イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

洋楽の国内盤発売の遅さを憂う

ここ最近、洋楽CDの国内盤発売について一つの潮流があること、ご存知でしょうか? それが、【日本デビュー作の、現地発売からのタイムラグの長さ】なんです。漠然とこのことを抱いていたんですが、下記ブログを発見、読んでみて、筆者の見解と合わせてかなり納得しました。

・洋楽と美術形式 - 洋楽の国内盤発売が遅い件

 

上記ブログで述べられた以外の例を挙げてみましょう。先日書いた"レンタル前倒し解禁"エントリーでも触れたアリアナ・グランデについて、彼女のファーストアルバム『Yours Truly』もそのタイムラグの好(?)例でした。ユニバーサルのホームページでは、同作のタイムラグがはっきりと分かる形で掲載されています。

・『Yours Truly』現地(輸入盤)発売 2013/8/30 → 国内盤発売 2014/2/5

実に5ヶ月強のインターバルがあったんですね。

先日発表されたJ-WAVETOKIO HOT 1002014年の年間チャートで、アリアナは客演を含め4曲をランクインさせましたが、最高位を記録したのは処女作からの「Baby I」(8位)。可愛らしくキャッチーなのでラジオ向きだなあと実感したこの曲。耳にしたことあるという方は多いと思います。

 

この曲が大ヒットに至るまでの経緯を調べてみると、見えてくるものがあるんですよね。というわけでユニバーサルのアーティストページのニュース項目を参照に、列記してみます。

・2013/12/2…2014年2月に『Yours Truly』国内盤リリースとアナウンス

・2013/12/4…「Baby I」着うた配信開始 (配信開始週に各配信先で1位を獲得)

・2013/12/16…新企画”UNIVERSAL INTERNATIONALアンバサダー”の第一弾アーティストにアリアナが選出される

・2014/1/5…『プレミアム・ショーケース~お年賀付ミニ・ライヴ!』@SOUND MUSEUM VISION 開催

・2014/1/5…J-WAVETOKIO HOT 100出演 (翌日には同局別番組にも)

・2014/1/7…日本テレビ『スッキリ!』出演

・2014/1/15…フジテレビ『めざましテレビインタビュー放送

・2014/2/5…フジテレビ『笑っていいとも!出演

・2014/2/5…日本デビュー記念イベントをタワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIOにて開催。1日店長イベントも同時開催

・2014/2/6…フジテレビ『めざましテレビ出演 (パフォーマンスも)

・2014/2/7…日本テレビ『ZIP!』出演。同日、J-WAVE『PARADISO』出演

・2014/2/12…『Yours Truly』が2/17付オリコン週間アルバムランキング(集計期間:2/3~2/9)にて、アルバムチャート総合3位、洋楽1位を獲得と発表

主だった動きを挙げるなら上記の通り(ラジオ出演に関しては、歌手ならば通常業務と考え、J-WAVEに絞って掲載)。日本盤リリースのアナウンスから3ヶ月後の発売日までに、なんと2度も来日という予算の使い方には驚かされます(昨年末までには更に2度、合計4度も来日)。しかも国内盤発売までの間には『Mステ』でのパフォーマンスはなく、地上波ではワイドショー的なものばかりに出演しているんですよね(尤も最近の洋楽の売り方の傾向ではあるし、またアメリカでは朝の番組出演はいつものことらしいのですが)。

『Yours Truly』は2013年初秋に全米では初登場1位を記録しており、こちらでももっと前から注目されて然るべきだったとは思うのですが、日本ではタイムラグを設けた分じわじわと、でも確実に露出を測ったのが分かります。さらに、本来ならアメリカでの第1弾シングルである、マック・ミラーを客演に迎えた「The Way」(全米9位)ではなく、「Baby I」をシングルに据えたという点も特筆すべきであり、全米21位(いずれも順位はWikipedia参照)とさほど振るわなかったこの曲を前面に押し出たのは、バキバキなヒップホップテイストの強い曲よりかわいらしい系がウケるだろうと判断してのことといえるでしょう。これが功を奏した形となるわけです。

そして、アリアナの知名度と人気が上昇したタイミングで昨年8月にセカンドアルバム『My Everything』を発表。こちらは日米のタイムラグはほとんどないのですが、国内盤のみのボーナストラックとして、葉加瀬太郎参加による「Baby I」の新バージョンを用意し、ボーナストラックにも関わらず同バージョンを”先行曲”と据えてiTunes Storeにて先行配信、トップソングチャートで1位を獲得しています。これらから判断するに、セカンドアルバムに至るまでに「Baby I」熱を冷めやらぬ状態に持っていったことで、”え?アリアナもうアルバム出したの!? すごい!”という好意的なイメージを作り上げることに成功したといえるでしょう(無論、その前後の『Mステ』や『スマスマ』出演等も大きく後押ししているものと言えますね)。

 

 

アルバムリリースまでの知名度上昇の戦略、矢継ぎ早の投入、そして先行曲選びの日本独自路線を踏まえるに、レコード会社が実に用意周到だったと思うのです。結果的に、アルバムの日本での売上も、『Yours Trulyが10万4千枚でオリコン年間42位、『My Everything』が12万6千枚で同35位。輸入盤合算の数値ではあれど、国内盤の威力が大きかったことは間違いないでしょう(枚数、順位はPRiVATE LiFE 年間ランキング参照)。アリアナの、当初はポストマライアと評された非凡な歌ヂカラが音楽好きを超えて(そこまで音楽に強い興味を抱いてはいないかもしれない)世間一般に浸透していくのは、彼女を以前から注目していた自分からすれば純粋に嬉しい、とは思っています(上から目線かもしれませんが…)。

 

とはいえ…はっきりいって、釈然としないんですよね。用意周到だったことは、別の言い方をするならば、発売タイミングを”敢えて”遅らせたことでもあるわけです。音楽ファンからすれば国内盤が欲しくても買えない(そして国内盤にこだわりたかったけれど待ち切れないので輸入盤を買ったら、大量のボーナストラックなどを付属させた国内盤が遅ればせながら出ることを知って愕然)、というジレンマを抱かせかねないのではないかと。そこから想起出来ることは…。

・輸入盤と同時(もしくはそれに近いタイミングでの)リリースでは、”手探り”ゆえに売れない、もしくは売りにくいと判断したのでは

・”後出し”となると、現地での状況(売れ方、マーケティングの成果等)があらかじめ分かるため、日本での露出の仕方やシングルカットを何にすればいいか等を判断しやすい

・”後出しは音楽ファンに失礼だ!"と非難される可能性があるとしても、大量のボーナストラックなどでお得感を演出するなどすれば、国内盤に対してむしろプラスの印象を抱いてくれかねない、更には輸入盤買った人でもまた買ってくれるかもしれない、などと考えている

穿った見方を覚悟でまとめるならば、後出しに長けるようになっ(てしまっ)たレコード会社は、"冒険心が失せた"、”度胸がなくなってしまった”のだと思います。

良質な作品、現地で話題の作品を手探りででも浸透させたいというのではなく、売れる可能性が非常に高いと前以て分かっている作品にデフォルトの路線(朝ワイドショーなどの露出等)を敷かせる準備さえすれば、確実に世間に浸透出来るようになる、だからそうする(のみ)…というのが今のレコード会社の戦略の主だったやり方なのかもしれません。だとすれば、なんというか情けないなあと。さらに言えばそれは、その歌手の日本でのデビュー作のみ、もしくは矢継ぎ早に投入される次作があるならばそこまでにしか成り立たない戦略なわけで、中長期的ではない戦略では最終的には歌手も、レーベル自体も報われないのではないかとすら思ったり。それ以前の問題として、"知名度はさほど高くないけれど良質な曲が日本では浸透しない"というイメージ(烙印)が定着してしまったならば笑い者じゃないかとすら。

 

 

レコード会社には今一度、度胸をつけていただきたいものです。