1月19日放送の『NHK歌謡コンサート』で、大橋純子さんがキーを下げて「シルエット・ロマンス」を歌っていたのですが、その"キー下げ"で思い出したのが、青森在住の歌手、坂本サトルさんがメインパーソナリティを担当する『GO!GO!らじ丸』(RABラジオ 月-金曜 11時55分)で、同様にキーを下げて歌っていた松田聖子さんの"紅白"でのパフォーマンスを非難していたことでした。
松田聖子さんは昨年、『NHK紅白歌合戦』で「赤いスイートピー」を披露していたのですが、"紅白"後初となる『~らじ丸』で、坂本さんはキーを下げていたことを"ニセモノ"と笑いながらネタにしており、さらには番組でパートナーを務める上野アナウンサーに歌ってもらおうと示唆。その際、"こっちがホンモノ"と言っていたのです。躊躇する上野アナウンサーを尻目に、次々とまくし立てる坂本さんの発言の数々に、その曜日はもう聴かないと決めたのでした。その人の作品群にも好き好んで触れるつもりはありません。
たしかにオリジナルバージョンと異なることには違和感を覚えます。おそらくは加齢等に因るキー下げのみならず、リアレンジやフェイクの多用等も違和感の原因でしょう。しかし、肉体の加齢による衰えや、レコード会社の移籍によって移籍前のバージョンがベストアルバム等に収録できないゆえのリアレンジ等、オリジナルバージョンと異なることには様々な理由が想起されるため、自分は納得しています。
(勿論、還暦を過ぎてもキーがそのまま、むしろパワーアップしている人は凄いですし、素晴らしいと思います。数年前に観たライブにおける山下達郎さんのエバーグリーンっぷりには驚かされ、感動しました。)
こんな言い方はよくないのを分かっていながら敢えて書きますが、その非難した側の坂本さんは地元青森に戻り、自主制作で音源を発信しています。今では地方発も自主制作も極々当たり前になってきてはいますが、しかしながらおそらく市井では、東京以外で活動すること、メジャーレーベルではないことを未だに"堕ちた"と捉えている風潮が強いのではないでしょうか。当人は当人なりの事情があるとしても、市井はそれを理解出来ません(し、もっと酷い表現を用いるならば、興味のないことを調べようとか理解しようとはしません)。大橋純子さんや松田聖子さんのキー下げだって無論彼女たちなりの事情があったはすです。仮にその非難した側である坂本さんが市井から、自身の事情を"堕ちた"として捉えられ、"堕ちた"と言われたならばどう思うでしょう。侮辱された、と怒りはしないでしょうか。その仮定と同一の内容を自身が嘲笑込みで話していたということを分かっていただきたいものです。はっきり言って不快極まりなく、いくらラジオは発言が比較的自由であるとはいえど他者を平然と非難する姿勢に快く思わなかったのは自分だけではなかったはず。さらに、同業の歌手ならば加齢等の要因は解るのではなかったかと考えると、それら前提を踏まえない発言には心底悲しくなりました。
そしてこれは市井に対しても通じることですが、よく"昔のほうがよかった"という言葉が用いられることに疑問を覚えます。その考えが漠然とあるのは多くの方に共通することかもしれませんが、その考えに固執しブラッシュアップ出来ないほうが問題だと言われたらどう思うでしょう。加齢等の自然なパワーダウンもあれど、ともすればその歌手なりの進化(味わい深くなった、等)というパワーアップの側面もあるはずで、"昔のほうがよかった"に固執するあまり良さに気付けないのであれば機会損失です。マイナスの考えを平然と口外する人が散見されます(特にSNSで悪口を共有する動きが活発化しています)が、それはよってたかってといういじめのやり方と同じであり、やっている側の人としての愚かさを自ら示しているものと考えます。ならば、物事のプラス面を見る、プラスの側面がなかったなと思うならば言わないほうが人として信頼されるのではないかと思うのです。
(ちなみに昨日、芸能ニュースをネタにした投稿を読んでゲラゲラ笑っていたTBSラジオでのジェーン・スーさんにも正直失望しました。大沢悠里さんが勇退する枠の後半2時間分を担当することになったそうですが、素直に喜べない自分がいるのは事実です。記事をまじまじと読んだと冒頭で語っており、それをネタにしたい雰囲気だったのがバシバシ伝わってきて、そこからの投稿への嘲笑…その下世話さを憂いしばらく聴くのをやめることにしました(前週の放送で駒田アナウンサーと真摯に回答していた姿勢に感銘を受けただけに尚の事)。芸能ニュースをネタにしたりして間接的に当事者を咎めている人は芸能人や文化人でも多いのですが、そういう発言をこれからは、"人としての愚かさを自ら示している"秤と捉えることにしようと思います。)
自分も、今では稀であれどDJを担当する機会がありますが、こういう他者を平然と非難する人たちがDJやナビゲーター、パーソナリティとして鎮座するならそこをどかしたい思いに駆られます。ですが、まずは人の振り見て我が振り直せ、と肝に銘じます。