態依然のままになっているのではないかと。おとなしくしているほうが得策であり生き残っていけるだろうことはどの業界でも言えることかもしれませんが、移籍前のスキルを活かせないという事実は、たとえば【Saoriiiii】に当てはめるならば、新曲や良曲が増えたとしてもファンから"しこり"が完全に消えるには至れないんじゃないかと思うのです。今は復帰した安堵感のほうが強いとして、そのうちその"しこり"が大きくなってくるかもしれず、心底もったいないなあと。
タキシードやブルーノ・マーズがさらに育んでいった「Baby I'm Yours」の潮流を、最初に作ったのは自分であると堂々と言えたなら、【Saoriiiii】への注目度はもっと増すんじゃないかと思います。いつか過去の音源を際限なく使える日が来ることを願っています。そして芸能界に蔓延る旧態依然の風潮が変わらないと、このようなトラブルはなくならないでしょうし、そんなトラブルで才能が消されることほど悲しいことはないと思います。