イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

加藤ミリヤ「少年少女」に中島みゆきの魂を見る

昨日に続き、またもRABラジオ『GO!GO!らじ丸』(毎週月-金 11:55~16:00)の、昨日のラストで流れた曲の話。

加藤ミリヤ「少年少女」が凄かったのです。先週リリース済だということは恥ずかしながら知りませんでした…。

ミリヤ流”フォークソング”と銘打ったこの曲。これまでのR&BやEDM(ライクなポップソング)のイメージを完全に覆す、自身による作詞作曲の作品。優しさと慟哭、強さと弱さという相反するものを同時に抱えたかのようなヴォーカルが曲に説得力をもたらします。既に2枚のベストアルバムをリリースしその実力が認められた彼女の、新境地がこれだとは…曲のストレートさと彼女の決意とが感じられ、聴いたときに衝撃が走りました。フォークに、メッセージ性の強い曲に彼女がこんなにも合うとは。

 

歌詞を調べるべく、”加藤ミリヤ 少年少女”と検索すると、関連ワードに登場するのが”中島みゆき”、そして”ファイト”。

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(Yahoo!にて検索)

たしかに、「少年少女」には中島みゆき「ファイト!」との共通点が見て取れます。

加藤ミリヤ「少年少女」中島みゆき「ファイト!」の共通点

・主人公が逆境に置かれている

・拳というフレーズが共に使われる(用いられる状況は異なるが)

・”輝く”と、”光ってる” ”きらきらと”いう似たフレーズが用いられる

・サビで力強いメッセージがある(”走って行け” / ”ファイト!”)

・イントロの有無はあれど、シンプルな伴奏ではじまる(アコギ / ドラム)

・3連リズムである

3連リズムについては昨年暮れの『亀田音楽専門学校』(Eテレ)での説明が分かりやすいです。視聴メモされた方のブログを勝手ながら紹介させていただきます。

揺れてハネる3連リズム (亀田音楽専門学校2第10回メモ)|先端ポピュラー音楽中学院中学

「ファイト!」はイントロのドラムや最後のサビでの(これまた)ドラムのリズムパターンを聴くと3連ではないなと錯覚してしまうのですが、出だしの”あたし”からして実は既に3連リズムなんですよね。

 

で、「少年少女」のリリースのタイミングで加藤ミリヤインタビューが掲載されていました。そこには”中島みゆき”という言葉が出てきますので、間違いなく詞世界は意識してのものでしょう。

──元々フォークというジャンルには興味があったの?

加藤 ありましたね。中島みゆきさんの書かれるメッセージ性の強い歌詞は、昔から尊敬していました。人間としてももちろん、女性としての強さというか、とても素晴しいなと思っていたんです。いつか自分もそんな歌がうたってみたいという想いは前々からありました。そして、今回、いろいろと考えた流れのなかで浮かんできたのが、みゆきさんのような魂の叫びに近い歌でした。

加藤ミリヤ 【前編】加藤ミリヤが2015年第1弾シングルでフォークに挑む | DAILY MUSIC(デイリーミュージック)より

 

一方で、「少年少女」と「ファイト!」では異なる部分もあります。特に詞世界における主人公の数(前者が複数、後者が一人と読み取ることが出来る)、そして置かれた逆境の表現方法。「ファイト!」では、その詞世界の”奥深さ”からそこに込められた意味を考察するブログがあるほどなのですが(特に中島みゆき「ファイト!」 歌詞の意味を考える長文1 ( ゲーム ) - ゆっきーの夜想曲 - Yahoo!ブログは凄く参考になりました。勝手ながら紹介させていただきます)、他方「少年少女」はよりリアルというか直接的。より分かりやすいかもしれません。

── (一部省略) みゆきさんの歌は、 “力強さ”よりも、主人公の背景を感じさせる“奥深さ”が魅力だと思うんだけど、ミリヤちゃんの「少年少女」は、すごく強い印象を残してくれたというか。言葉なのかな? って思ったりもしたけど。

加藤 それすごくわかります。言葉はいつもとすごく意識的に強いものに変えてみたというか、自分のことを歌っているのではなく、架空の物語を語っているということもあり、いつもとテイストが違いますね。

加藤ミリヤ 【前編】加藤ミリヤが2015年第1弾シングルでフォークに挑む | DAILY MUSIC(デイリーミュージック)より

なるほど、加藤ミリヤさんは主人公の置かれた状況を敢えてリアルな表現にすることにこだわったのですね。とりわけ”畜生、悪いのはこの時代に生まれた俺の運だろう”という歌詞における、上手く言えませんが”逃げ”のような言葉は、今の時代だからこと説得力を帯びているような気がしますね。時代の変遷によって、奥深いものから直接的で力強い歌詞がより支持されるようになったのかもしれません。

(だからといって奥深い歌詞が受け入れられにくくなったとは思いませんし、また今の聴き手が奥深い詞世界を掘り下げる力が弱くなったとも思いませんが)

 

この曲が、これまでの加藤ミリヤファンからすればどう受け止められるかは分かりません。ですが、彼女はタイアップ曲ではない「少年少女」を前面に出したわけです。彼女の挑戦を真正面から受け止め、聴き込んでいきたいと思います。

 

 

 

最後に苦言というか。彼女の挑戦が支持されるか否かはわからないとしても、事務所やレコード会社は「少年少女」を盲信的なまでに推して欲しかったなと。上記YouTubeの動画ではタイアップの付いたカップリング曲の一部が冒頭に流れるという変則的な形になっていて、もしかしたら”「少年少女」によってこれまでの加藤ミリヤ像が壊されかねない、だからこれまでのイメージに則した曲もありますよ” という事務所やレコード会社の意向というか、”予防線”なんじゃないかと。だとすれば、彼女の挑戦を心から歓迎していないのでは?…と考えることは、邪推でしょうか。