日本時間の先週火曜早朝に発表された8月3日付米ビルボードソングスチャートでは、リル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」が単独で歴代最長首位を獲得したことは、記録樹立日に紹介した通り。
今週もさらに記録を伸ばし、18週目の首位に立っています。
一方、日本では「Old Town Road」をあまり耳にすることがないと思っていたのですがそれもそのはず、ビルボードジャパンソングスチャートでは4月22日付以降17週連続で総合100位未満(300位以内)に滞在、一度も100位以内にも入ったことがないのです。
(「Old Town Road」のCHART insightより。ちなみに日本ではアメリカと異なり、リル・ナズ・X単独のオリジナルバージョンとビリー・レイ・サイラス客演参加のリミックスを分けて算出するため、以下に取り上げる「Old Town Road」はビリー・レイ・サイラス参加版に統一します。)
しかしながら、チャートを構成する各指標の動向をみると、この曲がどのタイミングで広がっているかが見えてきます。
チャートアクションに大きく寄与しているのはラジオエアプレイ。特に今週は20位に入り、これまでの最高位(5月20日付 58位)を大きく更新しました。
(CHART insightより、ラジオエアプレイのみを抽出。)
ラジオエアプレイは「Old Town Road」が総合300位以内に初登場(ビリー・レイ・サイラス客演参加版がリリース)された週から常に300位以内に在籍しており、ラジオエアプレイがチャート構成比の柱になっていることは間違いありません。現に今週も総合ポイントの半分強をこの指標のみで稼いでいます。ラジオというメディアの、ヒット曲を伝えるという姿勢(気概)を感じられると言っても過言ではないでしょう。
しかしながら今週はストリーミングがおよそ3割、ダウンロードも15%近くを占め、他指標も貢献する形に。
ストリーミングは2週目に一度300位以内に入り、4週目から8週連続で300位以内に登場。米チャートで長期政権に入った頃、一度は聴いてみようとする消費(接触)心理が見えてきます。しかし1ヶ月以上のブランクを経て再度チャートインしたのはおそらく、米チャートでの新記録樹立を知った方のアクションに因るものではないかと。そして、ここまで売れているならば所有しておきたいという心理が、今週ダウンロード初の300位以内ランクインの形で表れたように思います。
最新8月12日付ビルボードジャパンソングスチャートの集計期間中には、7月31日水曜放送の『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ 月-金曜18時)で音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんが「Old Town Road」のチャートアクションについて紹介したり、8月4日日曜放送の『J-WAVE TOKIO HOT 100』(J-WAVE 日曜13時)内コーナー、”SHU-KAN CHRISPAPER”でも最長記録達成を取り上げています。前者についてはみやーんさんの書き起こしも紹介しながら、今月始めにブログエントリーを記載しました。
またネットメディアや一部テレビでも最長記録更新のニュースが流れており、それら情報に触れて聴いた方が少なくないことが予想されます。結果的に各指標を伸ばしラジオエアプレイでは最高位を更新したのみならず、Twitter指標で300位以内に入ったことから口コミでの広がりも解ります。
ここにきてようやく認知度が高まってきた感のある「Old Town Road」ですが、とはいえ日本ではこの曲によって米ソングスチャートで首位の座を阻まれたテイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュ、エド・シーラン等が圧倒的に高い地位を獲得しています。リル・ナズ・Xの知名度の問題と言われればそれまでですが、ビリー・アイリッシュと同時期にブレイクしたならば同等の取り上げ方をされて好いはずで、おそらくはヒップホップとカントリーという日本で馴染みの薄いジャンルをベースにした作品ゆえのアクションかもしれません。ならば、このようなジャンルの曲を日本でヒットさせることこそ、レコード会社やメディアの課題ではないかと思うのです。
たとえば「Old Town Road」のオリジナルとビリー・レイ・サイラス客演参加版の双方が収録された初EP『7』は未CD化ゆえ、デジタル浸透度が海外より低いと思しき日本では馴染みにくいのかもしれません。以前つぶやいている方がいらしたのですが、たとえばオリジナルと各種リミックスとをまとめてコンパイルした作品を日本独自で出してみるのはいかがでしょう。このような例もありましたので尚の事。
もしくはリミックス1曲のみをレンタル店で貸し出す実験を行う…等、アプローチの仕方は様々あると思っています。コストはかかるでしょうが、議論の余地はあるはずです。