イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ラジオにおける、曲のベストな落としどころをまとめてみる

昨日は、現在のラジオ業界等での、曲の落としどころにおけるぞんざい過ぎる扱いについて指摘させていただきました。

この【曲の落としどころ】問題を解消することにより、曲に心地よい余韻が生じ、ひいてはリスナーの、番組や局に対する心象まで変わっていくかもしれません。つまりは、曲の扱いひとつでファンになるか離れていくか決まります。信頼は聴取者数の増加を招き、スポンサー獲得の武器となる…そう考えると、中長期的な戦略にも影響するのです。

いやいやそれは大袈裟だよと思われるかもしれませんが、自分が以前チェーン店の小売業界に在籍していた当時、これからの店舗はクリンネスも重要という当時の社の(いやこれは店舗数的に飽和となりつつあった業界全体の考えではありましたが、その)決定を伝えたところ、オーナーの中には"そんな抽象的なことで売上が上がるのか!"と無下にされたことがあります。無論伝え手であるこちらの実力不足は否めませんが、しかしクリンネスを徹底しない店舗は数年後、ことごとく閉店したのを強く覚えています。店舗の心象の悪化はすぐには数字(売上)として表れなくとも、長期的な意味でファン離れを起こすのです。ラジオ業界は潰れないという神話はもはや過去の話、ネットラジオradikoのサービス拡充に伴いライバル局を容易に聴くことが出来ますし、YouTubeや定額制音楽配信サービスによるストリーミングが台頭したことで、受け手からすれば音楽を聴く媒体にいくらでも代わりはあるのです。その際、ラジオにとって大事になるのは音楽にどう付加価値をつけるかではないかと。この店舗はいつ行っても気持ち良いという先例におけるクリンネスの徹底の如く、選曲の良さは勿論のこと、曲の余韻をより良くさせる技術により聴き心地十分と思わせてくれる…これはラジオだからこそ出来ることですし、またラジオ局同士においても良質な番組には、都道府県や県域/コミュニティの境目が無くなった分、その評判を聞いて区域外からリスナーが流入することだって十分にあり得るはずです。

 

 

では、どうすれば曲の落としどころがより心地よく聴こえていくか、星野源「恋」を例に、みていきましょう。

(動画では2番の箇所で告知が入りますが、曲自体が分断されているわけではないので用いさせていただきます。)

歌詞はこちらに。

曲の構成は、《イントロ→1番→サビ→間奏→2番→サビ→間奏→大サビ→サビ→アウトロ》となっています。どの段階でフェードアウトやトークの挿入を行えばいいかについて、6つのタイミングを取り上げてみます。

 

① 曲の終わり (「恋」においては4分07秒)

曲自体がフェードアウトしないタイプのものであれば最もオーソドックスというか、②以下がわずかながら技術を伴うものだと考えればこの方法は非常に無難といえます。

ちなみに曲終わりにそのままCMに入る場合、曲の尺を事前に計測し逆算して、イントロを流すタイミングを決めておけば、曲終わりから間髪を容れずCM入りしたときの爽快感たるや、リスナーもラジオスタッフも強く味わうことが出来ます。この爽快感は格好良さと言い換えることも可能です。

 

② 歌い終わり (3分31秒)

③ 大サビの後(大サビからそのままサビに入ることも有) (3分00秒)

④ 2番のサビ終了後(サビからそのまま大サビに入ることも有) (2分20秒)

番号が大きくなるにつれて、リスナーの満足度は下がるものと考えますが、個人的にベストなのは②ではないかと。歌い終わりでトークを挿れ、曲の終わりのタイミングに合わせて"お送りしたのは星野源「恋」でした。"と締めくくり曲とトークのタイミングを同時に終了出来れば、これもまたリスナー等に心地よい余韻を与えることが出来るでしょう。

③、④に関しては、大サビやサビ直後に間奏なしでメロディが来る場合もありますので、大縄跳びにどのタイミングで入るかの如く、タイミングの見極めが大事です。生放送で且つリクエストに応える番組であれば事前に曲をチェック出来ませんので、その場合は歌詞検索サイトで曲を事前にチェックし、どれがサビか大サビかを予想しておくことをお勧めします。

 

⑤ 2番サビ頭 (1分53秒)

出来れば2番まで流すべきだと個人的には考えていますが、どうしても尺の都合でという場合には最悪⑤が適切でしょう。もしくは、サビで同じメロディを二度繰り返す場合は2番サビ後半の頭で…というのもアリかもしれません(ちなみにこの方法は、『J-WAVE TOKIO HOT 100』(J-WAVE 日曜13時)でクリス・ペプラーさんが採っている手法です。クリスさん、ディレクターどちらのタイミングかは判りかねますが、そこまで違和感を抱くことはありません)。

 

⑥ 1番の前にサビがある(サビはじまりの)曲の場合は1番サビ終わり

たとえば先述した星野源さんならば「夢の外へ」が、他にも中島美嘉「ORION」などがサビはじまりの曲は多数あります。

この動画の場合は2分46秒となります。

⑤は1番まるごとと2番前半、⑥は1番まるごとと(その前の)サビというように、⑤、⑥とも1番と、その半分近くの尺をかけることが出来ます。尤も曲はもっと長くかけたほうがいいとは個人的には思うのですが。

 

 

そんなわけで、①から⑥まで提案してみました。最も簡単に出来るのが①であることはたしかですが、ラジオを好んで聴く方であれば②から⑥の方法で流しても心地よさを感じる番組や局を知っていると思います。ラジオをやりたいという方は好きな番組や局を活きた教科書にして、自分なりのスタイルを確立するのをお勧めしますし、少なくともradikoプレミアムやらじる★らじるなど、区域外の局をチェック出来るネット機能をフル活用してほしいんですよね。

 

 

さて、ここまでは【曲の落としどころ】のベストなタイミングを書いてきましたが、ベストがあればワーストもありますので、聴き心地の悪い曲の落としどころを列記してみます。

 

(1) 歌っている最中

上記③~⑥では、実際に歌っている最中にトークを挿入することになるので、そのタイミングできちんとトーク用のBGMレベルに落とすことが大事になります(ゆえに、DJのみならず、音のレベルを管理するミキサー、そしてタイミングを決めるディレクターとの連携が重要となります。ワンマンの場合は全てをひとりでこなすためその点ではあまり問題はないでしょう)。昨日のエントリー(上記にリンク有)で中島美嘉「桜色舞うころ」でのタイミング問題を取り上げましたが、サビの盛り上がりのタイミングにトークし始めることでリスナーの気持ちの高まりを壊すことだけは避けていただきたいものです。

 

(2) 1番のサビ終わり

曲によっては1分前後しかかけておらず、尺の3分の1も流れません。

 

(3) 1番の途中

厳しい物言いですが論外です。最近この手法が本当に目立っています。

 

 

(3)の実例を挙げるとすれば、たとえば番組中に喋り原稿を持たないラジオショッピングコーナーがある場合、そのショッピングキャスターが商品紹介時に熱を込めすぎるあまりに当初予定されていた尺を伸ばしてしまった(いや、そもそも締めの時間自体知らされていないのかもしれませんが)、その流れで曲をかけても1番途中でフェードアウト…ということがままあります。仮に百歩譲って1番終わりまで流せればOKだとして、それすら行けないのであれば無理に流す必要はないのではないでしょうか。曲は穴埋めとして流す道具ではありません。

また、今週ある番組で、アルバムをリリースしたばかりの三戸なつめさんの、番組への事前収録コメントが流れたのですが、デビュー曲の1番歌い出しが流れた直後にコメントが挿入されたことにも果てしない違和感を覚えました。せめて1番をフルで流してからというのは出来なかったのでしょうか。まるで、コメントが届いたから曲を流さざるを得ないとでも言うべき義務感を覚えます。

また、これは曲の落としどころとは異なりますが、この春とある10代歌手がリリースキャンペーンで来県し、1時間近くもの間某番組に付き添うという、青森県のラジオ番組では非常に贅沢な起用のされ方をしていたことがあったのですが、その方のプロフィール紹介において女性アシスタントが流れるのではなく"流れ過ぎる"口調で紹介しており、ファン以外の方にとってはどれが作品名でどれがフェスの名前なのか、聴いていて全く区別が付かなかったのです、その言い方にははっきり言って怒りすら覚えたほど。最低限事前に学習し、何が作品なのか等を、その詳細を知らなくてもいいので理解し、自身で咀嚼して話せなかったのか? せっかくキャンペーンで時間を割いてくださった歌手をより多くの県民に知っていただくべく動くことが出来なかったのか…と思うのです。個人的にこの日以外でも、この女性アシスタントの態度には我が我が…という、適当だったり投げやりだったりする姿勢が強く滲み出ていて聴く度に違和感を覚えるのですが、この時の応対はあまりにも酷かったと記憶しています。更には先述したプロフィール紹介の後、男性パーソナリティが"この説明で合ってますか?"と、まるでこの女性アシスタントの態度は何も問題なかったかの如く普通に質問したことにも驚きましたが、その歌手の控えめ過ぎる肯定(これこそ大人な対応だと実感しました)に、この歌手はもう二度と青森に来てくれることないのではないかという強い不安を抱いてしまったほど。少なくともその女性アシスタントにはラジオに関わっていただきたくはないものです。

 

 

少し話が逸れましたが、このような形で曲が大事にされていなさすぎる問題が目立ってきています。ネット/デジタル時代になったとしても、"データは軽くなったが 音楽の意味は重くなった"のです。この言葉はRHYMESTER「ゆめのしま」の一節ですが、この言葉、そしてリリック全体の意味を、ラジオに携わる者が皆共有しないといけません。ラジオ離れが起きている原因が、音楽を聴く媒体の変化以上に、それを仕方ないなどとして諦めるあまりに業界全体が曲をぞんざいな扱いをするようになったことにあるのではないでしょうか。音楽により感動を、心地よい余韻を残し、ラジオを聴くと音楽がより立体的に感じられると思っていただくべく動かないと、ラジオは間違いなく危機を迎えると断言します。