イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

洋楽のジリ貧化、そして日本版『NOW』の復活を望む

昨日はアメリカ版『Now』の最新作に触れましたが、ここであらためて『Now』シリーズについておさらい。 

『Now』シリーズはイギリス発祥のヒット曲集。英版第一弾『Now 1』は1983年11月28日に発売され、既に30年以上の歴史を持ち、現在までにメイン版(コンピレーション・アルバム発売直前まで流行っていた最新曲を網羅したものという意味で用いています)だけでも89枚がリリースされています。ちなみに米版は1998年10月27日に第一弾が発売、来月にはメイン版の53枚目がリリース、という状況です。これだけシリーズが続いているということはイコール売れているということであり、また自分の昨日の言葉を借りるなら、同シリーズが”時代の瞬間瞬間を捉えている”と広く世間が認識し支持している、と言っても過言ではないでしょう。

 

で、昨日エントリーを書いていて思い出したのが、日本版の『Now』。ありましたよね。『NOW 1』は1993年12月8日発売。

東芝EMIからも1993年に日本版の「NOW」シリーズが発売された。

(中略)

それまでのコンピレーション・アルバムとは比較にならないほどヒットしたため、国内大手レコード会社はこぞって自社所有のヒット曲を集めた作品を製作した。代表的なものに、前出の「BEAT EXPRESS」や「NOW」シリーズ、「MAX」シリーズ (ソニー・ミュージックエンタテインメント)、「HITS」シリーズ (ワーナーミュージック・ジャパン)、「MEGA HITS」シリーズ (BMG JAPAN)などがある。これらは、いずれもヒットすることにより、シリーズ名がブランド化し、本来のテーマからスピンオフした作品が数多く発売された(NOWシリーズの「NOW JAZZ」など)。

Wikipedia - コンピレーション・アルバムより

1994年度のオリコン年間アルバムランキングを見ると、上記掲載のコンピレーション・アルバムの勢いがよくわかります。

東芝EMI発『NOW 1』…約84万枚・10位(洋楽1位)

 (ちなみに『NOW 2』…約26万枚・69位)

ソニー系『MAX 1』…約27万枚・64位 (翌1995年度は約88万枚・20位)

BMGビクター系『MEGA HITS 1』…約35万枚・45位

ワーナー系『HITS 1』…約23万枚・78位

オリコン アルバム 1994年TOP100より

いずれも好成績を上げており、これがブームの火付け役になったことは間違いないでしょう。他にもマーキュリー系『JUMP』やポリドール系『BOW WOW』も登場しました。

 

ですが、今やこれらシリーズの、特にメイン版に関しては、”とうの昔に”終了しているんですよね。

東芝EMI発『NOW』…パート12まで(2001年9月『NOW 2001』)

  2009年11月に『NOW YO-GAKU HITS』リリースあり

ソニー系『MAX』…パート7まで(2001年12月『MAX 7』)

  コチラにデータベースあります(注意:音が出ます)

BMGビクター系『MEGA HITS』…パート6まで

  (1998年6月『MEGA HITS DELUXE』)

ワーナー系『HITS』…パート3まで(1996年4月『HITS 3』)

  その後1997年4月に『ヒット丼』リリースするもメイン版は1作のみ

『JUMP』も『BOW WOW』も長続きせずじまいでした。また、『NOW』のシリーズは最近もリリースされているのですが、いわゆるディケイドもの(70年代、80年代等のくくり)などの派生版のみであり、メイン版は出ていません。

 

米英で続いている『Now』と日本版の『NOW』等コンピレーション(の終焉)、この差はなんでしょう。先に引用したWikipediaでの、中略した部分にその答えがあります。

東芝EMIからも1993年に日本版の「NOW」シリーズが発売された。ただし日本版NOWでは、収録曲は東芝EMIの所有している洋楽の楽曲のみで、ヒットチャートに登場した曲以外にもテレビCM等のタイアップ曲が収録されたアルバムであった。この当時のコンピレーション・アルバムの主な目的として「レコード会社における、自社の保有する音源の有効活用」があったため

Wikipedia - コンピレーション・アルバムより

”タイアップ曲が収録”について。なによりも印象的なのは日本版『NOW 1』の冒頭を飾ったのがクイーン「伝説のチャンピオン(We Are The Champions)」だったということ。1977年の曲が、仮にタイアップで用いられていたとしても(1993年の段階でタイアップがあったかは最終的に見つからずじまい…説得力が薄れてしまい申し訳ありません)、最新曲集に入っているのは違和感以外のなにものでもないですよね。その点で、先行していた英版と違う…と思った方は少なくないでしょうが、その違和感よりもコンピレーション・アルバムの珍しさやお得感が勝って購入に至った方が多いかもしれません。

そして、”東芝EMIの所有している洋楽の楽曲のみ”について。これは何も東芝EMIに限ったことではなく、どのコンピレーションにも残念ながら共通していました。逆に、昨日触れた米版『Now 53』収録曲の日本での発売元を見てみましょう。

 

Now 53: That's What I Call Music

Now 53: That's What I Call Music

 

01. Mark Ronson w/ Bruno Mars - Uptown Funk (ソニー)

02. Meghan Trainor - Lips Are Movin' (ソニー)

03. Maroon 5 - Animals (ユニバーサル)

04. Ed Sheeran - Don't (ワーナー)

05. Tove Lo - Habits (Stay High) (日本盤未発売 ユニバーサルにサイトあり)

06. Ariana Grande w/ The Weeknd - Love Me Harder (ユニバーサル)

07. Sam Smith - I'm Not The Only One (ユニバーサル 注意:音が出ます)

08. One Direction - Steal My Girl (ソニー)

09. Selena Gomez- The Heart Wants What It Wants (日本盤未発売 エイベックスにサイトあり)

10. Jason Derulo - Trumpets (ワーナー)

11. Iggy Azalea w/ MØ- Beg For It (ユニバーサル 注意:音が出ます)

12. Usher w/ Juicy J - I Don't Mind (アルバム未発売 ソニーにサイトあり)

13. Charli XCX - Boom Clap (ワーナー)

14. Mr. Probz - Waves (日本盤未発売)

15. Calvin Harris w/ John Newman - Blame (ソニー)

16. Coldplay - A Sky Full Of Stars (ワーナー)

17. WALK THE MOON - Shut Up And Dance (日本盤未発売 ソニーにサイトあり)

18. Fancy Reagan - Knock Me Out (不明)

19. Zara Larsson Official - Uncover (不明)

20. Danny Mercer - Who Are You Loving Now? (不明)

21. Jack and Eliza - Hold The Line (不明)

(トラック17~21が新人さんいらっしゃい的な内容のため、まだ日本盤リリースが不明な部分はあります)

2013年4月にユニバーサルがEMIミュージック(旧東芝EMI)を吸収合併したことを踏まえれば、非常にバランスの取れた構成と言えるでしょう。つまり、レコード会社の枠を越えて収録に至っています。ソニーが発売元だからといって自身の音源に肩入れしないのは、英米版『Now』シリーズがこれまで築き上げてきた公平性に沿うものと言えるでしょう(もしかしたら、英米版『Now』はシリーズ当初からその”肩入れしない”点を暗黙のルールにしていたのかもしれません)。

 

だからこそ、最初の英版『Now』がヴァージン/EMIから出たからといって、日本では(当時の)東芝EMIが”Nowブランド”を自己の利益のためにだけ用いたというのはあまりにも自分勝手というか。厳しい物言いを敢えてするなら、『Now』シリーズのブランドイメージを日本だけ著しく失墜させたと言っていいでしょう。無論、仮に英米並にレーベルの垣根を越えた『NOW』をコンスタントに出したからと言って英米並のヒットを築く保証はどこにもありませんが、『Now』シリーズは洋楽を身近にさせるのに最も効果的且つ手が届きやすいコンピレーション・アルバムであり、そして時代の瞬間瞬間を捉えるという点で文化的側面にも応えていたはずです。

(それ以前に、英米版の『Now』は母国語(英語)の曲を収録…とあらば、日本で発売される『NOW』シリーズは邦楽最新曲集であるべきなんですよね。一部『NOW』や『MAX』で邦楽版は出ていましたが当然レコード会社の枠を越えることはなし。いや、それ以前に事務所の関係等で十中八九出来ないだろうということはほとんどの方が容易に想像出来そうですが)

 

 

洋楽の”惨状”は思ってた以上に凄まじく、日本レコード協会による、過去10年間のCD生産金額の推移をみると、洋楽CDの2013年における生産額は2003年と比較して、およそ29%しかありません(一方で邦楽CDは約63%。無論これでもかなり低いですが)。前にここで洋楽の国内盤発売の遅さを憂うというエントリーを書いたのですが、後にこの数値を見つけて愕然としてしまいました。たしかにこれでは、たとえばどのCDを国内盤化するか(予算を割り振りするか)など、慎重にならざるを得ないという心理状態になるのは自然なことかも…と一瞬思ったのです。

日本版コンピレーション・アルバムにおける利己的且つ【ビジネス>文化の普及】という重点の置き方や、更には結果が出なくなると即座に撤退する等の、それこそ中長期的ではない(超)短期的なやり方を反復した結果、邦楽以上に圧倒的に売上比率が下がり歌手も、そしてレコード会社もジリ貧に陥ってしまったのは揺るぎようのない事実。先のエントリーで『中長期的ではない戦略では最終的には歌手も、レーベル自体も報われないのではないか』と現状を憂いたのですが、既にコンピレーション・アルバムの終焉の際にはそんな報われない状態になっていたということなんですよね。ならば、これ以上陥ってしまわないよう、今からでも遅くはないので日本版『NOW』を英米版と同じ意義で出し直すのはどうでしょうか。それを広く洋楽の登竜門と位置付けし、『NOW』を経て各歌手のCDセールスへ結びつけるよう道筋をつけるという、中長期的なビジョンを採ってみるのはいかがでしょう。無論これが最善というわけでは決してないものの、ジリ貧の現状を考えれば躊躇っている場合ではないと思うのですが。

 

 

なお、毎年恒例のコンピレーション・アルバムのひとつ、米グラミー賞のノミネート作品を集めたグラミー・ノミニーズの最新作、『2015 Grammy Nominees』がトラックリストを公開。こちらもレコード会社の枠を越えて収録され、このシリーズに関しては国内盤もリリースされています。が、たとえば最新作などにおいて、日本では馴染みの薄いカントリーも収録されており、(これはこれでありだとしても)やはり日本で馴染みのある曲を主体としたコンピレーション・アルバムは必要だなあと思ったりしています。