イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【Diggin'】10. Grammy 2013 - R&B Nominees

今週リリースされたCDの中から一作品を取り上げ、その音世界をちょっと広く、ちょっと深く掘り下げていく金曜日の特集、"Diggin' "。今週は、リリース作品ではなくアナウンスされた賞レースに関して、取り上げます。

特集は、【Grammy 2013 - R&B Nominees】です。

 

現地時間の12月6日に発表された、第55回グラミー賞のノミネーション(グラミー賞のホームページはコチラ)。全81部門中、最多6部門でフランク・オーシャン(Frank Ocean)、ファン(Fun.)、カニエ・ウエスト(Kanye West)&ジェイ・Z(Jay Z)、マムフォード&サンズ(Mumford & Sons)そしてザ・ブラック・キーズ(The Black Keys)の5組がノミネートされており、シネマトゥデイでは"大混戦!"と報じています

前回はアデル(Adele)が主要3部門を含む6部門、ノミネーション分全制覇という快挙を達成しましたが、果たして今回は…? そこで今回は、R&B的視点から今回の注目作品を選んでみます。

 

 

・Fun feat. Janelle Monáe「We Are Young」(Fun. アルバム『Some Nights』(2012)収録)

ファンは主要4部門("Record Of The Year" "Album Of The Year" "Song Of The Year" "Best New Artist")を含む6部門にノミネート(プロデューサーのジェフ・バスカー(Jeff Bhasker)も"Producer Of The Year, Non-Classical"にノミネート)。自分が担当させていただいているラジオ番組のディレクターや選曲担当の方もクイーンの再来みたいだと絶賛しています。米では人気ドラマ『glee』で用いられたことで全米チャートを制す大ヒットに。ちなみにデビューは2009年なので厳密には新人ではないのですが、デビュー作のリリースがカナダのレーベルからゆえ新人部門にノミネート。

 注目したいのはファンだけではありません。客演参加のジャネル・モネイ(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)も。女性でリーゼント、レトロフューチャー的衣装など見た目のインパクトも大きいですが、音は実に多様で格好良いんです。この曲では美しいヴォーカルで華を添えていますが、一昨年のアルバムからの先行曲「Tightrope」のPVは音でもパフォーマンスでも魅せます! 前回のグラミー賞ではブルーノ・マーズ(Bruno Mars)、B.o.Bと共にパフォーマンスしましたが、はたして2年連続のパフォーマンス(そしてジャネル・モネイの初受賞)なるか?

 そういえばこの曲の邦題が「伝説のヤングマン」だそうで…初耳。グラミーノミネートの報道で知ったんですが、なんでしょうこの脱力感。それと、ラジオでよく流れていながら、ジャネル・モネイを紹介しないことが多かったなあと。客演参加者の名義もきちんと紹介してもらいたいものです。

 

 

・Frank Ocean「Thinkin Bout You」(アルバムchannel ORANGE(2012)収録)

フランク・オーシャン(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)は主要3部門("Record Of The Year" "Album Of The Year" "Best New Artist")を含む6部門にノミネート。昨年頃から主流となりつつあるフリーダウンロードによるアルバムリリースにより複数のメディアで同年の年間アルバムトップ10以内にランクインし、今年『channel ORANGE』でメジャー・デビュー。とある告白も含めて話題となりますが(その際の指摘するメディアの対応に個人的にはどうなのか…と思いつつ)、アルバムの室の高さは彼の音楽家としての稀有な才能を、偏見なしに広く世に知らしめたのではないかと(早くも今年のベストアルバム候補だと推す声多数)。それにしても彼のファルセットの、揺らめきながらも心に刺すような感覚たるや…ため息モノです。ライヴパフォーマンスを観て、一度是非生で触れてみたいと強く思います。

 

 

・Miguel「Adorn」(アルバム『Kaleidoscope Dream』(2012)収録)

日本では消臭力のCMに出演するミゲルが知られていますが、こちらの(?)ミゲル(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)は"Song Of The Year"を含む5部門にノミネート。少し曇りというか湿気の多い音が適度に80'sを思わせるこの曲、先述したフランク・オーシャンに似た艶めかしさをまとっています。ダンスサウンドクロスオーヴァーした現行R&Bとは異なるものの、ミゲルやフランクの放つそれはより多くのジャンルをミックスさせた新しい形のクロスオーヴァーR&Bといえるでしょう。それにしてもPVでの"妖しさ"はいい意味で異常ですよね。

 

 

・Robert Glasper Experiment feat. Ledisi「Gonna Be Alright (F.T.B.)」(Robert Glasper Experiment アルバム『Black Radio』(2012)収録)

ロバート・グラスパー・エクスペリメント(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)はR&Bの2部門にノミネート。ピアニストでありながらジャズにとどまらずR&Bなどの要素を加えたクロスオーヴァータイプのジャズ。"Experiment"名義でリリースされたアルバムで、完全にR&Bスタイルを確立したと言えるかもしれません。アルバムでは様々なヴォーカリストを招いていますが、この曲でのレデシー(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)のヴォーカルはとにかく圧巻の一言。緩急つけたヴォーカルを自然に振る舞えるのは実力の成せる技でしょう。ライヴ映像はとりわけ迫力があります。

 

 

・Luke James「I Want You」(短尺ヴァージョンはフリーダウンロードアルバム『#Luke』(2011)収録)

ルーク・ジェイムス(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)は"Best R&B Performance"にノミネート。恥ずかしながら、今回のノミネートを機にはじめて彼の曲に触れましたが…このファルセットの凄味! 透き通るようで、それでいて力強さを兼ね備えたファルセットは80年代のシェリック(Sherrick)を思わせる…というのは大袈裟かもですが、でもそれだけの大器なのは、ビヨンセが復帰コンサートの前座に彼を起用した事実(bmr記事より)を踏まえれば、間違いないところ。アルバムは米datpiff.comでフリーダウンロード可能(コチラ)。ただし、「I Want You」が短尺ヴァージョンにて収められており、また要ログインなので注意が必要です。

 

 

・Gregory Porter「Real Good Hands」(アルバム『Be Good - Special Edition with Water EP & Remixes 』(2012)収録)

グレゴリー・ポーター(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)は"Best Traditional R&B Performance"にノミネート。実はbmrライターの末崎裕之氏が選ぶ"Jazz or R&B?"5選に、先述したロバート・グラスパー・エクスペリメントと共に選ばれ、その内容は折り紙付きと言えます。彼もまたジャズとR&Bクロスオーヴァーした世界観を持ち合わせます。魅力的なのは彼の声で、前作収録曲「Wisdom」において『Danny HathawayやTeddy Pendergrassジャズ・シンガーだったら、こんな歌を聴かせてくれたのでは』(musicReview.jp - REVIEWS - GREGORY PORTER: Waterより)という例えが非常にしっくりきます。

 

 

SWV「If Only You Knew」(アルバム『I Missed Us』(2012)収録)

SWV(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)は"Best Traditional R&B Performance"にノミネート。15年ぶり(!)となるアルバムはR&Bヴォーカルグループ全盛期の音を踏襲し懐かしさと新鮮さを併せ持った好作。そのアルバムの最後を飾るのが、R&B界の大ヴェテラン、パティ・ラベル(Patti LaBelle)御大の名曲のカヴァー。グループ活動を一旦停止した後、メインヴォーカルのココ(Coko)がゴスペルアルバムをリリースしたことなどが、彼女のヴォーカルに熱さや強さ、説得力をもたらしたであろう、御大を彷彿とさせる名唱(絶唱)となっています。ココの来日公演時の動画もアップされていますが、とにかく聴き入ります…圧倒されまくりです。

 

 

・Tamia「Beautiful Surprise」(アルバム『Beautiful Surprise』(2012)収録)

タミア(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)はR&Bの2部門にノミネート。軽快なミディアムアップのR&Bに懐かしさを覚えると共に、先述したSWV共々、90年代R&Bの音が再び戻ってくるのでは?とのワクワク感も抱いています。ちなみにタミアは前作『Between Friends』で復活した際、当初は南アフリカのみでのリリースだったのですが日本などで評判を呼び流通網が広がり今に至っています。そのアルバムの日本流通の立役者はこのブログだと断言してよいのかもしれません。今後も立て続けにアルバムをリリースすることを願ってます。

 

 

Anthony Hamilton「Pray For Me」(アルバム『Back To Love』(2011)収録)

アンソニー・ハミルトン(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)はR&Bの2部門にノミネート。アリシア・キーズの最新作にも参加したベイビーフェイス(Babyface)がプロデュースを担当。たしかに注意深く?聴くとベイビーフェイス特有のメロディやアレンジだなと解りますが、アレンジのベイビーフェイス色は以前ほど濃くはないかも。とにかく、アンソニー・ハミルトン独特の土臭い声がアンソニー色に染め上げています。それでいて、後半ではアンソニーの熱唱とベイビーフェイスの優しいコーラスが違和感なく混ざり合うという不思議。時に強く時に優しい様々な"己への祈り"の形が反映されているのかもしれません。

 

 

・Elle Varner「Refill」(アルバム『Perfectly Imperfect』(2012)収録)

エル・ヴァーナー(bmr.jpでのプロフィールはコチラ)は"Best R&B Song"にノミネート。声に独特の癖があり、それがAmazonのアルバム評で一部否定的な評価も見られるのですが、アリシア・キーズを発掘したチームが契約したわけで、たしかにアリシア的とも言えます。デビュー作で唯一の客演となるJ・コール(J Cole)との「Only Wanna Give It To You」は日本のラジオ局でも何度かかかっていることを確認していますし、遅ればせながら国内盤も出たので今後彼女の浸透度がより高まっていくのは間違いないでしょう。

 

 

・James Fortune & FIYA feat. Monica & Fred Hammond「Hold On」(James Fortune & FIYA アルバム『Identity』(2012)収録)

最後はゴスペルから。近年のゴスペル界を牽引するジェームス・フォーチュン(James Fortune)と彼のクワイアであるFIYAによる作品。同じくゴスペル界の若き重鎮、フレッド・ハモンド(Fred Hammond 彼の最新作ではかのフランク・マッコム(Frank McComb)を客演に迎えたりして、R&Bにも長けています)と共にモニカ(Monica)を召喚。ここまで穏やかに、まるで蝶のように舞う彼女の姿はみたことがないかも…というくらいに美しいんですよね。R&Bライクなゴスペル作品を作ったらきっと似合いそうです。ちなみにbmrの末崎氏がしっかりこの曲を取り上げています

 

 

 他にもR&B関連ではビヨンセ、アッシャー、メラニー・フィオナから"R師匠"ことR・ケリー、そして新譜が延期しまくりのアルバムからの先行曲でアニタ・ベイカーもノミネートされています。

それにしても、大御所から若手、さらにはフリーダウンロード作品のみのアーティストまできっちり拾い上げるグラミー賞の嗅覚は凄いなと実感しています。グラミー賞は保守的だと揶揄されることもあります(ベテランアーティストの作品が特に主要部門で選ばれる傾向は確かにありますね)。しかし売れ筋のみならず深いところまでも追求しているからこそベテランのみならずインディや次世代のアーティストも拾い上げているといえるかもしれません。現に、ノミネートされる曲は(当たり前かもしれませんが)ハズレは決してありません。これを機に、ノミネートされた曲を聴いてその良さに触れたり、今後来るアーティストを予想するのもいいかもしれませんね。

 

発表は現地時間で来年2月10日。まだ2ヶ月も先の事ではありますが、今から非常に楽しみです。